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ホンダの新車ネット販売、流通系列化の「呪縛」解けるか
ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

日経産業新聞
ビジネススキルを学ぶ
コラム
ネット・IT
自動車・機械
2021/10/22 2:00
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ネット販売が普及すればディーラー再編につながる可能性もある(大阪府のホンダ販売店)

ネット販売が普及すればディーラー再編につながる可能性もある(大阪府のホンダ販売店)

ホンダが新車のインターネット販売を始めると発表しました。専用サイトで商談から契約まで行えるとのことです。これまでは系列ディーラーと呼ばれる特約販売店を主な窓口として売ってきました。ホンダでは9割以上が外部の地場ディーラーで、重要なパートナーです。ネット経由の直販によってディーラーの「中抜き」が進むとしたら反発が予想されます。ホンダはどのように折り合いをつけていくのでしょうか。グロービス経営大学院の金子浩明教授が「ビジネスモデル」の観点から解説します。

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■共存共栄の関係

日本で自動車ディーラーが急増したのは1960年代です。運輸白書によると自家用車の保有台数は60年代半ばの約200万台から70年代半ばには約1700万台に急増し、ディーラーと整備工場の数も増えました。自家用車の需要に対してメーカーが自己資本だけで全国に販売と整備のネットワークを築くのは困難でした。そこで、全国で特約店のディーラーを募集し、店舗と整備網の拡大を委ねたという歴史があります。

ここで、自動車メーカーとディーラーのビジネスモデルを比較します。以下の図は米国のコンサルティングファーム、イノサイトの共同創業者であるマーク・ジョンソン氏らによるビジネスモデルの「4つの箱」の枠組みです。

メーカーはディーラーに製品を販売し、ユーザーからはローンの金利で収益を上げています。自動車の利益がゼロでも、ローンさえ契約できれば赤字になりません。販売後はディーラーに対する補修部品の販売で利益を得ます。ディーラーは地元のユーザーに対する自動車販売や、その後の車検などのメンテナンスを収益源とします

メーカーとディーラーは共存共栄です。ディーラーがたくさん車を売れば、メーカーはもうかります。そのため、メーカーは販売店が売りやすいよう、新製品開発とマーケティングに力を入れることが重要です。一方、ディーラーは新規顧客の獲得に加えて、既存顧客の囲い込みを徹底しました。例えば、車検やモデルチェンジ、顧客の家族構成の変化などのタイミングで買い替えを促すなどです。

■購買行動に変化

しかし、2000年代半ばからディーラーの役割が徐々に変化しました。主な要因は顧客の購買行動の変化です。かつて新車販売は訪問販売が主流でしたが、これが店舗での販売に切り替わりました

米調査会社J.D. パワーの日本自動車セールス顧客満足度調査によると、01年時点ではまだ顧客の4割が自宅や職場で商談をしていましたが、19年には8割以上が販売店となりました。背景には、05年に個人情報保護法が施行されたことや、オートロック付きマンションの増加、インターネットの普及などがあります。

その結果、顧客の購買行動は「顔なじみの販売員から買い替えを勧められて購入を検討する」から「車を買いたいと思ったときに気になる車を扱っている店に自ら足を運ぶ」に変わりました

■まずはネットで検索

ホンダのネット販売はこうした流れの延長線上にあります。車を買いたい顧客は、まずネットで情報を検索し、ディーラーに足を運びます。しかし、最初から購入する車が決まっていたら、ディーラーに行く時間が無駄です。試乗のためにディーラーに行く人も多いですが、レンタカーやカーシェアで乗車経験があればネットでも抵抗なく買えます。新車のネット販売は、こうした顧客のニーズに応えるものです。

しかし、ネット経由の直販はディーラーの「中抜き」を意味します。ディーラーからの反発はないのでしょうか。

自動車業界を除き、かつて流通系列化で成功を収めた企業の多くはネットの直販に出遅れました。例えば、化粧品の資生堂や家電のパナソニックです。どちらも1970年代に国内で圧倒的なシェアを誇っていました。出遅れた理由は系列店との共存共栄体制を維持しようとしたからです。

もちろん、ホンダの場合もディーラーから不満の声が上がっていると思います。そのため、最初はサブスクリプション(定額課金)サービスのみに絞ることで、反発を最小限に抑えようとした可能性があります。また、販売店にとっては車検やアフターサービスで収益を上げられるので、サブスクの分だけホンダ車のシェアが上がるのであれば、悪い話ではありません。

