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【国内最大の鉄道会社】JR7社のリーダー格。関連事業を強化。

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東急電鉄、値上げ申請 「3年間赤字継続」想定のワケ

日経ビジネス
値上げラッシュ
コラム
2022/1/28 2:00
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日経ビジネス電子版

東急電鉄が2023年春の値上げを目指し、国土交通省に運賃改定を申請した。値上げ幅は平均12.9%で、長年保ってきた「大手私鉄で最安値水準」の看板を下ろす。値上げが認められるのは、今後3年間赤字が継続すると見込まれる場合。東急は新型コロナウイルスが収束しても定期券利用客の客足は戻らず、鉄道事業で年平均150億円の赤字が出ると想定する。さらに値上げをしても、黒字化は難しいとみる。置かれた状況はどの鉄道会社も同じだが、東急のように今後も赤字が継続する前提での事業計画はそもそも立てにくいという声も聞かれる。東急の値上げはすんなり認められるか。

東急電鉄は1月7日、国土交通省に運賃値上げの申請を行った。2023年春の実施を目指す。認可されれば、消費税率の変更によるものを除くと05年以来18年ぶりの運賃値上げとなる。改定率(値上げ率)は普通運賃が13.5%、定期運賃が12.1%。現行130円(ICカードは126円)の初乗り運賃は140円(ICカードも同額)に10円(ICカードは14円)上がる。

これは小田急電鉄京王電鉄を10円上回り、首都圏のJR東日本(電車特定区間)と同額。5km乗った場合の運賃160円(ICカードは157円)が180円(ICカードも同額)に上がり、JRの160円(ICカードは157円)よりも高くなる。

運賃改定後は首都圏のJRよりも高めの料金水準となる

運賃改定後は首都圏のJRよりも高めの料金水準となる

記者は生まれてから約40年間東急沿線に住み続けているが、まさかJRよりも高い運賃を支払う時代が来るとは思ってもみなかった。東急は長年、JRはもちろん他の私鉄よりも安い運賃だったからだ。他の鉄道会社の初乗り運賃が100円以上になっても、東急だけが1995年まで初乗り90円と2ケタを維持していたことは特に印象に残っている。しかし今回の値上げで、初乗りを含めて大手私鉄最安の座を京王に譲ることになる。

東急がこれまで他社よりも安い運賃でも運営が成り立ってきたのは、路線網が東京・神奈川の人口密集地帯に集中し効率輸送を実現できたからだ。1つ目の柱である東横線は渋谷と横浜を結び、朝夕のラッシュ時だけでなく1日を通じて利用が多い。2つ目の柱である田園都市線は、半世紀以上かけて開発してきた「多摩田園都市」に約60万人が居住するようになり、膨大な数の通勤・通学客を生み出した。コロナ前の19年3月期の年間輸送人員は11億8931万人で、大手私鉄でトップ。2位の東武鉄道は9億2643万人(19年3月期)だが、同社は群馬や栃木にも展開しており路線長は463.3kmもある。これに対して東急は104.9kmにすぎず、効率性は際立っている。

東急は1995年(平成7年)まで初乗り運賃が90円で、他社より割安だった

東急は1995年(平成7年)まで初乗り運賃が90円で、他社より割安だった

ところが今、この強みに逆風が吹いている。コロナ禍で全体の6割を占めていた定期券利用者が急減し、東急の21年3月期の年間輸送人員は8億578万人へと3割以上も減少した。緊急事態宣言が解除された今期は幾分持ち直してきているものの、定期券の運賃収入については依然としてコロナ前の3割減。関東の大手私鉄では最大の減収率だ。通勤定期の運賃収入を月別で見ると、21年は20年の同月実績と比べてもさらに減少しており、下げ止まる気配はない。

理由として考えられるのはテレワークの定着だ。東急によると、沿線地域(17市区)の1人当たり課税所得は全国平均の1.5倍で、世帯年収1000万円以上が34万世帯も居住しているという。大手企業に勤めている住民が多いと推測される。大手企業ほどテレワーク環境の整備が早く進んでいるため、わざわざ都心まで通勤する必要性がなくなりつつあるというわけだ。

利用客の減少は新型コロナウイルスによる一過性のものではなく、今後も回復が難しい――。そう考え、運賃改定を決めた。

もっとも、鉄道事業は地域独占で競争原理が働きにくいことから、利用者への影響が大きい運賃改定は国交省の許認可事項となっている(特急料金などは届け出だけでよい)。具体的には、人件費や減価償却費などのコストに適正な利潤を上乗せした「総括原価」を基に運賃を決定する。値上げに当たっての最大の難関は「鉄道事業で今後3年間にわたり、赤字の継続が見込まれること」が事実上、認可の条件になっている点だ。過去も赤字経営を続けてきたローカル鉄道なら話は早いが、東急はこれまで鉄道事業で収益を上げていた。状況が大きく変化し、かつそれが続くことをシナリオとともに示す必要があった。

