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川崎重工・帝人…上り詰めた傍流社長「異端の流儀」

日経ビジネス
コラム
自動車・機械
環境エネ・素材
2022/8/5 2:00
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歩むキャリアが回り道だと思うのは、経営トップというゴールを見据えているからでもある。そんな出世街道からはずれ、自らの興味の赴くまま収益機会を求め脇道をひた走る「はぐれ者」が新たな市場を切り開く。川崎重工業社長CEO(最高経営責任者)の橋本康彦や帝人の社長CEOである内川哲茂は、その道筋で異端の流儀を身にまとい、経営トップへと上りつめた。

川崎重工業社長CEOの橋本康彦は「傍流だからこそ自由闊達に研究できた」と振り返る(写真:竹井俊晴)

川崎重工業社長CEOの橋本康彦は「傍流だからこそ自由闊達に研究できた」と振り返る(写真:竹井俊晴)

「ロボットをやりたい」。川崎重工社長CEOの橋本康彦は、青雲の志を抱いて1981年に同社の門をたたいた。配属されたのは油圧機械事業部。ロボットはその1組織にすぎず、川重においては「傍流中の傍流」だった。

「東大出身やのに(同社本流の)航空でも造船でもなくロボットやりたいんか」。先輩からちょっと変わった目で見られたが、「居心地はよかった」(橋本)

というのも、花形部門と違い目立たず小さな所帯ゆえに、皆が自分のやりたい研究開発をこつこつとやれたからだ。「ロボットは甘ちゃんやな」。組織で動く他部門からは冷ややかに見られていたが、意に介さなかった。

「最後までやり通す」信条が芽生える

油圧駆動の仕組みや機構の改善などを研究するなか、自動車溶接向けの多関節ロボットで従来に比べ振動が起きにくい技術を開発。客先から評判を呼び、すでにあるロボットを量産するための設計ではなく、新規開発のための設計を次々と任せられるようになった。

86年には入社5年目ながら、川重として初めて米国の自動車ビッグスリーの一角と契約することに成功した。だが、ゴールにたどり着くまで心底骨を折った。自動車メーカーから認定を取るため、上司から渡された山積みの書類を日夜読み込んだ。安全性や耐久性などを証明する方法も一から勉強。習得した内容を基にした客先とのタフな交渉もすべてこなした。

ロボット部門は傍流ゆえ、人も経営リソースも少ない。だが、「権限を持って自由にやらせてもらえる分、どんなに厳しい環境でも責任を持って最後までやり通さないといけない」という信条が芽生えた。

その信条に従って、自動車向けなど市場が求めるロボットの開発に明け暮れた。だが、ロボット事業に存続の危機が訪れる。95年ごろ、売り上げのほぼすべてを占めていた自動車向けロボットの受注が激減。事業の採算としては「出血」が止まらない状況が続いた。

自動車業界に依存し過ぎたツケが回ってきた事業部では、立て直しに向けたタスクフォースが設けられる。そこで橋本はこれまで誰も本気で突破口を開こうとしなかった業界に着眼する。半導体業界だ。競合とは違う切り口で、半導体の母材であるシリコンウエハーを搬出入するロボットを開発し、市場を奪おうというのだ。

半導体業界を突破口に

思い切った提案だったが、幹部連中は「半導体のクリーンルームで(微細異物が舞わないように)ロボットを動かすノウハウはない」「(ウエハーを搬送する)水平方向の動きを出すだけなら技術的な付加価値はない」と後ろ向き。これに対し橋本は技術論ではなく、市場のポテンシャルの大きさを持ち出し、やる意義を訴えた。

「半導体メーカーの1回当たりの設備投資額は大きい」「搬出入にスピードが求められ、ウエハーも大口径化すれば半導体製造装置に占めるロボットメーカーの役割は今以上に大きくなる」。信条である「自らの責任と権限でやり抜く」ことを前面に幹部らを説き伏せ、半導体業界への参入にこぎつけた。

橋本らが開発した半導体ウエハー搬送ロボは常識を覆す斬新さがあった(1990年代後半、右上が本人)

橋本らが開発した半導体ウエハー搬送ロボは常識を覆す斬新さがあった(1990年代後半、右上が本人)

橋本らが開発したのは、高層ビルのエレベーターのように上下に素早く移動できるロボット。横に広がる半導体の製造プロセスを縦に変えることでコンパクトにできるうえ、プロセスも一方通行ではなく自由自在に組み替えられる異形のロボットだった。

顧客の下に通い詰めた努力が実り、ようやく数百台受注するものの、その後も営業赤字は解消しない。1999年4月、ロボット事業部は大幅なリストラを余儀なくされた揚げ句、モーターサイクル(二輪車)部門に吸収された。