■お得感はいまひとつ

ディーラーの粗利の3~4割は新車販売ですが、5割はメンテナンスなどのサービスで稼いでいます。サービスと中古車販売を残してもらえれば、新車の一部が直販に移行したとしても、ディーラーの経営は何とか維持できます。

しかし、顧客がサブスクを歓迎するかどうかは別の話です。ホンダのプレスリリースによると、小型車「フィット」の場合、サブスクは月額4万2550円(メンテナンス料込み)で、契約期間は3年と5年のどちらかです。一方、仮にフィットのベーシックモデル(約170万円)を購入するためホンダファイナンシャルサービスで5年・60回のローンを組んだ場合、頭金の約11万円を払えば、その後の出費は月2万8900円で済みます。

車両価格から数年後の買い取り額(残価)を除いた額を分割して支払う「残価設定型ローン」だと、月あたりの負担はさらに低く、60回払いで月額2万1000円です。その場合、新車に乗り換えるか車両を返却すれば、基本的に残価を支払う必要はありません。そもそも残価設定型ローンの場合、車の所有者はディーラーかローン会社になっているので、実質的にサブスクと変わりません。

同じモデルで比較してはいませんが、サブスクのお得感はいまひとつです。ネット販売のメリットは販売コストを抑えられることなので、店頭で販売するよりも有利な価格設定にしないと顧客は飛びつかないと思います。邪推ですが、ディーラーに配慮している可能性もあります。

そうだとしたら、なぜホンダはネット販売を進めようとしているのでしょうか。

■ディーラー集約の布石か

理由として考えられるのが将来のディーラー集約です。ホンダはもともと二輪のメーカーで、四輪は後発でした。60年代半ばに本格的に参入し、当初は二輪のディーラーを中心に四輪のディーラーを募りました。しかし、小さい店舗が多かったため、整備拠点をホンダが別に用意するなど、他社とは違った形でディーラー網を構築していきました。こうした経緯が今でも影響しています。

中古車検索サイト「グーネット」に掲載されている店舗数をみると、現在、ホンダの販売店は直営を含めて約2100店ですが、ディーラーは約690社です。同じくトヨタ自動車の販売店は約4600店で、ディーラーは約280社です。共にメーカー系列と外部企業の割合は、外部が95%以上です。

日本自動車工業会(自工会)によると、軽自動車を含めた国内の新車販売のシェアは20年、トヨタが32.7%(約150万台)、ホンダは13.5%(約62万台)でした。店舗当たりの年間平均販売台数はトヨタが約320~330台、ホンダが約290~300台です。大差はついていませんが、ホンダとしては店舗の販売効率を上げたいはずです。

ディーラー1社あたりの店舗数はトヨタが平均16~17店に対してホンダは3店です。日産自動車は国内約2050店でホンダと同じ規模ですが、1ディーラーあたりの店舗数はトヨタと同じ平均16~17店です。日産はメーカー系列のディーラーが多い(約3割)ことも影響しています。

■400万台割れは確実

今後、日本では少子高齢化とカーシェアの普及によって販売台数の減少が予想されます。そうなると、店舗とディーラーの統廃合は避けて通れないでしょう。過去20年以上、国内販売台数は大きく変化していませんでした。自工会によると、乗用車の新車販売は90年がピークの510万台で、95年時点で440万台、新型コロナウイルス感染拡大前の19年が430万台でした。過去25年間、420万~450万台で安定しています。しかし、いま70代の団塊世代が免許を返上するようになれば、400万台を切るのは確実です

ホンダはサブスクだけでなく新車販売もインターネットで行う予定です。おそらく、新車販売が「本丸」だと思います。いずれ契約はネットで済ませるのが主流になり、ディーラーの役割は上質な顧客体験を提供する場所になるでしょう。そうなれば、必然的に店舗と整備拠点は集約されます。新たな投資も必要です。こうした変化には、ある程度の資本を持ったディーラーしか対応できません。

こうした移行への障壁が最も高いのがホンダです。だからこそ、他社よりもネット販売への積極姿勢を見せているのだと思います。ホンダの次の一手に注目です。

かねこ・ひろあき
グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。

「ビジネスモデル」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/339c5167 (「GLOBIS 学び放題」のサイトに飛びます)

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