東急が国交省に提出した総ページ数122ページという膨大な資料には、現時点で想定され得る将来像が事細かに記載されている。読み解いていこう。

まず輸送人員の見通しだ。26年3月期まで、毎年の定期外・定期の利用客数の予測値が記載されている。23年3月期は前年比7.6%増、24年3月期は同5.5%増、25年3月期は1.6%増と緩やかな回復を見込むとしたが、26年3月期は頭打ちになると推測している。その時点での年間輸送人員は10億2435万人で、コロナ前よりは1割以上少ないままだ。特に定期券の利用客は5億5843万人で、コロナ前と比べて2割以上落ち込んだ状態が続くとみる。「定期券の売り上げが今後回復する可能性は低い」と東急電鉄経営戦略部の小井陽介統括部長は説明する。

定期券利用客の戻りが鈍く、コロナ前には戻らない

定期券利用客の戻りが鈍く、コロナ前には戻らない

一方、運行にかかる費用はどうなるか。24年3月期から26年3月期までの3年間の平均は年間1562億円で、21年3月期の1462億円よりも多くなると試算されている。なぜか。

理由は2つある。1つは今後、人件費や修繕費、減価償却費などの増加が見込まれていることだ。東急はコロナ禍前の5年間、年平均で約540億円の設備投資を続けてきた。これは「関東の大手私鉄7社平均の2倍以上」(小井氏)という大規模なもの。20年3月には他社に先駆けてホームドア・センサー付き固定式ホーム柵を全駅に設置し、20年7月には全車両への防犯カメラの設置を完了。21年には全135カ所ある踏切全てに障害物検知装置を設置した。安全性は飛躍的に向上したが、これが減価償却費などのコスト増につながっているという。鉄道事業に要する費用は、06年3月期と比較して約300億円、率にして3割も上昇した。

全駅にホームドア・センサー付き固定式ホーム柵を整備するなど、安全投資に力を入れてきた

全駅にホームドア・センサー付き固定式ホーム柵を整備するなど、安全投資に力を入れてきた

もう1つは、今後も設備投資を継続する必要性だ。コロナ禍で安全に関わらない部分の投資を凍結しているものの、他路線との競争力を維持するためにはいつまでも先延ばしにできないという。

21年3月期は設備投資額を259億円と大きく減らしたが、今期は435億円。今後も平均450億円規模の設備投資が必要だと訴える。老朽化した車両を置き換えるため、年30両ずつ新型車両を導入するのに約100億円。駅の改良に60億~70億円といった具合だ。

その結果、現行の運賃のままでは、鉄道事業で年平均150億円の損失が出ると試算した。312億円の損失を出した21年3月期と比べると改善するが、看過できる数値ではないとする(いずれも国交省の申請ルールに基づき算出しており、決算で公開される鉄道事業の業績とはずれがある)。

こういったシナリオを基に、改定率が定期・定期外平均で12.9%値上げという申請内容を作成するに至った。ただ、それでも鉄道事業が黒字化するとはみていないという。申請資料によると、運賃改定をしても年6億円程度の損失が出る見込みだ。

その理由について経営戦略部の五島雄一郎総括課長は「家計への負担を考えて、通学定期券の運賃を据え置くため」と話す。通勤定期は通勤手当という形で、原則として雇用主が負担する。しかし通学定期券の値上げは子育て世帯の負担増に直結する。図らずも、子育て世帯を誘致しようと小田急電鉄が子供料金の一律50円への値下げを発表した後の値上げ申請となり、配慮が必要となった。

さらに沿線間競争の観点から、シニア向けの定額乗り放題パスや、ファミリー向けの休日1日乗車券などの導入も検討を進めている。これらも考慮すると、値上げ幅は12.9%でも、実質的な増収率は10%未満と見込まれるという。五島氏は「新たな需要の喚起など自助努力で収支改善を目指したい」とする。

設備投資と黒字化、どちらを優先すべきか

他社はどう見るか。多くの鉄道事業者が、コロナ禍だけを理由とした値上げは難しいと考えている。JR西日本の長谷川一明社長は、現時点で運賃値上げは予定していないとしたうえでこう話す。「運賃値上げが認められるためには、今後3年間赤字が続く事業計画を立てることになる。鉄道事業が過半を占める当社では最終赤字を認めることになり、難しい」

東急の場合、連結売上高に占める交通事業(鉄道やバス)の割合は2割に満たない。22年3月期は好調な不動産事業の収益などが交通事業の赤字をカバーし、100億円の最終利益を見込む。

株式市場を意識すれば、今後3年間、最終赤字という事業計画を立てるのは困難だ。そのためJRなど鉄道事業の割合が大きい企業は、設備投資の抑制など経費削減でどうにか収支を合わせようと苦悩する。一方、東急はグループ全体では黒字化できており、だからこそ鉄道事業に限れば赤字になるという実情をさらけ出せたとも言える。

申請内容だけを見ると最低限度に抑えた値上げに見えるが、正直、このシナリオが正しいかどうかの見極めは難しい。東急は東横線のワンマン運転など合理化も進めると説明するが、経費削減と競争力維持のバランスに正解はない。現在、国交省がパブリックコメントを募集しており、値上げの妥当性の判断は運輸審議会に託されることになる。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2022年1月25日の記事を再構成]

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