【航空大手】高内線、アジア近距離路線に強み。国際線を拡大。
「旬のいよかん、空輸しました!」
2月下旬、北海道のセイコーマート120店に愛媛県産のいよかんが積み上がった。価格は1玉138円(税込み)。これまで販売していたいよかんより2〜3割も安価だという。
空輸されたいよかんが北海道のセイコーマートに並んだ
温暖な気候で育つかんきつ類は、道民にとって「高根の花」だ。実際、総務省の家計調査からミカンへの支出額(2人以上の世帯、2020〜22年の平均)の多い都道府県庁所在地と政令市の順位を調べると、札幌市は数量別で9632グラムと全国25位だが、金額別では5001円と全国6位に付けている。他県から運ぶためのコストが価格を押し上げてしまうためだ。
いよかんの産地である愛媛県から北海道までの距離は約1300キロメートル。セイコーマートを運営するセコマはどうやって輸送コストを抑えたのか。知恵を絞ったのはANAホールディングス(HD)傘下で地域創生事業などを手がけるANAあきんどだ。「中間コスト」に着目し、航空便とセコマの道内物流網を組み合わせた。自前で運ぶことで輸送コストを低減し、卸業者への支払いを省くことで安価ないよかんの販売を実現した。
手法はこうだ。愛媛県の農園で育てた約600キログラムのいよかんを段ボール箱に詰めた後、農園側が直接トラックで松山空港に運ぶ。これは本来、輸送業者に委ねていた作業だ。松山空港から新千歳空港までの空輸は、ANAグループで貨物事業を手掛けるANAカーゴ(東京・港)が担う。市場に送られる青果は夜の最終便に載せるのが一般的だが、この時間帯はコンテナ運賃が高い。そこで昼の閑散便に注目、安い運賃で長距離を運ぶ仕組みを確立した。
新千歳空港でコンテナを受け取るのはセコマ側だ。同社の物流網で各店舗まで送り届けることで、収穫から2日足らずのいよかんが店頭に並ぶ。これまでの物流ビジネスは専用の輸送会社でないと成り立たないモデルだったが、「セコマのように独自の物流網を持つパートナーと組めば、鮮度の高い商品をより手ごろな価格で届けられる」とANAあきんどの田部敏之・札幌支店長は語る。
今回はあくまで試験販売だという。だが、両社は他の地域産品を輸送・販売することも視野に入れる。セコマが強みとするプライベートブランド(PB)商品や、ブランド力のある北海道産の乳製品などを、道外へ売り込むアイデアも温めているという。
セコマが連携を深めるのは空路だけではない。同社は2月、JR東日本グループで「ニューデイズ」や「キオスク」などの小売事業を担うJR東日本クロスステーションと地域創生に向けた協定を結んだ。やはりカギとなるのは、津軽海峡を隔てた北海道と本州を結ぶ輸送・販売ルートだ。
21〜22年に行った実証実験では、北海道の農産品が首都圏で即日完売した
JR東日本グループは、新鮮な農産品や日持ちしない弁当などを新幹線の空きスペースで運ぶサービス「はこビュン」を運営。運んだ地域産品を駅構内で販売する「マルシェ」を定期開催している。21〜22年に行った実証実験ではセコマと協力して、北海道産のアスパラガスやトウモロコシを東京駅などのターミナル駅まで運んだ。いずれも即日完売する人気ぶりだったという。
JR東日本クロスステーションも、山梨県に縁のある人気のテレビアニメ「鬼滅の刃」と、山梨名菓の「桔梗信玄餅」を組み合わせたオリジナル商品をセイコーマートで販売し、好調な売れ行きとなった。協定締結後はこうした商品の相互供給のほか、製造・物流機能を互いに活用しながら店舗開発や運営ノウハウも共有していく考えだ。
商品戦略部の朝日一博・ユニットリーダーは「北海道に張り巡らされたセコマの物流網とJR東日本の新幹線網を連携させ、北海道産の農作物を新鮮な状態で首都圏の駅に届けることは、地方・都市の双方にプラスとなる」と話す。
セコマは道外企業に「モテる」。紹介したANAグループ、JR東日本グループとの連携は、セコマが話を持ち掛けられた側だ。
セコマが運営するセイコーマートは北海道で店舗数1位を誇る
札幌市に本社を構えるセコマは、調達・製造・物流・小売りをグループ内でまかなう「北海道の雄」だ。セイコーマートの道内店舗数は1084(23年1月末時点)。国内最大手のセブン‐イレブン・ジャパンを上回り、道内人口カバー率は99%に達する。アイスクリームなどのPB商品のほか、農業生産法人も有しており、収穫量は毎年2000トンを超える。
道外企業にとってはセコマは「商圏の被らない魅力的な存在」と映る。セコマ渉外部の担当者も「道外企業との取引は拡大している。商品を日本各地に届け、北海道の認知度やブランド価値を高めることにつながるのであれば連携を広げていきたい」と話す。
飛行機や新幹線を使った鮮度の高い商品の輸送は、陸送を上回るほどの貨物モデルの主流とはなりにくい。とはいえ、魅力的な商品を互いに調達し合うための奥の手として使えそうだ。
(日経ビジネス 藤田太郎)
[日経ビジネス電子版 2023年3月3日の記事を再構成]
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