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ホンダ三部社長「EV連合、テスラとも十分に戦える」

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2022/8/10 2:00
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日本の大手自動車メーカーとして初の「脱ガソリン宣言」、宇宙ビジネスへの挑戦、そして電気自動車(EV)でのソニーグループとの提携――。2021年4月の就任以来、ホンダの三部敏宏社長は矢継ぎ早に大胆な改革を打ち出してきた。今をホンダにとっての「第2の創業期」と呼んで社員を鼓舞する背景には「ここで変わらなければホンダはなくなる」というほどの危機感がある。ホンダが進む道を三部氏に語ってもらった。

1961年生まれ、87年広島大学大学院工学研究科修了、ホンダ入社。2014年執行役員、16年本田技術研究所取締役専務執行役員、18年ホンダ常務執行役員兼本田技術研究所取締役副社長、19年本田技術研究所社長、20年ホンダ専務取締役、21年4月から現職。大阪府出身=的野弘路撮影

1961年生まれ、87年広島大学大学院工学研究科修了、ホンダ入社。2014年執行役員、16年本田技術研究所取締役専務執行役員、18年ホンダ常務執行役員兼本田技術研究所取締役副社長、19年本田技術研究所社長、20年ホンダ専務取締役、21年4月から現職。大阪府出身=的野弘路撮影

――電気自動車(EV)事業で、ソニーグループとの提携を決めました。改めて、この提携に至る経緯や狙いを教えてください。

「ガソリン車からEVに変わると、ただエンジンを降ろしてバッテリーとモーターを積み込むだけではなく、車の価値そのものが変わっていくと思います。数年前からそう考えて、ホンダの中でも色々やってきたのですが、なかなか自動車会社の域を出ない、想定を超える面白い話があまり出てこないな、と思うところがありました」

「そのころ、世の中では異業種の組み合わせで新しい価値を生むという話が一般的になっていました。そこで、自動車会社じゃないところと組むことによって、殻が破れるかもねという話が出てきたわけです」

「『異業種の組み合わせがいい結果を生む』ということについて、日本の産業全体にとっても良い事例にしたいという思いもありました。その中で、一番インパクトがあるのはソニーさんだなと思い、『まずはスタディー(ワークショップ)をしてみましょう』と当社から声をかけました」

「両社の若手を中心にワークショップをしてみたところ、数カ月後に『面白いものができそうです』と報告が上がってきた。そういうことなら、と吉田さん(ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長)とお会いすることになりました。先ほど言ったように、ホンダかソニーという個社の話だけではなくて、日本の産業全体に新しい流れを生み出せればな、という話もしました。それで、『じゃあ、やりましょうか』と。そこからは速かったですよ」

EV分野でのソニーグループとの提携を発表し、同社の吉田憲一郎会長兼社長(左)と握手する三部氏=小林淳撮影、2022年3月4日

EV分野でのソニーグループとの提携を発表し、同社の吉田憲一郎会長兼社長(左)と握手する三部氏=小林淳撮影、2022年3月4日

「25年の発売まで時間も少ししかないですが、今まさに一生懸命取り組んでいます。実際の中身は、買った後から進化するような車にするつもりです。ギリギリまで入れられるものは入れて、間に合わないものは後から車に入れる。立ち上がりよりも、どんどん価値が上がっていく、という『後から進化』が可能になるハード構成にします。今の我々のビジネスモデルとは全く違うものになるので、まずはしがらみのない新会社から始めていこうというわけです」

ホンダでもソニーでもない存在

――共同出資で設立する新会社ソニー・ホンダモビリティは、親会社のホンダとは全く別の存在になると伺いました。どんなイメージの会社になるのでしょうか。

「一時的なイベントとして会社をつくったわけではなく、ちゃんと自動車会社として独立して生きていける存在を目指すべきだと思っています。そういった意味で言えば、例えば生産をホンダでやる必要も別にない。最初は間に合わないので当然ホンダでつくりますが、その次は新会社にとって一番メリットのあるところでつくればいいでしょうし」

「一切の縛りはなしにして、あらゆる可能性を阻害しないように会社をつくろうとしています。新会社の社員が、やる気を持って『成功させてやるぞ』と思えるように、給与体系なども含めて、まさに今検討中です。役員クラスは、基本的には出向ではなく転籍です。帰り道を無しにしないと、やる気が出ないじゃないですか」

