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【東海道新幹線】好採算の新幹線が収益源。グループで新事業展開。

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「ずらし旅」「推し旅」 JR東海のやわらか企画戦略

日経ビジネス
コラム
サービス・食品
2022/8/4 2:00
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「ただいま東京」キャンペーンではJR東海の呼びかけでJR東日本と東京メトロ、さらには大手エアライン2社も大集結した

「ただいま東京」キャンペーンではJR東海の呼びかけでJR東日本と東京メトロ、さらには大手エアライン2社も大集結した

日経ビジネス電子版

「そうだ 京都、行こう。」に代表されるマスマーケティングが身上だったJR東海。しかし新型コロナウイルス禍の後は「ずらし旅」「推し旅」など一見ニッチでマニアックな企画が続々と生まれている。その背景には、ニッチでもボリュームを確保するしたたかな計算と、社員一人ひとりが稼ぐことを考える意識の変化があった。

「まさに呉越同舟ですね」。6月に東京スカイツリーで開かれた「ただいま東京」キャンペーンの発表会を見て、あるJR関係者がつぶやいた。そこにはJR東日本、JR東海、東京メトロ、さらにはエアラインのJAL、ANAが大集結していたからだ。

この夏休み、全国各地から東京へ観光客を呼び込もうと立案されたこのキャンペーン。首都圏発の観光客よりも、首都圏着の観光客の戻りが鈍いことに頭を悩ませていたJR東海が各社に声を掛けて実現した。中身は公式SNS(交流サイト)アカウントを開設して情報発信を行う程度で、会場の記者からは「これだけではインパクトが弱いのでは」との声も聞かれた。しかし、鉄道業界に長く関わってきた関係者たちの反応は異なる。一様に「JR東海がここまでやるとは」と驚きの声が上がった。

JR東とエアラインはスキーで共同キャンペーンを張ったことがある。しかしJR東海とエアラインは東京~大阪間などのビジネス輸送でしのぎを削る競争相手で、これまでなら協業は考えられなかった。また、JR東とJR東海も首都圏からの観光客を奪い合う関係にあり、同じJRグループといえども協力が密だったとはいえない。

JR東海営業本部の安齋辰哉担当部長は「別に仲が悪かったわけではないのだが……」と苦笑しながら、こう話す。「新型コロナウイルス禍の前は東海道新幹線が混んでいたので、新しい企画を持ち込んだら怒られると思っていた、と取引先から言われたことがある。現実として、なかなか形にできなかったのも事実だ」(安齋氏)。

しかしコロナ禍による乗客の急減は、業界内で「堅い」「新しい取り組みに興味を持たない」と言われたJR東海を大きく揺さぶる。密を避ける風潮の中、「そうだ 京都、行こう。」といった、定番の観光地に大量の旅客を送り込む大型キャンペーンが難しくなったからだ。

とはいっても、東海道新幹線の座席数は1列車当たり約1300席。地方のローカル線とは違い、ある程度の乗客数を確保しなければビジネスは成り立たない。マスマーケティングからの転換は不可欠だが、ニッチにも振り切れない――。そんな中で安齋氏らが生み出したのが、20年7月から始めた「ずらし旅」だ。

東海道新幹線沿線であまり知られていない観光資源を掘り起こし、様々な場所へと出かけてもらう。一つひとつのパイは小さくても、集まればそれなりのボリュームになる、というのが狙いだった。

SNS中心のプロモーションに転換

企画の初期段階では、幹部から「旅に『ずらし』という言葉を使うのは違和感がある」といった声も上がったが「密回避といった言葉はマイナスのイメージがあるので使いたくない。耳に残るこの言葉がベスト」(安齋氏)と説得して実現にこぎ着けた。

プロモーションもこれまでとは違ったものにした。初期こそ俳優の本木雅弘氏を起用したテレビCMを放送したが、途中からはSNSでのプロモーションにかじを切った。今ではフォロワー数8万5000人を誇る。「消費者のニーズが多様化している今、SNSで話題になることが重要だと考えている」と安齋氏は話す。

新たな旅のスタイルを提案する原動力となったのは、20年7月に東京、静岡、名古屋、京都に新たに設置した「観光開発事務局」。これまでとは異なり、地域密着で隠れた観光スポットを発掘し、東京の営業本部と連携して新商品をつくっていった。

「ずらし旅」など一連のキャンペーンを企画する安齋辰哉担当部長。手に持つのは新幹線の窓から発想したずらし旅の公式キャラクター「ずらしmado(マドゥ)」

「ずらし旅」など一連のキャンペーンを企画する安齋辰哉担当部長。手に持つのは新幹線の窓から発想したずらし旅の公式キャラクター「ずらしmado(マドゥ)」

なかでも異色かつ話題を呼んだのが、21年7~9月に企画した「あいち冷やし旅」。愛知県はもともと産業のイメージが強く、観光に出かける人は多いとはいえない。ましてや暑い夏は、なおさら少ない。そこを逆手に取った。担当した観光開発グループの伊藤悟氏は「愛知県と対話するうちに、『冷やし中華始めました』みたいに『冷やし旅』はどうかという話が出たのが発想のきっかけ」と話す。

