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【製薬準大手】がん領域の新薬「オプジーボ」の普及拡大で急成長。

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ゲノム創薬、東北から世界へ 武田薬品など10万人解析
3月11日を忘れない

日経産業新聞
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ヘルスケア
2022/3/13 2:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

東日本大震災から11年。被災地の「創造的復興」の一環として進んできた「東北メディカル・メガバンク計画」が新たなフェーズを迎えている。実施主体の東北大学は武田薬品工業など製薬5社と、ゲノム創薬の取り組みを始めた。住民の全ゲノムを取得し、アジア最大のバイオバンクに飛躍させる。新型コロナウイルス禍で露呈した日本の創薬力低下の処方箋になるのかを追った。

神奈川県藤沢市にある国内最大級のヘルスケア拠点「湘南ヘルスイノベーションパーク」。中核として入居する武田薬品の研究所内には社内でもあまり知られていない小さな研究室がある。入室の際は静脈認証で厳重なセキュリティー保護がなされ、限られた研究員しか入ることができない。

安藤達哉主席研究員も入室を許可されたメンバーの一人だ。メンバーが据え置きのパソコンを通じてアクセスするのは湘南から約400キロメートル離れた宮城県仙台市、東北メディカル・メガバンク機構の「バイオバンク」だ。

バイオバンクでは生体試料やデータを保存する。同機構の専用棟の一室にはスーパーコンピューターがずらりと並び、プロジェクトに参加する宮城県や岩手県の住民のゲノムや健康情報など膨大なデータが保存されている。遺伝情報であるゲノムは「人間の設計図」とも呼ばれ、究極の個人情報だ。武田は厳重な管理の上、外部からこれらの情報にアクセスする。

東北メディカル・メガバンク計画は東日本大震災の創造的な復興計画の一つとして、総事業費500億円を投じて進められてきた医療プロジェクトだ。地域住民や世代間に跨がるゲノム情報の解析・保存を主目的とし、患者や健常者個人に合わせた医療の仕組み作りを進める。

東北大学が運営する東北メディカル・メガバンク機構を中心に実施されてきたプロジェクトには、宮城県と岩手県の約15万人が参加。個人だけでなく、3世代のゲノム情報などを集めているのが特長だ。同機構のトップを務める東北大学大学院医学系研究科の山本雅之教授は「国際的にも高い品質のゲノムデータと定評がある」と自信をにじませる。

バイオバンク計画は現在、データ蓄積段階から利活用に軸足が移りつつある。取り組みの代表例が製薬企業による創薬への活用だ。

21年、武田、エーザイ第一三共小野薬品工業、ヤンセンファーマが参画し、コンソーシアムが発足。全ゲノム解析の資金を一部提供し、24年までに10万人の全ゲノム解析を目指す取り組みが始まった。

製薬企業が21年11月時点で使える全ゲノムデータは1万5000件ほど。現状比で7倍ほどに増え、創薬に生かしやすくする狙いがある。

最も活用に積極的な企業の一つが国内最大手の武田だ。バイオバンクを用いて進めているのは脳の認知機能を維持する仕組みや要因の研究だ。東北メディカル・メガバンクの取り組みに参加した健常者約1万人に脳画像があることに着目。全ゲノムを読み込み、認知機能を維持できる群と維持できない群の違いはどこにあるのか、高齢で脳の萎縮が見られているにもかかわらず認知機能を正常に保つ因子はどこにあるのか、などを研究している。

武田には日本、米ボストン、同サンディエゴが連携する「コンピューテーショナルバイオロジー」と呼ばれるチームがある。データサイエンティストなどが所属し、ビッグデータを駆使して、新薬の開発につながる仮説を構築するのが役割だ。東北メディカル・メガバンクのバイオバンクを生かし、認知症などと関連する因子を発見できれば、新たな薬の開発につながる。「ゲノムと創薬をリンクさせることで新薬開発の成功確率を上げることができる」(同社の日本開発センターの蓮岡淳氏)

同機構の取り組みが功を奏し、ゲノムの創薬への活用が本格化しつつあるなか、山本教授はその先を見据える。バイオバンクは字義通り解釈すれば必ずしもゲノムに限ったデータベースではない。むしろ、ゲノムを中心に、健常者の健康データ、代謝物などありとあらゆるデータが統合、蓄積されれば創薬を進めるインフラになると考える。

欧米と並ぶ創薬力を持つとされる日本だが、新型コロナ禍でワクチンや治療薬の開発は後手に回り、創薬力の低下が指摘されている。「日本の製薬企業が世界で戦える武器として、バイオバンクという創薬プラットフォーム(基盤)を提供したい」と山本教授。東北から世界へ展開される新薬の開発に向けた取り組みに期待がかかる。