造船や航空機部門の面々からは「金食い虫」とやゆされただが、自らを育ててくれたロボット部門を何とか立て直さなければならない。

売上高100億円を6年で達成

事業責任者の一人だった橋本は当時の二輪車部門トップに「今後の計画を説明させてほしい」と自ら嘆願。「時間をあげたら俺を説得できるのか」と言われた橋本は「できます。できなかったらクビはお任せします」と言い切った。そばで聞いていた上司から「謝れ!」と頭をはたかれた。

トップは1時間半に及ぶ説明を黙って聞いた後、「売上高100億円に育てる覚悟があるならやってみろ」と言明。当時、非自動車向けロボットの売上高は3億円だったが、橋本は「(世界の半導体装置メーカーが集積する)シリコンバレーに行かせてください。そこで100億円を必ず達成します!」とたんかを切った。

愛すべきロボット事業の存続を懸けて責任を背負い、人脈も地脈もないシリコンバレーに乗り込んだ。半導体装置業界のトップメーカーに猛然と営業をかけ、他のメーカーにはない提案力と粘り腰の交渉で受注を次々ともぎ取る。その後、川崎重工の責任ではなく、顧客のロボットの取り扱い方が原因で故障するトラブルにも真摯に対応。信頼関係を築き上げ、受注を積み上げていった。

当初は10年改革としてぶち上げた売上高100億円の目標を6年目で達成し、社内を驚かせた。目標を成し遂げたのは、入社後、傍流の組織風土で培われた「自由と権限を与えられたなら、仕事は責任を持って最後まで全うする」という異端児としてのたしなみが脈々と生きていたからだ。

半導体製造向けがけん引役の1つとなり、ロボット事業は2003年ごろに黒字転換するとともに、過去最高益を達成。その後も成長を続けている。新型コロナウイルス禍の21年3月期と22年3月期は主力の航空宇宙システムや造船・エネルギープラントが軒並み営業赤字や低収益にあえぐ中、精密機械・ロボット事業は安定的にもうけを出しきっちりと下支え役を果たした。

橋本は20年に川崎重工の社長に就任している。日経ビジネスでは、ピーチ・アビエーション(大阪府田尻町)を成功させて全日本空輸(ANA)のトップになった井上慎一の道筋を「山ごもり型」と評したが、ロボット事業に心血を注いで傍流からトップに上り詰めた橋本のそれは「脇道まっしぐら型」といえよう。

橋本は社長就任後、人事制度を刷新した。成果だけでなく、チャレンジ内容とその達成具合の両面で評価する仕組みを根付かせようとしている。「野心的な目標にチャレンジする社員を公明正大に評価する我々の眼力も試されている」。かつて自らの責任と権限で持ってチャレンジできる組織風土を愛した橋本は、今、人材を評価する側に回った。異端児をつぶさない経営を自らに言い聞かす日々だ。

帝人トップ、いきなり客先へ出向からの会社員人生

「入社したばかりの頃は(主流から)外れているなとは思っていた」。22年4月に帝人の社長兼CEOに就いた内川哲茂の会社員人生を変えたのは、入社5年目に命じられた、顧客である前田工繊への出向だ。

内川はモノを売るだけではなく、ソリューションを提供する大切さを傍流で身に付けた(写真:竹井俊晴)

内川はモノを売るだけではなく、ソリューションを提供する大切さを傍流で身に付けた(写真:竹井俊晴)

子会社への出向すら片道切符という時代。辞令は内川にとって青天のへきれきだったが、前田工繊での日々は発見の連続だった。同社は帝人から繊維素材を仕入れ、土木や建築分野向けの資材を製造。ただ当時、繊維素材を使った建設資材はまだ一般的でなく、前田工繊は資材を売るために建設の設計段階から関与し、施工指導まで提供していた。「モノを売るだけでなく、その前後があることでモノの価値は高まる」(内川)

帝人は開発した素材を用いて在宅用の酸素濃縮装置をつくり、それをメンテナンスサービス込みで在宅医療の現場へリースで提供する事業を手掛ける。このような単にモノを売るだけでなく、ソリューション提供型のビジネスモデルへと、会社を挙げてかじを切る最中だ。内川はいち早く、その原体験を「傍流」に身を置く中で得た。

「自分のコントロールの及ばないところでいろいろなことは起きるが、コンスタントに頑張っていれば、浮き沈みのうちの"浮く"ときが誰にでも等しく訪れる」(内川)。内川の出向は望まぬ「島流し」とも言えようか。ただその経験があってこそ、トップにまで上り詰めたと言える。「山ごもり型」「脇道まっしぐら型」に続く3つ目、「急がば回れ型」が内川の登頂までの道筋だ。

かつてリクルート創業者の江副浩正はこう喝破した。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。主流はいざ知らず、傍流で機会を作り自ら変わらなければそのまま日陰の存在で終わる。脇道を突っ切った先に見えてくる風景があることを傍流出身のリーダーたちは暗に教えてくれている。=文中敬称略

(日経ビジネス 上阪欣史、奥平力)

[日経ビジネス電子版 2022年8月3日の記事を再構成]

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