メニューを閉じる
2022年5月19日(木)
9022 : 陸運 日経平均採用 JPX日経400採用

【東海道新幹線】好採算の新幹線が収益源。グループで新事業展開。

現在値(15:00):
16,510
前日比:
+5(+0.03%)

20年目のエクスプレス予約 JR東海は観光需要狙う

日経ビジネス
コラム
サービス・食品
2021/12/27 2:00
保存
共有
印刷
その他

東海道新幹線のインターネット予約比率は年々高まっている

東海道新幹線のインターネット予約比率は年々高まっている

日経ビジネス電子版

東海道・山陽新幹線のインターネット予約サービス「エクスプレス予約(EX予約)」が20周年を迎えた。登録会員数は850万人を超え、ネット予約やチケットレス乗車が当たり前の光景になった。首都圏や関西圏に販売拠点が少ないJR東海の顧客囲い込み策として始まったEX予約だが、2022年春にはJR東日本が管轄する都区内や横浜市内などの駅でも、指定席券売機などで切符が受け取れるようになる。新型コロナウイルス禍により、ネット予約比率を高めて有人窓口を閉鎖したいJR各社の方針が一致したためだ。今後は、宿泊や観光プランなども予約できるようにする予定。コロナ収束後を見据え、ビジネス需要だけでなく観光需要も取り込む予約プラットフォームの役割を担う。

なぜインターネットで予約した切符が出張先で受け取れないのか――。東海道新幹線を利用したとき、そんな思いを抱いたビジネスパーソンは少なからずいるのではないだろうか。JR東海が運営する「エクスプレス予約(EX予約)」「スマートEX」で予約した切符は首都圏にあるJR東の駅では受け取れない。逆に、JR東が運営する「えきねっと」で予約した切符は、関西地方や中部地方では受け取れない。そんな不便な状況が22年春、ついに改善される。両社が切符の相互受け取りを始めるためだ。

JR東海の営業本部システム開発・運用グループの中野久司氏は「両社ともチケットレス化を進めており、切符の発券数は減ってきている」と話す。コロナ禍による業績悪化を受け、JR各社は有人の「みどりの窓口」を閉鎖し、券売機への置き換えを進めている。そのためにはネット予約の比率をさらに高める必要があり、両社の方針が一致した。

EX予約が生まれたのは今から20年前の01年のことだ。長年、不便な状態が続いた背景に何があったのか。

今でこそ750万人を超える会員が登録するEX予約・スマートEXだが、当初はJR東海が発行するクレジットカード「JR東海エクスプレス・カード(エクスプレスカード)」会員向けのインターネット予約サービスとしてスタートした。このカードはもともと、東海道新幹線などを電話予約できることを売りに、1989年から会員募集を始めたものだ。

東海道新幹線を有するJR東海は、JRグループのなかで最も高収益な企業として知られる。恵まれた事業基盤が注目されがちだが、1つ大きな弱みがあった。首都圏と関西という巨大マーケットに販売拠点をほとんど持っていなかったことだ。国鉄の分割民営化で、首都圏の在来線はJR東、関西の在来線はJR西日本の管轄となり、JR東海の窓口は東京駅、京都駅、新大阪駅といった新幹線停車駅に限られた。多くの乗客は在来線の駅で切符を購入して新幹線に乗り換える。JR東海はJR東やJR西に依存せざるを得ない事業構造を宿命付けられていたのだ。

これはJR東海にとって大きな課題だった。JR他社が切符を売った場合、販売手数料を支払うルールがあるからだ。その水準は非公表だが、関係者によると5%程度とみられる。その分、営業利益率を押し下げることになるため、JR東海は会社発足直後から直販率を上げる様々な施策を打ち出してきた。駅から離れたオフィス街に発券窓口を開設したり、ファミリーマートの店頭に予約センターへの直通電話を設置し、翌日以降に店舗に切符を配送して受け取れるようにしたりしたのだ。エクスプレスカードもその1つで、電話で切符を予約してもらい、JR東海の窓口で切符を発券するものだった。

もっとも、電話予約は広く普及しなかった。カード利用者が一気に増えたのは、2001年にEX予約が始まり、ネットで簡単に予約できるようになってからだ。シートマップで空席状況を確認して希望の座席を選べるうえ、発券する前であれば何度でも手数料なしで変更が可能(通常の切符の変更は1回まで)。年会費は税別1000円かかるが、窓口よりも安い料金で購入できるうえ、乗車ごとにたまるポイントでグリーン車に無料アップグレードできることから、出張族のビジネスパーソンを中心に会員数が飛躍的に伸びた。

