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【製造業首位】海外展開加速。環境技術も優位。資金量9兆円規模。

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ミスミ発の調達革命 3.8億時間・2兆円のムダ一掃せよ

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2021/6/18 2:00
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製造業のゲームチェンジでミスミが中小部品メーカーにとっての脅威に

製造業のゲームチェンジでミスミが中小部品メーカーにとっての脅威に

日経ビジネス電子版

ミスミグループ本社がメーカーの調達現場に地殻変動を起こそうとしている。800垓(がい、1垓は1兆の1億倍)にも及ぶ種類の機械部品を受注生産し、平均2日で供給する「カタログ販売」は押しも押されもせぬ同社の代名詞。だが、それに飽き足らずカタログ販売で培ったデータをもとに、ミスミならではの人工知能(AI)エンジンを開発。部品設計と見積もりという最も労働負荷が高い調達業務から顧客の製造業を解放し始めている。ミスミの新機軸は「生産性後進国」の日本を変えるか。

◇  ◇  ◇

「こんなのが出てきたら商売あがったりですよ」。都内のステンレス部品の加工メーカーの経営者と話をしていると、こんな嘆き節を耳にした。「こんなの」とはミスミが5年ほどかけて開発したソフトウエア「meviy(メヴィー)」だ。

メヴィーの何が破壊的なのかを説明するには、まず日本の製造業が置かれた現状を知る必要がある。

とにかく日本の製造業の労働生産性は低い。2018年でみると経済協力開発機構(OECD)加盟国中16位。2000年は1位だったが転げ落ちるように下がっている。要因は多いが、生産性向上を最も阻んでいるのが、部品の設計・見積もりなどの調達現場といわれている。

生産現場ではロボット化やあらゆるモノがネットにつながるIoT化が進み、販売でもオンラインでのやり取りが日常風景になっている。だが、デジタル化が進んでも部品の受発注は旧態依然としている。特に部品加工を手掛ける2次、3次下請けではそれが顕著だ。

では、なぜ調達現場の生産性は低いのか。

3次元設計しても2次元の図面に描き直す非効率さ

一般的に金属や樹脂の部品はCAD(コンピューターによる設計)ソフトを使ってまず3次元(3D)設計する。問題はその後。調達先に見積もりを取ったり発注したりする際、紙の図面に描き直すケースが多いのだ。

「CADデータを相手に送ればすぐ見積もりと商談ができ、受発注が成立するのでは」と思うが、CADは色々なソフトウエア会社が手掛けており互換性に乏しい。そもそもCADデータをやり取りできるほどデジタル化されていない中小企業も多い。

その場合、紙の図面のやり取りはファクスだ。ミスミのサービスを使う会員5100社を対象にした調査によると、約98%が調達でファクスを利用しているという驚きの実態が浮かび上がった。

調達に3.8億時間を費やす

ミスミの試算によると、例えば1500の部品からなる機械の調達現場では作図に約750時間、ファクスによる見積もりに約25時間、返信待ちや納期に約168時間要するという。積もり積もってざっと計1000時間、125日も費やしていることになる。

仮にこの機械の調達業務を全国の製造業におしなべて計算してみると年間3.8億時間。時給をもとに経費換算すると「年2兆円以上の間接コストがかかっている計算になる」(ミスミ)という。

ただでさえ時間がかかるのに、日本の生産年齢人口は減少し続けており人手不足に直面している。さらに20年度から働き方改革関連法が中小企業にも適用され月45時間を超える残業が原則、禁止された。

八方ふさがりの製造業の調達現場。だが、ミスミはここに鉱脈を発見した。無駄だらけの労働時間を一掃する「ブルドーザー」が、19年から本格販売を始めたメヴィーだ。

見積もりから納入まで最短1日で

3Dデータをアップロードすると即座に見積金額が算出される

3Dデータをアップロードすると即座に見積金額が算出される

顧客はまず部品のCADデータをメヴィーのサイトにアップロードする。データには寸法や穴の径などが入力されているが、これをメヴィーのAIが読み取り、ものの数秒で自動で見積もりを出す。

設計を変えていくと金額もそれに応じて増減。複雑加工であれば自動的に金額が上がる。CADソフトは米オートデスクや仏ダッソー・システムズなど多くの企業から販売されており、メーカーごとに利用ソフトはバラバラだがメヴィーは種類を問わない。

金額が決まり受発注が成立すると、データは自動的にミスミグループの部品加工メーカー、駿河精機(静岡市)の工場へと飛ぶ。加工データが工場内のマシニングセンターや旋盤といった工作機械に入力されるや、切削加工を始める。終われば顧客に出荷される。見積もりから納入までは最短1日という。

切削だけでなく板金加工にも対応。曲げや穴開け、金型を使ったプレスなど千両役者だ。

「調達だけでなく加工して検査するところまで製造業の世界を変えたかった」。開発を主導したミスミグループ本社の吉田光伸常務執行役員は熱弁を振るう。

「選ぶ」から「描く」へ

ミスミはすでに800垓の品数をそろえたカタログから顧客が部品を選び発注する、究極の多品種少量生産を実現。製造業を部品設計から解放していた。いや、解放していたはずだったが、なぜできていなかったのか。理由はカタログそのものにある。