「だから、ソニーでもホンダでもない存在です。本当は、僕はソニー・ホンダモビリティなんて、両社の影が見え隠れする名前は嫌だったんですけどね。(関係者の間では)社名も、途中で変えるかもしれない、という話もしているようです」

――新しいEVスタートアップのような存在になる、ということは米テスラに勝つ自信はありますか。

「どうでしょう。彼らを追いかけるのではなく、新しい価値を我々で見つけていきますから。だけど、全然、十分に戦えると思いますけどね」

「脱ガソリン」、逆算で目標設定

――2021年4月の就任会見で「脱ガソリン」を宣言しました。この背景にあった危機感はどのようなものだったのでしょうか。

「カーボンニュートラルを目指すことは、ここ数年のうちに国際社会の中で当たり前の話になりました。それに対し、日本でも『我々も目指します』といったうわべの話はありましたが、実は具体的な動きがなかった。ただ、逆算すると、50年に本当にカーボンニュートラルを達成しようと思うのならば、いよいよ始めなければ間に合いません」

「これはもう算数の問題です。先進国で30年には電動車比率を40%、35年には80%。これだけ達成する必要があると計算上分かっていたので、ぼちぼち誰かが言わなければと思っていました」

「当時の日本でインパクトを持って受け止められたということは、それだけ世界とのギャップがあったということの裏返しです。国内がメインの市場であればまだ間に合うかもしれませんが、我々のビジネスの8割以上は海外です。ハイブリッド車(HV)も日本だけでいえば間違っていない。だけど、グローバルではもうそんなことを言えるような時期ではありません」

「二酸化炭素(CO2)だけではなく、その他の排ガスも含めて、やっぱりゼロがいいよね、という流れは、もうひっくり返らないと思います。ここまでくると、規制がどうこうというよりも『ゼロが社会正義』だと。我々が真っ先にそこに挑んでビジネスをつくりだせれば、世の中の人は喜ぶわけだし、我々にとってもうれしいことです」

タイのホンダ四輪車工場を流れるエンジン。ホンダは日本の大手自動車メーカーで初めて「脱ガソリン」の方針を表明した(2016年撮影)

タイのホンダ四輪車工場を流れるエンジン。ホンダは日本の大手自動車メーカーで初めて「脱ガソリン」の方針を表明した(2016年撮影)

「四輪も、二輪も、パワープロダクト(芝刈り機や発電機など)も、法規を見ているわけではありません。ゼロを目指すシナリオをつくり、その最終ゴールを見ながら、『では今、何をしなきゃいけないんだっけ』と考える、逆算です」

「あのメッセージは、社長に就任したから言ったわけではありません。もともと環境領域は自分の担当するエリアでしたから、20年10月に(自動車レースの)F1(フォーミュラワン)撤退を発表したころから裏では準備を進めていました。ただ、ホンダには従業員もたくさんいますし、社内外に向けた『変わりますよ』という発信が必要だということも頭にありました」

年3000万台のエンジンを出荷する責任

――社内の意識はどれくらい変わってきましたか。

「今でもまだ、相当、違和感はあると思います。特に現場には、エンジンを造っている工場もあるし、トランスミッション(変速機)を造っている工場もある。彼らの日々が全く変わっていない中で、理解しろと言っても難しいでしょう」

「ホンダはもともとエンジンが売りの会社です。自動車、バイク、そしてパワープロダクトのすべてにエンジンが付いています。我々は1年間におよそ3000万機のエンジン付き商品を売っています。トヨタ自動車が1000万台の車を売っているとしたら、我々はその3倍のエンジン付き商品を世に出しているわけです」

「従業員からすると『我々はエンジンで勝ってきたんだ』という意識が強いですし、きょうもそれで飯を食っている。『脱ガソリンなんて、何を言っているんだ』と思うのも仕方ありません」

「でも、だからこそ、化石燃料を燃やして馬力を出す『エンジン』というのものを、リードして変えていく責任が我々にはあると考えています。これは、社員全員が『もう分かったよ』と言うまで言い続けるしかありません。世の中の流れが裏付けをしてくれるので、少しずつ理解は深まってきたと思います。ただ、全員の方向が変わったかというと、そんなに簡単ではありません」