ただ、直販率を上げるという方針からEX予約の切符はJR東海の窓口で受け取ることが大前提。06年に予約エリアが相互乗り入れ先の山陽新幹線全線に広がるとJR西の各駅でも受け取れるようになったが、列車が乗り入れるわけではないJR東へは広げなかった。

08年、ネット予約は新たな段階に入った。チケットレスの「EX-ICサービス」を始めたのだ。当時、EX予約の会員数は100万人に達していた。首都圏ではJR東海が管轄する新幹線の駅窓口や券売機でしか切符が発券できないこともあり「利用者が集中すると30~40分待たせることもあった」(中野氏)。そこで専用ICカードを改札機にタッチするだけで新幹線に乗れるようにした。

2008年に専用の「EX-ICカード」によるチケットレスサービスを開始

2008年に専用の「EX-ICカード」によるチケットレスサービスを開始

さらに17年には、年会費なしでネット予約できる「スマートEX」を開始。専用ICカードではなくSuicaなどの交通系ICカードでチケットレス乗車できるようになった。年会費が必要なEX予約は、出張が多いビジネスパーソンが中心だったが、スマートEXは観光客や若年層にも普及。21年11月末時点では登録会員数が約472万人となり、EX予約の約382万人を大きく上回っている。

チケットレス乗車はICカードからQRコード、顔認証へ

交通系ICカードで新幹線に乗れるといっても、料金がカードの残高から差し引かれるわけではない。料金は予約時にカード決済されており、交通系ICカードは予約情報とひも付いた「カギ」として用いられるだけだ。具体的には、各改札機に「このカードの保有者はこの列車を予約している」という情報がリアルタイムでダウンロードされており、タッチされたカード番号と照合して改札機を通過させている。

2017年には交通系ICカードをタッチして乗車する「スマートEX」が始まった

2017年には交通系ICカードをタッチして乗車する「スマートEX」が始まった

技術的には、予約情報とひも付いているIDさえ確認できればよく、媒体は交通系ICカードでなくてもよい。そこで21年3月からスタートしたのが、QRコードによるチケットレスサービスだ。ただしこれは訪日外国人客限定。国内客は交通系ICカードを持っているケースが多く、「在来線との乗り継ぎを考えると交通系ICカードを使ったほうがいい」(中野氏)からだという。

QRコードからさらに発展させたものとしては顔認証があり、21年11月から22年1月まで実証実験を行っているところだ。品川駅と名古屋駅においてJR東海の社員を対象に実施し、精度や速度を検証中だ。

現段階では顔パスだけでは乗車できず、ICカードをタッチしたうえで、登録された本人かを確認する実験を行っている。中野氏は「学生割引や高齢者向けの『ジパング倶楽部』割引など、顔写真入りの証明書を窓口の係員が確認しないと発券できないものがある。顔認証が可能になれば、これらもチケットレス化できるかもしれない」と話す。窓口を減らすという流れに沿った取り組みだといえる。将来的には、顔パスだけで手ぶら乗車という新たな利用スタイルも視野に入るだろう。

現在、顔認証による乗車を実証実験中。カメラは改札機に埋め込まれている

現在、顔認証による乗車を実証実験中。カメラは改札機に埋め込まれている

省力化の側面からもネット予約はメリットが大きい。利用者がサイト上で自由に予約変更できるようになったことで、窓口での予約変更の件数が減っている。21年3月からはダイヤが乱れた際でもネット上で予約変更できるようになり「窓口の行列を減らせた」(中野氏)。さらに新幹線が2時間以上遅れた場合、特急料金を払い戻す決まりだが、チケットレス乗車なら自動的に返金できる。ちなみに21年11~12月、親子連れのチケットレス乗車で子供料金を実質無料にするキャンペーンが話題を呼んだが、「子供料金を一旦決済した後、チケットレス乗車が確認できたら返金するようにした。実は遅延時の払い戻し機能を応用している」と中野氏は舞台裏を明かす。

現在、東海道新幹線のネット予約比率は4割を超えるところまで高まった。EX予約開始前の00年度、JR東海の旅客運輸収入に占めるJR東の販売比率は32.6%もあったが、20年度は17.8%と半分近くまで減っている。同様に、JR西の割合も23.3%から14.7%へ減った。直販率を高めるという会社発足以来の悲願はある程度達成されたと言っていいだろう。

