【産業大口の自家発電比率高い】石炭火力発電所運営に強み。
記者会見する東電HDの小早川智明社長(23日、東京・千代田)
東京電力ホールディングス(HD)は23日、家庭の過半が契約する規制料金の引き上げを経済産業省に申請した。東電の申請した値上げ幅は平均29%で、6月からの適用を目指す。今後、経産省の審議会で妥当性などが議論され、最終的な値上げ幅や時期が決まる。規制料金を巡っては2022年11月以降に東北電力など大手5社が3〜4割前後の値上げを申請しており、東電は6社目となる。
東電HDの小早川智明社長は同日開いた記者会見で「燃料費高騰の長期化を受け、値上げをお願いせざるを得ない」と述べた。今回の値上げは、東電の家庭向け契約全体の3分の2程度にあたる約1000万世帯が対象となる。東電が規制料金の値上げを申請するのは東日本大震災直後の12年以来、11年ぶりだ。
規制料金の代表メニューである「従量電灯B」では標準家庭の料金が1月に9126円だった。東電の申請をもとに足元の燃料価格から計算する6月の料金は1万1737円まで高まることになる。ただ東電が前回、規制料金の引き上げを申請した12年に認められた値上げ幅は平均8.5%と、申請時からは2ポイント弱縮んだ。実際に料金がどの程度引き上げられるかは、今後の審査次第だ。
総務省の家計調査によると、2人以上世帯の支出に占める電気代の比率は22年1〜11月に平均4.4%と、21年平均から0.7ポイント上昇している。東電など大手電力の多くで過半の家庭が契約する規制料金が引き上げられれば、家庭の電気代負担がさらに高まることは避けられない。
大幅な値上げを東電が申請した背景にあるのが、ウクライナ危機以降の資源高や円安進行の影響による業績の急激な悪化だ。東電は同日、これまでは未定としていた23年3月期の業績予想も公表した。連結最終損益は3170億円の赤字(前期は56億円の黒字)に転落する見通しだ。
燃料高の影響が大きい電力小売子会社は23年3月期に約5050億円の経常赤字を見込み、同社に東電は3000億円の資本を1月末に追加注入する。昨年10月末分と合わせた増資額は計5000億円となり、債務超過を解消する。
東電は今回の料金見直しがなければ、年平均で2944億円の収入不足になると試算する。国の認可を必要とせず、電力会社が自由に料金を設定できる家庭向けの自由料金についても、23年6月から平均5.3%値上げする。東電は規制料金で申請通りの値上げが実現すれば、年3000億円超の増収効果が見込めるとする。
電気料金は「燃料費調整制度(燃調)」に基づいて3〜5カ月前の燃料費を自動で反映できる。だが規制料金には消費者保護の観点から転嫁上限が設定されており、上限を超えると料金はそれ以上は上がらない。超えた分のコストは電力会社が負担する仕組みだ。東電では昨年9月にこの上限に達して以降、規制料金が今年1月まで横ばいで推移している。
22年12月の液化天然ガス(LNG)価格はウクライナ危機後のピークからは2割安い水準にまで下がった。だが新型コロナウイルス感染拡大前の19年12月比では2.5倍、石炭も5倍と高値で推移。一時期より価格は低下したが、依然、規制料金への転嫁上限を上回る状況が続き、経営への大きな打撃となっていた。
東電は値上げにあたり、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働時期の前提を7号機は23年10月、6号機については25年4月に置いた。電源構成に原発の稼働を織り込むことで燃料費の転嫁分を抑え、顧客の負担軽減につなげるとする。一方で23年4月から実施する法人値上げでは柏崎刈羽7号機の稼働時期を23年7月としていた。
小早川社長は今回、7号機の再稼働の前提を10月としたことについて「国の料金査定を受けるので、客観的に検討した」と話した。柏崎刈羽原発はテロ対策工事の不備などが相次ぎ、現状では再稼働の時期を正確に見通せる状況にはない。今回、10月に前提を置き直した再稼働時期も、さらに遅れる可能性がある。
大手電力でも原発の再稼働が進まず火力依存度が高い会社や、経営規模の小さい地域の電力会社の業績が特に厳しい。東北電は22年3月の福島県沖地震の影響もあり、23年3月期の最終損益は1800億円の赤字(前期は1083億円の赤字)となる見通しだ。
22年11月以降、東北電や中国電力、四国電力、北陸電力、沖縄電力が規制料金の引き上げを既に申請済みで、早ければ23年4月に料金が引き上げられる。北海道電力も近く値上げ申請する予定だ。原発の再稼働が進む関西電力、九州電力のほか、中部電力は現状、値上げを検討していない。
(向野崚)
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