【航空大手】高内線、アジア近距離路線に強み。国際線を拡大。
ANAホールディングス(HD)は日本貨物航空(NCA)の買収に向け親会社の日本郵船と基本合意した。新型コロナウイルス禍でも好況だった貨物事業で供給力を強化する狙いがある。ただ、貨物事業は浮き沈みが激しいビジネスでもある。NCAを通じ専用機を増やす施策はリスクも大きい。
ANAHDは現在、大型の貨物専用機を2機、中型機を9機保有するほか、旅客機の貨物室(ベリー)を使って貨物事業を展開する。2028年度以降にはさらに2機、大型の専用機を導入する計画だ。
一方、NCAは貨物専業。他社にリースしている7機を含め、大型の専用機を15機保有している。
航空業界が苦しみ続けたコロナ禍の間も、貨物事業は好況だった。旅客便が大幅に減便されたことで、貨物スペースの供給量が減少。さらに輸送の主要手段である海運のネットワークが混乱したことで航空に貨物が流れ、運賃が高騰したためだ。
NCAは22年3月期、1893億円の売上高に対し、営業利益と純利益はそれぞれ744億円、613億円に上った。ANAHDは事業セグメントごとの利益水準を公表していないが、22年3月期は貨物郵便事業の売上高がコロナ禍前の19年同期に比べ2倍以上に伸びた。数少ない黒字事業として業績を下支えした。
ANAHDは貨物事業を再成長に向けた注力分野の一つとして挙げる。特に取り込みを急ぐのが日本を経由したアジアと欧米の間の輸送需要。北米を中心とした欧米と日本の間は旅客便の運航便数が少なく、貨物スペースの供給が比較的少ない。ここはNCAが注力してきた路線だ。
ANAHDにとっては合理的な買収にも見えるが、リスクは大きい。貨物事業はボラティリティー(変動性)の大きいビジネスモデルだからだ。
足元では海運網が正常化しつつあり、旅客便の復便も進んだ。貨物スペースの需給が緩みつつあり、22年10〜12月期、ANAHDの国際貨物事業の重量当たりの運賃単価は同年7〜9月期に比べ、14%下落した。
さらに、コロナ禍前は米中貿易摩擦などの影響で貨物市況は低迷。20年3月期のNCAの売上高は752億円にとどまり、318億円の最終赤字に沈んだ。ANAHDの大型の貨物専用機も「お荷物」と化していた。
ANAHDの津田佳明・グループ経営戦略室経営企画部長は「コロナ禍で国際貨物の事業環境が変わってきた」と話す。航空で運ぶ機会が少なかった完成車など大型商材のほか、半導体関連などの高単価な貨物の輸送が増えており、貨物量や運賃はコロナ禍前の水準ほどには低迷しないとの見方だ。ただ、世界経済の先行きは不透明で、中長期的な事業リスクは拭いきれない。
ANAHDと日本郵船は今後、買収条件を詰めていく。NCAは赤字体質が続いており、20年3月末時点で約1500億円の債務超過に陥っていたが、コロナ禍での好業績を経て債務超過はほぼ解消する見通しだ。ただ、22年3月末時点で有利子負債が約1800億円あり、事業価値を鑑みれば買収額は数百億円規模となるのが相場だろう。ANAHDは買収額を抑えられれば、自前で機材などを調達するよりも安価に供給力を補強できることになるが、日本郵船はコロナ禍を経て事業価値が高まったNCAを「安売り」はしたくない。
ANAHDとしては抱え込むリスクを許容できるだけの買収条件をまとめられるかが今後の焦点となるが、「高値づかみ」となれば、ただでさえコロナ禍で悪化した財務状況をさらに毀損する事態にもなりかねない。シビアな交渉が進みそうだ。
(日経ビジネス 高尾泰朗)
[日経ビジネス電子版 2023年3月8日の記事を再構成]
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