コロナ禍による利用客の落ち込みを受け、JR東海はEX予約・スマートEXを核にした需要喚起に力を入れる。道筋は大きく2つある。

1つは、これまで重視してきたビジネスパーソンに対するサービスの拡充だ。10月から「のぞみ」の7号車に設定したリモートワーク可能な「S Work車両」は、EX予約・スマートEXからのみ予約できるようにし、JRグループ共通の販売システム「マルス」では座席が購入できないようにしている。駅窓口で買えなくなったため、「現状は他の車両に比べると予約率が低い」(JR東海の巣山芳樹副社長)というが、それでもEX予約・スマートEXのさらなる普及に賭ける。

加えて12月からは駅構内のワークスペース「EXPRESS WORK」もEX予約・スマートEX会員限定で提供を開始。乗車中だけでなく乗車前や到着後のリモートワーク環境も提供する。

東京駅などに設けられたワークスペースはEX予約・スマートEX会員のみに提供

東京駅などに設けられたワークスペースはEX予約・スマートEX会員のみに提供

もう1つは、観光需要の取り込みだ。そのためのプラットフォームが「EX-MaaS(仮称)」。担当するJR東海の営業本部観光開発グループの大江紀洋氏は「これまでは新幹線の予約をいかに便利にするかを追求してきたが、新幹線に乗る前や降りた後のサービスもシームレスに予約できるようにしていく。構想は以前からあったが、これだけ早く具現化することになったのは、コロナ禍が大きく影響している」と話す。

ツアー商品や現地観光プランもデジタル化

新幹線とホテルの宿泊、現地での観光を組み合わせる場合、旅行商品として提供するのが一般的だ。しかし旅行会社での対面販売は急速に縮小しており、観光施設などに提示するバウチャー(金券)の発行コストも課題になっている。そこでEX-MaaSではパッケージツアーをオンライン化し、さらにEX予約のように列車の予約変更が柔軟に行えるようにする予定だ。「新幹線を高頻度で走らせているJR東海ならではのツアー商品にする」と大江氏は意気込む。

EX予約・スマートEXのシステム運用を担当する中野久司氏(左)と、EX-MaaSの企画を担当する大江紀洋氏

EX予約・スマートEXのシステム運用を担当する中野久司氏(左)と、EX-MaaSの企画を担当する大江紀洋氏

EX-MaaSのサービス開始は23年夏とかなり先だが、先行する形で21年11月から「EX 旅のコンテンツポータル」を開設した。EX予約のサイトなどから、ホテル宿泊や現地の観光プラン、在来線の乗り放題切符などの予約サイトにアクセスできるようにした。現状ではあくまでもリンクにすぎず、予約や支払いが別になっているが、同一サービスとして完結できるようにするのがEX-MaaSの狙いだという。

JR東海がコロナ後に始めた「ずらし旅」という観光キャンペーンも、実はEX-MaaSを見据えたものだ。観光施設などにQRコードを配布し、利用者がそれをスマートフォンで読み取り、予約番号を入力すると利用できる仕組みを整えた。大江氏は「紙のバウチャーを発行せず、電子化できたのは大きい」と喜ぶ。

JR東海の顧客囲い込み策から生まれたEX予約。しかし、ネットから何度でも予約を変更できるという利便性が、駅で事前に切符を購入するという新幹線の利用スタイルを大きく変えた。今後、移動だけにとどまらず、ワークスペースの利用や観光、宿泊までが1つのサービスとなる日も近い。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2021年12月23日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ日経会社情報デジタルトップ

ニュース(最新)  ※ニュースには当該企業と関連のない記事が含まれている場合があります。

558件中 1 - 25件

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6...
  • 次へ
【ご注意】
・株価および株価指標データはQUICK提供です。
・各項目の定義についてはこちらからご覧ください。

便利ツール

銘柄フォルダ

保有している株式、投資信託、現預金を5フォルダに分けて登録しておくことで、効率よく資産管理ができます。

スマートチャートプラス

個別銘柄のニュースや適時開示を株価チャートと併せて閲覧できます。ボリンジャーバンドなどテクニカル指標も充実。

日経平均採用銘柄一覧

日経平均株価、JPX日経インデックス400などの指数に採用されている銘柄の株価を業種ごとに一覧で確認できます。

スケジュール

上場企業の決算発表日程や株主総会の日程を事前に確認することができます。

株主優待検索

企業名や証券コード以外にも優待の種類やキーワードで検索できます。よく見られている優待情報も確認できます。

銘柄比較ツール

気になる銘柄を並べて株価の推移や株価指標(予想PER、PBR、予想配当利回りなど)を一覧で比較できます。

  • 株探
  • QUICK Money World