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【国内1位】医療用医薬品に集中。がん領域の新薬開発に注力。

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武田薬品、「細胞医薬」の国内製造に挑戦したわけ

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2022/7/25 2:00
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武田薬品工業大阪工場内にある細胞処理室。銀色の装置はクリーン度が高いアイソレーター(無菌化装置)。ここに両腕を挿入し、細胞の培養や瓶への充填などの作業を行う

武田薬品工業大阪工場内にある細胞処理室。銀色の装置はクリーン度が高いアイソレーター(無菌化装置)。ここに両腕を挿入し、細胞の培養や瓶への充填などの作業を行う

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消化管に炎症が生じて下痢や腹痛、血便などを引き起こす病気に「クローン病」がある。安倍晋三元首相を苦しめた潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患と呼ばれる。潰瘍性大腸炎は潰瘍やびらんが大腸の粘膜にできるのに対して、クローン病は口から肛門に至る消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が生じ得る点が異なるが、ともに原因はよく分かっていない。

2017年に発表された全国疫学調査によると、国内患者数は潰瘍性大腸炎の約22万人に対して、クローン病は約7万人だという。ともに欧米に比べて人口10万人当たりの患者数は少ないものの、増加の傾向が続いている。

クローン病でやっかいなのは、炎症が粘膜だけでなく腸管壁の奥にまで及び、瘻孔(ろうこう:腸管と腸管あるいは腸管と皮膚などに穴が開き、つながる)や狭窄(きょうさく:腸管の内腔が狭くなる)、膿瘍(のうよう:うみがたまる)などの腸管の合併症が生じることだ。クローン病と診断された後、数年が経過するうちに腸管合併症の割合が増えることが報告されており、外科手術が必要になる患者も多い。

武田薬品工業が21年11月に日本で発売した「アロフィセル」は、それらクローン病の合併症が進んで生じた複雑痔瘻(じろう)を対象とした治療薬だ。複雑痔瘻は膿(うみ)がたまると激しく痛み、便失禁などを引き起こすこともある。スポーツや仕事をはじめ一般的な生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼし、重症化した場合には人工肛門を設けることもある。

アロフィセルは、健康な成人の脂肪組織から抽出し、培養・増殖した間葉系幹細胞を用いた細胞医薬だ。18年1月に武田薬品が買収を発表したベルギーのスタートアップであるタイジェニックスが開発した。同社は武田薬品に買収されることが決まった直後の18年3月に、欧州でアロフィセルの承認を取得した。日本では武田薬品が19年3月から臨床試験(治験)を行い、21年2月に承認申請を実施。米国では現在、臨床試験を行っているところだ。

当初、タイジェニックスはスペイン・マドリードの工場でアロフィセルを製造し、日本での治験の際には同工場で製造された製品が使われた。しかし、日本での発売に向けて、武田薬品は同製品を国産化することを決めた。瓶詰めを完了してから72時間以内に投与しなければならない使用期限付きの製品だからだ。

武田薬品で初となる細胞医薬国産化のプロジェクトが立ち上がったのは18年11月のことだ。大阪市内と山口県南部の光市内にある国内2カ所の製造拠点のうち、全国への供給の便などを考えて、白羽の矢は大阪工場に立った。既存棟内に約9億円をかけて製造設備の整備を進めているところに、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が起こった。このため工事が完了したのは当初の予定よりも3カ月ほど遅れた20年6月となったが、製造チームの面々が本当に苦労させられたのはその後だ。

というのも、細胞医薬の製造工程では、スペインで製造されマイナス150度で凍結保管された原薬となる細胞を解凍して培養し、目的の機能を回復させるために様々な処理を施さなければならない。並行して各種の試験を行う必要もある。凍結保管された原薬を元に、1人分の細胞医薬を製造するには2週間程度を要するが、その多くは複雑な手作業だ。

通常ならこの作業を伝授するためにスペインから技術者を招いて2週間程度かけて製造技術を移管する。ところが新型コロナウイルス禍において、海外からの入国は不可能となった。そこで活躍したのが拡張現実(AR)技術。作業者はARの装置を装着し、スペインからリモートで作業のトレーニングを受けた。アイソレーター内の細やかな操作に対する指示や、機器・材料の配置などのディスカッションを遠隔で行う際にARを使用したという。

「直接指導を受けるよりは倍以上の時間をかけたが、毎日トレーニングすることで無事に技術を移管できた」と、セルセラピー大阪製造ヘッドの水上清太郎氏は説明する。製造設備の検証作業も迅速に行うことで、結局、工事の際の3カ月の遅れを取り戻して21年2月に予定通りのタイミングで厚生労働省に製造販売承認申請できたという。

ただし、アロフィセルの製造工程は手作業が多いため、コストがかかる。アロフィセルによる治療に対しては、1回量の4瓶1組(1億2000万細胞分)の使用に約562万円の薬価が設定されたが、その審議の中では原価が約400万円に上ることが明らかにされている。「細胞を処理するのにどうしてもコストがかかる。将来的には、3人かけて作業をしているところを、ロボットを活用して1人に減らすなどして、コストダウンにつなげていきたい」と水上氏は考えている。

アロフィセルは、国内発売から半年以上が経過した7月初めの時点で、まだ使われたのは3人の患者に対してのみだという。使用期限があるために、発注システムを病院側に導入してもらったり、迅速に輸送する体制を整備したりするのに時間がかかっているのかもしれないが、高い薬価が普及を妨げている可能性もありそうだ。

製造設備を整備するのに際し、デジタル技術をふんだんに活用し、各種のセンサーで様々な情報を収集、解析して、装置の故障などの異常を予知できるシステムを導入したのは、今後、細胞医薬の市場が拡大していくことを視野に入れているからだろう。大阪工場の細胞医薬の製造能力は年間1500人分あり、将来的には大阪工場からアジアなどの近隣国への供給も念頭にあるようだ。間葉系幹細胞という様々な細胞に分化できる細胞を利用しているため、対象となる疾患の拡大も検討されていくことだろう。

武田薬品で初となる細胞医薬の国内供給はまだ始まったばかり。この技術革新が今後どのように広がっていくかが注目される。

(日経ビジネス 橋本宗明)

[日経ビジネス電子版 2022年7月20日の記事を再構成]

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