化石燃料を燃やして馬力を出す「エンジン」というのものを、リードして変えていく責任が我々にはあると考えています=的野弘路撮影

化石燃料を燃やして馬力を出す「エンジン」というのものを、リードして変えていく責任が我々にはあると考えています=的野弘路撮影

――電動化競争、特にEVをつくって売ることは、既存の自動車メーカーにとってどのような難しさがあるでしょうか。

「ガソリン車とEVというのはやはり違うものなので、分けないとうまくいかない部分があります。中身の部品が違えば調達網は全く違うものになる。部品点数が圧倒的に違うので生産ラインの長さが変わる。売り方やビジネスモデルもまるで違う」

「そうすると、上流から下流までみんな違うということになります。4つタイヤが共通点なだけの、全くの別物になるわけです。ホンダは従来の自動車産業を抱えているので、『変革』に対してマイナスに作用する部分もあります。今の事業を維持するための最適なルールがたくさんあっても、EVの時代になるともう合わない」

「そうした感覚から言えば、ディーゼルやガソリンのエンジンを積んだ車を造ってきた自動車会社が、EVを造る会社に移り変わるというのは、走りながらタイヤ交換をするくらい難しいことです」

変革を成し遂げなければ、10年後はない

――三部社長は「第2の創業」という言葉で、今の局面を表現されています。1948年の創業以来、ホンダ史に最も大きな衝撃を与える時代だということでしょうか。

「衝撃は間違いなく大きいですし、ここでちゃんと変革を成し遂げない限り、会社はなくなってしまうと思っています。いや、私がいる間は全然、大丈夫ですよ。だけど10年後を考えると、今動かさなければ、それは10年後になくなってしまうものかもしれません」

「創業というのはゼロからのスタートです。『ここから先はまた皆さん自身がつくるんですよ』『過去の先人がつくったものの上にあぐらをかいていてもだめですよ』と言いたいがために、従業員を鼓舞するためにあえて第2の創業という言葉を使っています」

「フィロソフィー以外、みんな変えてしまえ」

――これだけの変革を目指される一方、ホンダが変えてはならないものはなんでしょうか。

「『Hondaフィロソフィー』※というものがあるのですが、あれは変えません。逆に言うと、それ以外はみんな変えてしまえという感じです。守るべきものがたくさんあっても、それが阻害要因になってしまうと本末転倒です。変化を恐れちゃいかん、という思いがあるので、『守るべきもの』はなるべく言わないようにしています」

※「人間尊重」「三つの喜び」から成る基本理念、社是、運営方針で構成。社是では「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす」とうたっている。

「若い従業員の力を引き出すためには、『ホンダというのはこういうものだ』と教えるより、それは『フィロソフィー』だよと伝えるぐらいがちょうどいい。あとは好きにせいと。それぐらいやっていかないと変革に対して対応できないと思っています。『ホンダらしさ』なんてものは、次の世代が決めればいいのです」

「過去の成功体験なんて、もう邪魔なものですよ。それは我々の世代がつくったものであって、これからの若い世代がそんなものを踏襲する必要はありません。今は、ちょうど時代の変わり目なので、ちょうどいい。『このルールに沿ってEVをつくれば勝てる』、というルールはありませんから、これから、新しい人たちがつくればいいと思っています」

「ただ、1つだけ思っているのは、『チャレンジする姿勢』をホンダらしさと呼ぶのだろうということです。利益率どうこうと言うのは、それよりも上位にあってはいけない。『挑戦』が一番の上位概念にあり、そこがなくならない限り絶対大丈夫だと思っています。我々がいくらもうけても誰も褒めてくれません。世の中に『おお、こいつら、何かやりよった』と思ってもらえるか。そこが我々の生命線だと思っています」

過去の成功体験なんて、もう邪魔なものですよ。それは我々の世代がつくったものであって、これからの若い世代がそんなものを踏襲する必要はありません=的野弘路撮影

過去の成功体験なんて、もう邪魔なものですよ。それは我々の世代がつくったものであって、これからの若い世代がそんなものを踏襲する必要はありません=的野弘路撮影

(日経ビジネス編集長 磯貝高行)

[日経ビジネス電子版 2022年8月5日の記事を再構成]

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