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東芝取締役案、「物言う株主2人に懸念」中村弁護士

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法務・ガバナンス
2022/6/24 2:00
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日経ビジネス電子版

東芝は28日に定時株主総会を開く。会社側が議案として出した取締役選任案で、米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントなど物言う株主(アクティビスト)からの2人を含むことに現在の社外取締役や有識者、一般社員からも異論が出ている。ガバナンス(企業統治)問題に詳しい、中村直人弁護士に論点を聞いた。

中村直人氏 1983年、一橋大法学部卒。85年、森綜合法律事務所(現在の森・浜田松本法律事務所)所属。98年、日比谷パーク法律事務所開設。2003年、中村直人法律事務所(現在の中村・角田・松本法律事務所)開設。コーポレートガバナンス分野の第一人者として知られる

中村直人氏 1983年、一橋大法学部卒。85年、森綜合法律事務所(現在の森・浜田松本法律事務所)所属。98年、日比谷パーク法律事務所開設。2003年、中村直人法律事務所(現在の中村・角田・松本法律事務所)開設。コーポレートガバナンス分野の第一人者として知られる

――コーポレートガバナンス・コードの改訂により、東証プライム市場の上場企業では独立社外取締役が3分の1以上を占めるよう求められています。取締役会の構成がこれを満たせば、ガバナンスは向上するのでしょうか。

「かつての社外取締役が1人のみという時代からは一歩前進といえます。取締役会の中で社外取締役が1人の場合、質問をしたとしても傍観者になりがちでした。その人数が増えて3分の1以上となると存在感が拡大し、だんだんと物事を決める主体になってきます」

「私は『はないちもんめ型』と呼んでいますが、社内取締役と同じくらいの数になると、どちらも真剣に議論するようになります。ガバナンスは世界の目、特に欧米の状況を意識して制度を整えてきた面が大きく、取締役に女性がいなくて社外の人間も1人のみだった昔は世界で最も時代遅れといえる状況でした。このため、まず数にこだわる気持ちは分かります。ただ、最近は社外取締役が会社の成長に役立っているのか、厳しい目も向けられるようになってきました」

社外取締役による統治の失敗例

――東芝は現時点で8人の取締役のうち、75%に相当する6人が社外取締役となっていますが、混乱を収拾できていません。

「残念ながら東芝は(社外取締役による統治について)一番失敗してしまったケースです。社外取締役というのは、横のつながりのない人がほとんどです。社内の取締役は相互の関係性がある一方、社外取締役はこちらが弁護士、そちらは公認会計士、さらに別の企業出身などと立ち位置が分かれています。そこで求心力のある人がいなければ、社外取締役の人数が増えるにつれて各者の方向性が分散してしまいがちという課題が現れてきます」

「この会社をいかに成長させるべきかという当事者意識や、軌道修正せねばならないといった強い使命を感じられない人が社外取締役に就いてしまうのも問題です。東芝の状況は実際に、取締役会の内部がバラバラになっているように見受けられます」

「社外取締役の人数を増やしたとき、重要なのは社内の社長や最高経営責任者(CEO)など、核となる人物にきちんと人望があるかどうかです。議論のまとめ役がいなければ収拾がつきません。そうではない場合、特効薬はありません。特に東芝のように1年前には取締役会議長の再任が株主総会で否決され、法律家から見ると奇妙な調査報告書まで出てくるような状況では(社内取締役も社外取締役も)自分の立場を守ることばかり考えがちになるでしょう」

――今回、東芝は物言う株主から2人を社外取締役候補としています。現在の社外取締役で名古屋高等裁判所長官だった綿引万里子氏は、他の株主では得られない内部情報に触れられるため、公平性を欠くとの懸念を示しました。

「それは当然の懸念です。もちろん株主間で情報の公平性が保たれなくなるという問題も大きいのですが、さらに重大な懸念があります。物言う株主から派遣されてくる2人は誰のために働くのかということです。(取締役が会社のために忠実に職務を行うことを求めている会社法上の)『忠実義務』の問題が生じます」

「(6月28日開催の)定時株主総会の参考書類を見ると、この2人は東芝のために働くといった趣旨が一言書いてありますが、純粋に東芝の長期成長のためだけに働いてもらえるなどとは期待しようもありません。出身元のファンドの指揮命令下で働くと考えるのが自然です」

「東芝の(綱川智取締役会議長が出した)ステートメントでは、この2人の選任によって『株主と経営陣はより足並みを揃(そろ)えることができる』と書いてあるのですが、それでは経営陣が特定の株主の要求を聞くということになります。つまり、内部情報が特定の株主に流れることを許容して忠実義務違反を受け入れることにつながりかねません。このようなステートメントが出ること自体、会社の情報発信がいかにいびつな状況となっているのかを表しています」

東芝は、物言う株主から2人の社外取締役を招く議案を6月28日の定時株主総会に向けて提示している

東芝は、物言う株主から2人の社外取締役を招く議案を6月28日の定時株主総会に向けて提示している

「投資家から取締役候補を出すことについて、一般的に不適切と言っている訳ではありません。年金基金をはじめ、長期保有目的の投資家は長期的な企業価値向上を目指しているので、会社経営の方向性とも合致しやすいでしょう」

「一方、物言う株主が投資先企業の取締役に就く場合には注意が必要です。年間で15%や20%などの利益を実現した上で5年など一定期間のうちにイグジット(退出)しなければならず、投資家としての利益と会社の長期的利益は一致しないことが多いのです。しかも東芝の場合、通常の経営方針を議論するというより、いかに身売りするかという局面を迎えています」

