【通信事業最大手】持ち株会社。傘下に東西地域会社やドコモなど。
NHK朝の連続ドラマ「舞い上がれ!」で、福原遥さん演じる主人公の母(永作博美さん)が、町工場の社長業から、老母を引き取り親孝行に移行するというエピソードがあった。これを見て正直、暗たんたる気持ちになった。テレビドラマで女性が介護離職することが自然であるかのように描かれていたからだ。
経済産業省の試算では、働きながら家族の介護をする「ビジネスケアラー」は2030年には318万人に増加し、離職や労働生産性の低下などによる経済損失額は30年に9兆1792億円にのぼる見込みだ。また、厚生労働省の統計では、21年の離職者のうち、約9.5万人が「介護・看護」を理由としている。
こうしたなか、ビジネスケアラーの負担を軽くするためのソリューションを提供する企業も出てきた。
情報共有クラウドサービス「エルキャット」は従業員の状況に合わせたラーニングプログラムだ
リクシス(東京・港)はその一つ。佐々木裕子社長は東大法学部からマッキンゼーなどを経て、16年に創業。最先端のIT技術と介護プロフェッショナルの知見、人と組織にかかわる変革デザイン技術の融合を目指す。佐々木さんによればビジネスケアラーを取り巻く大きな問題点は3つ。
まず、事前の情報入手への抵抗感。まだまだ先と思い、本当に切羽詰まってから慌てて情報を入手するために結果的に最良の情報や事業者に行き当たらない。次に、孤立。介護を抱えていることを周囲に知られたくないという意識が働いてしまう。40代後半から50代の責任が生じる立場で、「仕事を任せてもらえないのでは」という不安が働いてしまうことも大きい。
3つ目は、自分で担おうとしてプロに任せない。「介護は子供がやること」という意識が特に親世代に根強く、いいサービスがあっても第三者の介入が阻まれ、結果的にビジネスケアラーの負担が大きくなる。
このような問題点に対して、いくつかのソリューションを用意している。企業向けの介護についての研修、管理職にたいする介護者理解教育、情報プラットフォーム、研究会などだ。
むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。
最も力を入れているのは介護についての情報共有クラウドサービス「LCAT(エルキャット)」だ。従業員一人ひとりの状況に合わせたラーニングプログラムで、企業向けサービスになる。丸紅やNTTなど伝統的な大企業に加えて、サイバーエージェントのような従業員の平均年齢が低い企業も利用している。
聞くと「ヤングケアラーの問題もある」という。現在は少子高齢化で兄弟が少なく、寿命が長い。共働きも多く、高齢者を現役の子世代だけでは支えきれず、孫がケアラーになるケースもある。企業が従業員の介護問題に意識を向けることは、素晴らしいことだ。
企業が介護についての情報を積極的に提供することで、介護についての不安や苦労が取り除かれ、結果的に生産性が向上する。育児については社会的な意識も変わり、育休やベビーシッターへの補助などに積極的な企業が出てきている。
しかし、介護への理解や支援はまだまだだ。リクシスの佐々木さんは、親の介護に直面したときに一番言われて辛いのは「今は、親御さんに集中して」という言葉だそうだ。「まずはプロに任せて」と、すべての人が言えるといい。
[日経MJ2023年3月24日付]