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節水トイレのサブスク 戦う土俵を変えた世田谷企業

日経ビジネス
コラム
2021/12/22 2:00
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研究開発の一室には便器がずらりと並ぶ

研究開発の一室には便器がずらりと並ぶ

日経ビジネス電子版

公共・商業施設のトイレをサブスクリプション(定額課金)方式で提供する一風変わった中堅企業がある。木村技研(東京・世田谷)。かつては一介の水道工事会社にすぎなかったが、独自の節水技術で名を上げた。今や名だたる公共交通機関や商業施設がこぞってサービスを導入する。TOTOなど大手メーカーとは戦う土俵を変えることで確固たる地歩を築いた。

木村技研の本社兼研究開発の根城は、世田谷区の閑静な住宅街のど真ん中にひっそりとあった。

玄関横の扉を開けて一歩足を踏み入れると、研究開発用便器がずらりと並び、水の流れが見える透明なプラスチックの配管があちこちに走る光景が目に飛び込んでくる。デモ用のトイレも並び、顧客に向けたショールームにもなっている。

「トイレは施工して『はい終わり』ではなく、顧客満足度を高める息の長いサービス業なんです」。木村技研の木村朝映社長の持論だ。トイレがサービス業? いったいどういう意味なのか。

それを知る前にまずは木村技研を世に知らしめた節水装置の話から始めよう。

独自装置で水道代半減

木村技研によると、男性は1人1日あたり平均69リットル、女性は平均192リットルもの水を使っているという。最適な水量であればこれを半分程度に減らせるが、実際にはムダ遣いが多く、水道代を押し上げている。

このムダをなくす技術が、木村技研が開発した水量の最適制御装置だ。まず利用者が便座に座るとセンサーが滞在時間の計測を始める。滞在時間によって大か小かを判別し、必要な分だけ水を流す。2分半未満だと小で6リットル、2分半以上だと大で12リットルが流れる。

トイレの配管内のバルブには独自開発した磁石付きの水量メーターが内蔵されている。磁石が1回転すると0.06リットルの水が流れ、回転数を制御することで最適な水量に抑える仕組みだ。

「アクアエース」のバルブを手にする木村社長。水の使用量を半分程度まで減らす効果が期待できる

「アクアエース」のバルブを手にする木村社長。水の使用量を半分程度まで減らす効果が期待できる

実際、JR渋谷駅では木村技研の節水技術を導入し、ほぼ半減させることに成功したという。この「アクアエース」と名付けた節水装置の機構について木村技研は特許を押さえており、他社にはなかなかまねできない。

仮に幼児を除く東京都の人口1000万人が使う便器や装置をアクアエースに切り替えた場合、年間の節水効果は2億9000万立方メートル。これは静岡県の年間水道使用量に匹敵する。水道料金にして1891億円が浮く計算だ。

国鉄駅のトイレ改善が転機に

節水の工夫はほかにもある。例えば配管と配管をつなぐ継ぎ手。排水管に流れる下水が上流側の配管に逆流しないよう構造や形状を工夫。一定の方向にだけ水が集まるようにして、つまりにくくしている。排水管の勾配も従来、100分の1程度だったが、100分の2以上の傾斜をつけることで勢いよくスムーズに流れるようにした。

配管などの設計も改良を重ねつまりにくい構造にしている

配管などの設計も改良を重ねつまりにくい構造にしている

木村技研の創業は1948年。給排水設備の設計施工やメンテナンス業務などいわゆる下請けとして船出した。施工するだけなので不動産開発会社が開くビルの開発会議にゼネコンとともに呼ばれても黙って聞いているだけ。言われた通りの仕事だけを請け負う弱い立場だった。

転機となったのは、旧国鉄からの依頼だった。1970年代、国鉄はトイレのつまりや悪臭が頻繁に発生する課題を抱え、利用者からもクレームを言われ続けていた。国鉄は汚物のつまりや悪臭退治のため、水をほぼ垂れ流し状態にすることで年7億円も上下水道代に費やしていた。

課題を持ち掛けられた木村技研は、タイマーを使った定期洗浄の機器を開発。例えば朝夕のピーク時には5分に1回、出勤、帰宅ラッシュ後の利用頻度が少ない時間帯は30分に1回というように水洗の費用対効果を高めた。