「特に利害対立が起きやすいのは、こうしたM&A(合併・買収)やMBO(経営陣が参加する買収)が間近という状況です。東芝は利害の不一致が噴出しており、いかに取締役会を運営するか、非常に危うい状態です。東芝の意思決定能力を押さえてしまえば何でも通るというやり方になるなら、物言う株主と会社側の関係は誠実ではなく、公正な交渉に基づく会社再編にもならないでしょう」

「守秘義務を一部免除している」

――取締役選任案に反対した綿引氏は、特定の株主が非上場化後も残る『ロールオーバー』によって会社を支配し続けることが最大の問題と訴えました。物言う株主と東芝との合意書について『不平等条約』とまで主張しています。

「現在の特定の株主がロールオーバーにより、(事業の切り売りなどで)長期的な企業の成長余地をそいで、短期的な利益追求に向かう可能性もあります。しかも社外取締役の守秘義務について(綱川氏のステートメントでは)『適切に対処するための取り決めに合意』と書いてありますが、その合意書をよく読んでください。通常ならM&Aについて株主間で不公平にならないような情報の取り扱いとすべきですが、むしろ守秘義務を一部免除した契約となっています」

「この内容だと、今回の社外取締役の候補ら2人は自身の出身元に対して(取締役という立場で取得できた情報を)提供することが可能でしょう。守秘義務について原則と例外のような立て付けになっていますが、その例外の範囲が大きいのです」

――今回の13人の取締役候補は過半が独立した社外取締役なので、特別な利害関係にある2人が入ったとしても構わないという見方もあります。

「(特別な利害関係者が)2人だったら構わないということはないですね。既に方向性がバラバラになっている取締役会の中に、明確な意図とミッションを持った社外取締役が2人入ってくることは重大です」

「自分の責任にならなければ構わないと思っている人が多い中に、『こうすべきだ』と強硬に唱えて引かない人たちが出現します。完全に議論をリードされるでしょう。さらに(会社再編の方針を左右する)特別委員会にも入り込めば、こうした一部の物言う株主が同社の命運を握ることになるでしょう」

「海外では例えば米国を見ると、リーマン・ショック前までは株主主権主義が強く、会社は株主のものという風潮もありました。だから社外取締役も株主の意向どおりに動けばそれでいいと。ただ、現在だと社外取締役に株主の代表選手をどんどん入れるという発想ではなくなってきて、ESG(環境・社会・統治)の理念も取り入れながら多様性を重視する時代になりました。その点、東芝の社外取締役候補の構成は偏っているといえます」

「また、米国の場合は名誉を重んじたいわゆるハイ・ソサイエティーの人脈の中で、社外取締役の椅子に座り合っているという状況です。東芝のように混乱に拍車が掛かるというのは異例です」

社外取締役の仕組み 見直すとき

――東芝の経営については、同社が政府と共に物言う株主と対立したというイメージが付いたことで、混乱が拡大した面もあります。

「法律家から見ると、(東芝の旧経営陣による株主総会運営が不公正だったのではないかと物言う株主の主導で批判した)2回目の報告書は特に判断の基準もないまま、旧経営陣への悪口ばかり並べたようでした。普通なら違法かどうかの判断や、何をもってして(株主総会の運営が)不当だったかどうかという判断の枠組みがなければいけません。それがないまま、いったい何を根拠に結論を導こうとしているのか不明だったのです。世間でもそこが議論されないまま、悪い印象を与える報告書となりました。3回目で修正されましたが、既に一般的にそうしたイメージが広まった後となってしまいました」

――社外取締役が大多数を占めている会社が混乱した場合、さらに監督する役割が必要となるのでしょうか。

「現在の仕組みだと社外取締役がきちんと機能できない場合に、それをチェックできる人がいません。執行役の上に取締役会があり、監査役もいます。しかし、社外取締役が崩壊したときには、いったんその会社の社外取の構成を全て見直す必要があるでしょう」

「現在、『指名委員会等設置会社は本当に良い枠組みなのだろうか』という課題意識も広がりつつあります」

「もともとは米国に倣って、日本も取締役会の中で社外取締役を過半数にしようかと議論されていました。ただ、経済界の反対もあり、そうしない代わりに人事・報酬・監査という肝になる部分のみ別の委員会を設置して、そこだけは社外取締役を過半数にするという妥協策になったのです。この結果、現在では東芝も含めてその弊害も見られるようになりました」

「(CEOや取締役の選任案を決める)指名委員会を社外の人に委ねると、社内の幹部に対する求心力が弱まり、会社がバラバラになる要因となります。ガバナンス強化を狙って社外取締役を増やしてきた流れとの兼ね合いで難しい面もあるのですが、CEOがそれなりに求心力を持つことは重要です」

「ある程度の人事権をCEOが持っている必要はあり、指名委員会はその案が合理的なのかどうか判断する場となるべきでしょう。企業の事業内容や個々の人材像についてよく把握できていない社外取締役が指名委員会を構成し、人事の主導権を握ると経営にむしろマイナスとなる事例も出てきています」

「社外取締役は、会社の健全な発展に貢献すべく自己研さんが欠かせません。ただ、社外取締役だけでは会社を経営できないのです。その役割と限界を踏まえた上で、どうすればガバナンスを改善できるのか常に考えていく必要があります」

(日経ビジネス 東芝問題取材班)

[日経ビジネス電子版 2022年6月21日の記事を再構成]

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