カタログ販売では、ある程度加工された半製品をベトナムなどアジアから輸入。日本で顧客のオーダーに合わせて最終加工する。顧客はオーダーする際、カタログから選ぶわけだが、800垓といえどもそこにあるのは標準規格品。「複雑形状など顧客が思い通りの図面を描いて発注するシステムではなかった」(吉田氏)

ミスミグループの受注生産のうちカタログ経由は52%。残る48%には十分対応できていなかった。吉田氏は「カタログから『選ぶ』のではなく簡単に『描く』ことへとビジネスモデルを変革したかった」と語る。

19年から本格販売を始めたが、5万5000のユーザーが採用。リピート率は8割以上といい、トヨタ自動車、ソニー、日本電産東レなど名だたる製造業が顧客リストに名を連ねる。

「この設計だと加工できませんね」。デンソーの生産技術部で工場用の無人搬送車(AGV)などを手掛ける小原基央さんは、部品の発注先に紙の図面で見積もりを依頼して1~2週間後にこんな回答を受けることがままある。時間の浪費に悩まされていたが、メヴィー導入で2カ月ほどかかっていた設計・製作を3週間ほどでできるようになった。年間200万円のコスト削減効果が出たという。

すでにメヴィーには500万点のCADデータがアップロードされている。データが増えれば増えるほど、AIは学習を重ね、最適な加工条件と価格を導き出していく。ある意味、顧客が育てる調達プラットフォームになっているのだ。

メヴィーは加工できない設計であればAIが修正を指示する

メヴィーは加工できない設計であればAIが修正を指示する

「メヴィーはCADの『先生』にもなっています」。「先生」とはどういうことか。吉田氏の説明に記者が不思議に思っていると、吉田氏はメヴィーを操作し始めた。

画面に映し出されたのは90度に曲がった板金。その曲がった部分の間近には穴があけられている。この図面を吉田氏がメヴィーにアップロードすると「これでは図面通りの加工ができない」というアラートが自動で画面上に出てきた。曲げと穴の位置との間には一定の距離がないと不良品になる、とAIが教えているのだ。

世界11カ国からエンジニア集める

「これ、部品の設計者がいらなくなりますね」と記者が問うと、「だから人はもっと高度な設計や創造的な仕事に従事すればいいと思うんです」と吉田氏。AIが機械加工の指南役になれるのも、カタログ販売以来ため込んできた33万社の顧客の膨大なデータがあるからこそだ。

メヴィーの開発はいばらの道だった。「ウェブブラウザーで3Dデータの設計なんて扱えない」「部品設計でAIのアルゴリズムなんて無理」。開発ベンダーを訪ね歩いたが門前払いばかり。困り果てた吉田氏は自前で開発に乗り出すことを決めた。

とはいえノウハウがまったくない。今度は世界の有力エンジニアを一本釣りすべく各国を歴訪。結果的に11カ国のエンジニアを口説き落とし、開発をひっそりと始めた。

吉田氏はNTTや日本オラクルでの実績をひっさげてメヴィー開発を主導

吉田氏はNTTや日本オラクルでの実績をひっさげてメヴィー開発を主導

吉田氏はNTT日本オラクルと渡り歩き08年ミスミにやってきた。ネットワークもソフトウエアも分かる二刀流エンジニアとしてメヴィー開発の指揮を執った。

「最初はデータの認識精度も悪く、本当に目指す姿を実現できるのか不安しかなかった」。特に開発陣を悩ませたのは価格の自動見積もり。特注部品は定価がないブラックボックスの世界だ。

同じ図面で複数の加工メーカーに見積もりを出しても、価格に5倍ほどの差が出ることは日常茶飯事。適切な価格をどう算出するか、膨大な数の図面を膨大な時間をかけて徹底分析した。自動算出できるようになっても「この部品でこの価格はおかしい」と顧客から叱責を受けたが、それも肥やしに最適なアルゴリズムを導き出したという。

製造業のGAFAM狙う

21年中には海外でもメヴィーを売り出す。部品加工のデータはさらに膨大になり、AIを鍛え上げる。BtoC(消費者向け)の世界では米GAFAM(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)に完全にデータの覇権を握られた日本だが、「MtoM(製造業の企業間取引)」でグーグルなどはデータをほとんど持っていない。

世界でもこの手の部品加工データを持っている企業は少ないとみられ、海外売上高比率5割のミスミは、世界の製造業のプラットフォーマーになる可能性を秘める。

もっとも、これまで図面とファクスで仕事をしていた中小の部品加工メーカーにはメヴィーは大きな脅威となる。

つまり、これまで年3.8億時間、2兆円以上の間接コストをかけてでも加工することが付加価値だったわけだが、メヴィーはそれを奪い去り「労働生産性の向上」という別の付加価値に塗り替えてしまうからだ。ややもすると創造性のない設計者の職すら奪う可能性がある。

メヴィーは「メビウスの輪」に由来する。メビウスの輪が表裏反転の比喩に使われるように、メヴィーは製造業を新たに創り直す利器となる一方、破壊するハンマーにもなり得る。カタログ販売に続くミスミのデジタルモノづくりは、「生産性後進国」だった日本の製造業を根底から揺るがそうとしている。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2021年6月11日の記事を再構成]

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