削った水道代は2億円。信頼を勝ち取った木村技研はその後、冒頭に紹介した「アクアエース」を開発。業界で一目置かれるプレーヤーとなった。

取引先をゼネコンからビルオーナーに

節水トイレの草分けとなった木村技研だが、2000年ごろビジネスモデルの転換に踏み切る。それがトイレの装置や関連サービスのレンタル、今でいうサブスクサービスだ。

アクアエースは月額2550円でレンタルするほか、木村技研オリジナルの大・小便器「アクア・ちょびっと」やその関連サービスも定額課金で提供している。木村技研が設置からアフターサービスまで丸ごと請け負い、顧客の設備投資は一切かからない。

目玉はIoT(モノのインターネット)システムだ。トイレの利用回数や水量、消費電力などのデータを取得。トイレの利用実態を「見える化」し毎月、コスト削減効果を定量的に記載したリポートを配信している。

毎日データを吸い上げることで適切なタイミングでバルブや配管の取り換え時期を予測。24時間365日監視し、つまりや故障などトラブルになる前に対応して顧客満足度を高めている。

なぜ、ビジネスモデルを変えたのか。理由は「ゼネコンの下請けに甘んじず、自主独立することで収益を拡大できるから」(木村社長)だった。

せっかく付加価値の高いトイレやサービスを開発してもゼネコンに中抜きされたり、安く買いたたかれたりして手元に残る利益はわずか。いくら技術力があるとはいえ、メーカーとしてTOTOやLIXILなど大手に真っ向勝負を挑んでも勝ち抜くのは厳しい。

そこで木村技研は戦う土俵を変えた。それが便器の売り切りではなく「サービスとして安定的に長期間対価を得る」(木村社長)モデルだった。売り切りの場合、取引先はゼネコンだが、レンタルサービスだと施設のオーナーになる。

オーナーにとって負担となるトイレの水道代とメンテナンスコストを引き下げるのが、木村技研の最大のミッションだ。

ライバル企業との戦いを避けながら顧客を変える――。したたかに稼ぐため選んだ道は正解だった。東京国際空港(羽田空港)やJRの主要駅のみならず、渋谷ヒカリエ、三越伊勢丹、各地のイオンモールなどがこぞって採用。サービスの採用施設数は1200か所、台数は5万台にのぼる。

トータルの節水効果は年間約9億立方メートルに及ぶ。ちなみに同社の節水洗浄装置の国内シェアは約6割という。2021年6月期のグループ売上高は約25億円。売り切り型からレンタルによるサブスクに切り替えたため10年前と比べ落ちているが、安定収益を長期にわたって見込む。

木村社長は「トイレは息の長いサービス業」と話す

木村社長は「トイレは息の長いサービス業」と話す

大手がやらないサービスを収益源に

近年は節水や環境に一家言ある「不動産投資法人」と契約するケースが増えている。不動産投資法人とは、投資家から集めた資金を元に不動産を購入、所有する目的で設立された会社。不動産の価値や収益性を高めるため、運営や管理には特に厳しい。

このため木村技研のような節水サービスに目がなく、導入に前向きな投資法人が多いという。「とにかく大手がやらない、気づかない付加価値の高いサービスで稼ぐ」と口酸っぱく社員に説く木村社長。それを体現する新たなサービスがトイレの見守りサービスだ。

目を付けたのは高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)。東名高速道路などを運営する中日本高速道路(NEXCO中日本)と組み、20年、海老名SAのトイレ332台に急病人などを検知する見守りセンサーを設置した。

人が倒れたり、うずくまったりしている状態を人工知能(AI)に機械学習させ、異常を検知すれば現場の係員に通報する仕組みだ。通報画像はモノクロの線画に変換、プライバシーにも配慮している。

海老名サービスエリアのトイレは利用者に異常が起きると警報とランプで通報する

海老名サービスエリアのトイレは利用者に異常が起きると警報とランプで通報する

トイレに忘れ物をして出てきた時も通知してくれる。スマートフォンなどの忘れ物件数はNEXCO中日本が管理するSA、PAだけで年間2万件以上とあって、導入後は利用者からも喜ばれているという。

海老名以外にも38カ所のSA、PAのトイレ約2000台に導入されており、他の交通機関からも引き合いが増えている。

トイレの床面の下に取り付ける換気・散水システムもかゆい所に手が届くサービス。床下からの換気でニオイやほこりを取り除くほか、床のパネルの連結部分からスプリンクラーのようにちょろちょろと散水する。清掃員の床掃除の負担軽減につながる設備として売り込んでいる。

「トイレはサービス」と定義し直し、節水、省電力、低コストの技術で付加価値を高めれば、競合の大手メーカーもゼネコンも恐れるに足りない。木村技研のようにアイデアと度胸で下請けを脱するチャンスはどの業界にも眠っているはずだ。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2021年12月20日の記事を再構成]

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