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キーエンス、年収2000万円でも安い? 群抜く高収益経営
ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

日経産業新聞
ビジネススキルを学ぶ
コラム
2021/11/19 2:00
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キーエンスは2021年4~9月期決算で最高益を更新した

キーエンスは2021年4~9月期決算で最高益を更新した

工場用センサーなど制御機器大手、キーエンスの業績が好調です。2021年4~9月期の連結純利益は過去最高を記録しました。営業利益率は50%を超えており、国内屈指の高収益体質です。競合企業との違いはどこにあるのでしょうか。グロービス経営大学院の金子浩明教授が「ポーターの3つの基本戦略」の観点から説明します。

【関連記事】キーエンス、平均年収10年で3割増 稼ぎを人に投資

■20年度は平均1751万円

キーエンスは社員の平均年収が高いことでも有名で、20年度は1751万円、過去5年間でみると1929万円でした。10年で3割以上増えています。高い給与で優秀な人材が集まり、付加価値の高い製品やサービスを提供するという好循環ができあがっているようです。

しかし、優秀な人材を集めているのは同社だけではありません。FA(ファクトリー・オートメーション)機器で競合する三菱電機オムロンファナックなども日本を代表する企業です。キーエンスは何が違うのか、経営戦略から見てみましょう。

米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した「3つの基本戦略」は①コスト・リーダーシップ戦略②差別化戦略③集中戦略――から成ります。

企業の製品・サービスの競争上の優位性には価格(コスト)と特異性という2つの基本的なタイプがあります。上の「3つの基本戦略を示すフレームワーク」は、競争優位の源泉である価格と特異性を横軸で区切り、縦軸は競争の範囲(スコープ)が広いか狭いかで区切られています。

■価格・独自性・ターゲット

コスト・リーダーシップ戦略とは、事業コストの低減を追求する戦略です。企業が事業全体として十分にコストを圧縮し、その上で業界平均程度の価格を設定できれば、競合の多くを上回る収益を上げられます。差別化戦略は、顧客が重視する1つ以上のニーズを独自の付加価値を持たせて満たす戦略です。成功すれば他社より高い価格で売れます。

集中戦略では競争の範囲をあえて絞ります。特定の顧客群を選択し、他社の追随を許さない製品やサービスを提供します。ポーター教授はこれら3つの戦略を通じて競争優位を築くことができると説きます。

キーエンスは差別化戦略を志向しています。同社は新たに打ち出す商品の約7割を「世界初」「業界初」と銘打っており、他社との価格比較が難しいです。そのため、値引き競争に陥ることがありません。

■後発組の価格戦略

しかし、安値で勝負することもあります。市場に後発で製品を投入する場合です。キーエンスは前身のリード電機時代、汎用センサーを中心に扱っていましたが、その後、測定機や画像処理センサー、電子制御機器のプログラマブル・ロジックコントローラー(PLC)など、他社を追う形で参入しました。

決算を発表したキーエンスの中田有社長(10月28日、大阪取引所)

決算を発表したキーエンスの中田有社長(10月28日、大阪取引所)

参入時は顧客に採用してもらうため安値でアピールします。その後、機能を向上させた新商品を素早く出し続けることで、徐々に価格を上げていきます。そうしているうちに、先発メーカーの製品からキーエンスに切り替える企業が出てきます。

ただし、競合各社も独自の製品・サービスの開発に力を入れています。キーエンスとの違いはどこにあるのでしょうか。

■3つの「スピード」

キーエンスの製品の大半は工場の製造設備で使います。設備を設計・管理するユーザーにとって最も重要なのは「生産性」です。自動車や半導体の工場をイメージしてみましょう。新設備の導入によってリードタイムや工数を削減できれば、生産性は高まります。しかしせっかくの新設備も、壊れてしまったら前後の工程も止めざるを得なくなり、生産性は下がります。納期が遅れると顧客の信用を失い、後の販売機会を失う可能性もあります。

生産性向上のニーズに応え続けるには「スピード」と「止まらないこと」が重要です。「スピード」は提案、納品、新製品投入の3つの速さです。キーエンスは顧客の相談に対して素早く提案・納品するほか、新製品を頻繁に発売することで「顧客の課題を先取りして解決している」と評価されています。

「止まらないこと」は製造現場で最も重視されます。生産ラインを止めないためには①装置が壊れない②装置間の連動が途絶えない③壊れたらすぐに代わりの製品を用意できる――ことなどが重要になります。キーエンスはこれらの点でも優れているとされ、ユーザーは多少高価でも他社に切り替えにくいようです。

さらに、顧客からの着金を急がないのも特徴です。キーエンスの「売上債権回転期間」は約4カ月(20年度)ですが、製造業の平均は2.0カ月未満です。この期間が長いほど、顧客にとって支払いの猶予期間が長いことを意味します。これもキーエンスの受注競争力につながっています。

■コスト削減徹底

競合他社との差異化ばかりでは卓越した高収益の理由は説明できません。キーエンスは並行してコストを低く抑えることにも成功しています。

これについては自社で工場を持たず生産を外部に委託する「ファブレス」だからという説明が多いですが、それだけではコスト削減を徹底できません。工業製品を売る企業である以上、製造の費用を免除されることはないからです。自社で製造しない代わりに、外注先にその費用を支払っています。仮に外注先よりも自社のほうが安く製造できる場合は、内製したほうが得です。

製造を外注することでコストを下げるには①製造が難しい製品は設計しない②閑散期や大量・安定発注など、安くても外注先が製造受託したくなるような方法をとる③標準部品は自社ベースで大量購入する――などの工夫が必要です。キーエンスはこれらを実行している可能性が高いです。

ほかにもコスト削減の工夫として、キーエンスは基本的に特注品を受け付けません。顧客の要望に応じて製品をカスタマイズすれば高い単価が期待できますが、コストも高くなります。キーエンスは他社よりも短いサイクルで新製品を投入することで、特注品に頼らずに多様な顧客ニーズに応えようとしています。

■もっと出せるはず?

実は、社員の給与も一概に高いとは言えません。もちろん2000万円近い平均年収そのものは一般的には高額ですが、キーエンスはここでも「低コスト」なのです。キーエンスの労働分配率(企業の粗利益に対する人件費の比率)は、前期の単独ベースで13%でした。この数字は、経済産業省調査の企業平均である50%を大幅に下回っています。つまり、データ上は「もっと出せる」計算になるといった見方もできます。

このように、キーエンスの高収益体質の理由は、他社との差異化を徹底することで比較的高い単価でも顧客を引き付け、並行して業界屈指の低コストを実現しているからです。キーエンスはセールスパーソンの高額報酬に注目が集まりがちですが、緻密な経営戦略が好業績を支えているのです。

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かねこ・ひろあき
グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。

「ポーターの3つの基本戦略」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/0585eccd (「GLOBIS 学び放題」のサイトに飛びます)

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