【感染症薬主力】抗HIV薬など感染症薬開発を強化。
東京大学の河岡義裕特任教授や国立感染症研究所などは、新型コロナウイルスのオミクロン型の感染者に抗ウイルス薬「モルヌピラビル」などを投与しても、耐性ウイルスが生まれにくいことを動物実験で確認した。これらの薬はウイルスの変異が比較的起こりにくい場所に作用するため、新たな変異型が出現した際にも有効と考えられるという。
新型コロナの経口治療薬、米メルク製の「ラゲブリオ(一般名モルヌピラビル)」
一般的に、薬を服用するなどして免疫が働かない人がウイルスに感染すると、ウイルスは体から排除されにくい。そうした人に抗ウイルス薬を投与すると、体内で薬に耐性を持つウイルスが発生し、抗ウイルス薬が効きにくい患者が増える可能性がある。
研究チームは薬剤で免疫の働かなくなったハムスターを対象に実験した。オミクロン型の一種「BA.1」に感染させて、塩野義製薬が開発して臨床試験(治験)中の抗ウイルス薬「S-217622」やモルヌピラビルを投与した。免疫が働かないためウイルスは完全にはなくならなかった。
投与を終えてから9日後、ハムスターからウイルスを取り出して調べると、抗ウイルス薬への耐性はなく、効果を維持していた。耐性ウイルスが発生するリスクは低いとみられる。
オミクロン型はウイルス表面にある「スパイク」というたんぱく質に多くの変異がある。モルヌピラビルやS-217622はスパイクとは別の部分に作用するため、派生型の「BA.2」などオミクロン型に効果を保ちやすいと考えられている。河岡特任教授は「今後発生する新たな変異型に対しても有効と考えられる」と話す。
研究チームは他の薬剤の効果も確かめた。英アストラゼネカの「チキサゲビマブ」と「シルガビマブ」という2種類の抗体を投与すると、BA.1の増殖を抑えることができた。ただBA.1のスパイクが1カ所だけ変異した「BA.1.1」には効果がみられなかった。
国立国際医療研究センターや米ウィスコンシン大学との共同研究で、英科学誌ネイチャーの姉妹誌に論文が掲載された。BA.1はオミクロン型の流行当初の主流だったが、現在は世界的に報告が減り、より感染力が高いとされるBA.2などが大半を占める。