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時価総額、AppleやAmazonの栄華は続くのか
ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

ビジネススキルを学ぶ
日経産業新聞
逆境の巨大IT
コラム
ネット・IT
2022/1/14 2:00
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株式市場でも日々の生活でもプラットフォーマーの存在感が膨らんでいる=ロイター

株式市場でも日々の生活でもプラットフォーマーの存在感が膨らんでいる=ロイター

世界の時価総額上位1000社(2021年12月24日時点)を集計したところ、米国企業の合計額が08年の金融危機後で初めて5割を超えたというニュースが流れました。上位には22年初に時価総額が3兆ドル(約340兆円)を一時突破して話題になったアップルなど「プラットフォーマー」と呼ばれる米巨大IT企業が並びます。この流れについてグロービス経営大学院の嶋田毅教授が、「ネットワーク経済性」「マルチプル法」の観点で解説します。

【関連記事】世界上位1000社の時価総額、米は初の5割超 日本5%未満
【解説のポイント】
・米巨大IT企業は利用者数の規模と利便性を強みに加速度的に成長
・独禁法などを巡る規制を引き金に株価が急落する可能性はある

■米6社で世界の8分の1

世界時価総額ランキングの上位7社を見ると、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと電気自動車(EV)の米テスラを除く5社が「GAFAM」と呼ばれる米プラットフォーム企業です。テスラを含む米6社で時価総額はおよそ11兆ドルとなり、上位1000社合計の8分の1を占めます。米企業全体も好調ですが、特に上位のプラットフォーム企業が元気なのです。

これらのプラットフォーム企業が活用している事業拡大の考え方が、この十数年で知られるようになった「ネットワーク経済性」です。端的に言えば「数が利便性をもたらし、その利便性がまた数をもたらすことで一気に拡大し、単位当たりのコストが下がる」という効果です。

ネットワーク経済性を生かしたプラットフォームは電話やネット通話のような単純なサービスでも成り立ちますが、時価総額上位を占める企業は、ツーサイド・プラットフォームやマルチサイド・プラットフォームを形成しています。これは、図に示したように、同じタイプの参加者だけではなく、他のタイプの参加者も呼び込むことでますます利便性が増すと同時に、それがさらなる課金のチャンスを生み出します

■アマゾンの割り切り

例えば米アマゾン・ドット・コムのプラットフォームは、利用者が増えるとますます売りたい人を引き寄せます。それがさらに利用者を引き寄せるという好循環をもたらします。最初は自ら商品をそろえていたアマゾンが、他業者の参加で成り立つアマゾン・マーケットプレイス事業から大きな手数料収入を得るようになったのは周知の事実です。

アマゾンが秀でているのは、例えば書籍であれば、自社で扱っている新品のほかに、アマゾン・マーケットプレイスの古本も表示することです。これは、新刊書だけを扱う書店と古本だけを扱う事業者に分かれている実店舗ビジネスとは一線を画しています。アマゾンは新刊書と古本で買い手を取り合うことになったとしても、ユーザーが満足して会員数が増え、会員から長期にわたって得られる利益が増えれば十分に元が取れると考えており、その割り切りは非常に大胆です。

■衰えぬ高い成長率

プラットフォーム企業にはネットワーク経済性以外にも重要な共通点があります。これだけの時価総額になってもまだ売上成長率が高いことです。高い成長率は高いバリュエーション(企業価値評価)をもたらします。

この2年、マイクロソフトは新型コロナウイルス禍にありながらも、13.6%(20年6月期)、17.5%(21年6月期)の年間成長率を実現しました。アマゾンは20.4%(19年12月期)、37.6%(20年12月期)です。日本企業で時価総額トップのトヨタ自動車が-1%(20年3月期)、-9%(21年3月期)ですから、業態が異なるとはいえ大きな差です。

プラットフォーム企業の場合「マルチプル法」の際に用いる指標自体が変わってくるとも言えます。マルチプル法とは、企業価値を何かの倍数として概算するものです。例えば日本の大企業はPER(株価収益率)やEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)をよく使うところを、プラットフォーム企業では利用者数や取引額総量などが参考にされたりするのです。

■特定の指標が評価左右

ここではPERについて比較してみましょう。PERは「株価÷1株あたりの純利益」で求められる数字です。「時価総額÷純利益」でも同じです。日本の時価総額1位のトヨタ自動車で約12倍、2位のソニーグループで25倍(ともに21年12月28日時点)です。

一方、アップルのPERは32倍、マイクロソフトは42倍、アマゾンは80倍、テスラに至っては1600倍超となっています。先に説明した成長期待によってPERが高くなっている面もあるのですが、そもそもビジネスモデルが大きく異なることから単純な純利益とは別の指標をベースにマルチプル法を用いているともいえます。

テスラのPERは1600倍超とケタ外れ(同社のイーロン・マスク最高経営責任者)=AP

テスラのPERは1600倍超とケタ外れ(同社のイーロン・マスク最高経営責任者)=AP

ここで重要なのは、その指標が何であれ、一度そのマルチプルが正当化されると、それが他の企業にも影響を及ぼすということです。マルチプル法は類似企業のKPI(重要業績評価指標)を参照するからです。

例えばここ1年で一気に急伸したテスラの株価が正当化されれば、それがさらに類似企業の株価の参考として使われるわけです。つまり、成長期待の高さや異なるマルチプルのロジックが米企業、特に新興企業銘柄の株価の急上昇を生んだ側面は否定できません。

■日本勢にはハンディ?

日本企業の時価総額上位10社は、トヨタ自動車、ソニーグループ、キーエンスリクルートホールディングスNTT東京エレクトロンソフトバンクグループ信越化学工業三菱UFJフィナンシャル・グループ日本電産となっています。いずれもエクセレントカンパニーではありますが、米国のプラットフォーム企業に並ぶ成長が安定して見込めるかと言えばかなり難しいでしょう。東証マザーズで首位のメルカリも時価総額は1兆円弱です。

数年前から世界競争を前提に起業する「Born Global」ということが言われていますが、英語を母国語とする企業に比べると、日本勢にとってグローバルに戦ううえではやはりハンディキャップになります。ほかにも人口成長率や経済政策の差、優秀な理系人材がスタートアップに流れる米国と大企業志向の日本の差など、米企業の隆盛と日本企業の相対的な地位低下はこれらの要素が絡み合った結果ともいえそうです。

■22年以降の焦点

多くのビジネスパーソンが気にしているのは、22年以降も米国のプラットフォーム企業がこれまでのように成長を続けられるかということでしょう。インフレなどの要素もありますが、それ以上に気になるのは独占禁止法などを巡る法的な規制です。

米連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長はアマゾン規制論者として知られる=ロイター

米連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長はアマゾン規制論者として知られる=ロイター

力を持ちすぎた巨大プラットフォーム企業を分割すべき、あるいは何かしらの歯止めをかけるべきだという声は米国のみならず欧州の議会や行政府の中でも強まっています。消費者も行き過ぎた富の偏在に感情的な反発を強めているとされます。

ただ、規制を設けるにせよ、拙速なものになるとそれが一気に市場の熱を冷まし、株価の急落を引き起こす可能性は否定できません。かつての日本では不動産への総量規制がバブル崩壊を引き起こし、長いデフレ経済を招きました。米国の議会や行政府もその轍(てつ)は避けようとするでしょう。巨大化しすぎたプラットフォーム企業の成長をどう「軟着陸」させるかは、向こう数年の米経済の見どころになりそうです。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「企業価値評価(マルチプル法)」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/cc4e328e (「GLOBIS 学び放題」のサイトに飛びます)

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