「冷やし」をテーマに愛知観光

調べてみると、愛知県内には海水浴場はもちろん、山間部には渓谷がある。そして名古屋の都心にも「アイスサウナ」というマイナス25度の空間が存在していた。これはサウナの本場、フィンランドのラップランドを再現したもので、熱いサウナを堪能した後はクールダウン、という趣向だ。愛知県の農産物を盛り込んだかき氷もメニューに加えた。

「愛知の観光スポットというと正直、名古屋城とテレビ塔、熱田神宮くらいしか思い浮かばない。しかし『冷やし』を切り口にしたらいろいろな魅力が見つかった」(伊藤氏)。結果、旅行商品のコロナ前と比較した回復率は、愛知方面が他の地域よりも10ポイントほど高かったという。これを受け、今年の夏も冷やし旅の第2弾を展開している。

深夜の京都駅に歓声が上がる

JR東海はさらにニッチな企画にも踏み込んだ。21年11月に始めた「推し旅アップデート」だ。

「推し」とは特定のアイドルを熱心に応援することなどを指す。対象人数は限られるが、その代わり、関わり方は非常に深い。そんなコンテンツを旅行商品にしている。

愛知県豊橋市にある動植物公園「のんほいパーク」で飼育している6頭の象の「象主」になれるプランでは、1人30万円と高額にもかかわらず46人の応募があった。担当する地域創生グループの小池奏里氏は「ここまで応募があるとは想定していなかった」と驚く。

左から伊藤悟氏、安齋氏、小池奏里氏

左から伊藤悟氏、安齋氏、小池奏里氏

静岡県伊豆の国市の幻の酒「江川酒」をテーマにした商品は、醸造方法を記した古文書が発見されたことを地元紙で知った静岡の観光開発事務局スタッフが発案した。1回当たりの募集人数は20人と少ない。しかし、日本酒を味わうだけでなく、酒米の田植え、稲刈り、醸造それぞれに参加してもらう仕掛けにしている。

同様に京都の安祥寺とは「復興特別体験」を実施。これは戦国時代以来、荒廃が進んでいた境内の復興に向け、苔(こけ)植えや植樹などに参加していくというものだ。初夏、秋そして春の3回がセットになっている。これも募集人数は20人だが、3回も足を運んでもらうことで、結果的に延べ60人の参加人数になる。ボリュームも確保できるというわけだ。

そして推し旅は、現場の社員の意識も変えつつある。

6月25日の深夜、最終列車が出発し、寝静まったはずの京都駅構内で歓声が上がった。推し旅の企画「真夜中の京都駅バックヤードツアー」の参加者たちだ。参加費は1人6000円。20人限定で募集したところ、なんと10倍の約200人の応募があり、抽選となったほどの人気ぶりだった。

係員専用の通路を通って、普段は入ることのできない切符売り場の裏側を見学。ホームに上がると、この日のために用意された保線作業用の車両「確認車」がやってきて、間近で見ることができた。その後は警護対象者などが利用する秘密の待合室を見学し、誰もいないコンコースへと足を運んだ。

保線作業の終了後に、異常がないことを確認するために走る「確認車」に参加者の視線が集まった

保線作業の終了後に、異常がないことを確認するために走る「確認車」に参加者の視線が集まった

ここで参加者の興奮は最高潮に達した。新幹線の発着列車を伝える案内板に「新富士行き」「三河安城行き」など、普段ではあり得ない行き先が表示されたからだ。通常は運行ダイヤに基づき指令所が一括管理しているが、異常時には駅側で表示内容を操作できるという。この日は特別にこのモードを使った。

あり得ない行き先表示を写真に収めようと参加者が一斉にシャッターを切った

あり得ない行き先表示を写真に収めようと参加者が一斉にシャッターを切った

実はこのツアー、発案したのは京都駅の現場社員たち。「コロナ禍で利用者が減るなか、少しでも収入増に貢献したいと現場から手が挙がった。観光資源だけでなく、我々が持っている鉄道という資産も価値の1つではないかと考え、現場と相談して内容を固めていった」(小池氏)。その過程で、保線部門なども巻き込んで、確認車の展示なども実現させた。

駅員自らが書いたウエルカムボード。現場の協力なしに企画は実現しなかった

駅員自らが書いたウエルカムボード。現場の協力なしに企画は実現しなかった

「コロナ禍によって、稼がなければいけないというミッションが現場も含めた全社員に浸透し、今までにないアイデアが次々と生まれている」と安齋氏は実感している。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2022年8月1日の記事を再構成]

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