日薬連の真鍋会長「震災の教訓、コロナで生きる」

日薬連の真鍋会長

日薬連の真鍋会長

東日本大震災は医薬品の安定供給の難しさを改めて提起した。新型コロナウイルス禍でも、サプライチェーン(供給網)の強化は喫緊の課題として認識され、政府は新法の成立を目指している。「ポスト3.11」の製薬業界の取り組みや今後の展望について、日本製薬団体連合会(日薬連)の真鍋淳会長(第一三共社長)に聞いた。

―――震災発生当時の対応はどういうものでしたか。

「東北に工場がある企業を中心に地震、津波などの被害が出た。停電も発生し、医薬品を被災地へ安定的に供給するにはどうすべきか、緊急対応が必要になった。日本製薬工業協会(製薬協)は災害対策本部を立ち上げ24時間体制で厚生労働省と協力した。2011年6月までに138品目、総量73トンの医薬品を供給した」

―――事業継続計画(BCP)への影響は。

「もともと日薬連は07年にBCPプロジェクトチームを立ち上げ、業界にBCPをさらに充実させようと呼びかけていた。ただ、様々な反省が生じた。震災を受けて、生産拠点の分散化、サプライチェーンの管理、原材料などの調達先の複数化、一部生産拠点の国内回帰、医薬品の備蓄量の見直しが進んだ」

「震災前は、一部の医薬品で生産拠点に偏りがあった。震災により、さらに災害に対しての危機意識が高まり、安定供給の重要さを再認識した。震災の教訓はその後の熊本地震や新型コロナのパンデミック(世界的大流行)でも生かされた」

―――コロナ禍により新たな供給網の課題が浮き彫りになりました。

「東日本大震災の教訓から地震や津波への備えはできた。南海トラフ地震もある程度は想定できている。新型コロナで露呈したのは、グローバルなサプライチェーンをどう維持するかだ。地震、津波など災害ごとにBCPを作るというよりも、従業員が出勤できない、原材料が入らないなど目の前の障害ごとにBCPを作るほうがよいだろう」

―――岸田政権は経済安全保障を重視しています。

「安定的な医薬品の供給を使命とする製薬業界として協力するのは当然だ。計画の策定などが必要だが、従来のBCPとも重複する部分もある。自社の対応では限界がある場合、他の企業と連携して供給する必要も出てくる。業界としてサポートしたい」

―――被災地でのゲノム創薬の取り組みをどう見ますか。

「発症前、発症後の情報を含めて様々なデータが集まる。情報のプラットフォームとして有用だ。私は『ヘルスケア・アズ・ア・サービス』と言っているが、遺伝子を分析し、かかりやすい病気などが分かる可能性がある。個人ごとに異なるヘルスケアソリューションを提供されるのが理想で、ゲノムにより医療が大きく変わる可能性がある」

第一三共、震災機に工場設計や在庫水準見直し

第一三共は東日本大震災の教訓を生かし、事業継続計画(BCP)を見直した企業の一つだ。小名浜工場(福島県いわき市)が被災した経験などから、工場の設計、在庫の積み増し、調達の複数化などに着手。新型コロナウイルス禍でもその変更が生かされた。今後主力となる新型抗がん剤の安定供給でも一役買いそうだ。

現在はサプライチェーン本部長を務める福手準一さんが小名浜工場に入ったのは震災発生から2週間ほどたった2011年3月25日。高台の造成地にあったため、津波の被害はなかったが、地盤は浮き、高層の建物は大きな被害を受けていた。「稼働を再開したいが、協力会社も被害を受けていた」と福手さん。それでも小田原工場など他の工場のバックアップ生産でなんとか出荷停止は免れた。

震災の経験から、新たに建設する建屋は高層ではなく低層に統一。社会的な要請が高い製品や原料の在庫水準は3カ月から6カ月以上に積み増す方針を設けた。生産拠点も国内外に分散するほか、自社工場だけでなく委託先も拡充している。

第一三共は新型抗がん剤「抗体薬物複合体(ADC)」を中心に5年総額3000億円の投資を進めている。設備の低層化や調達先の複数化など震災の教訓を生かした生産体制が構築されつつある。「まさに『レジリエンス』を追求していきたい」と福手さん。安定供給に向けた地道な努力が続く。

「あのとき薬がなかったら」 製薬の重み今も

薬は病気を患った人にとって命を維持するためのインフラだ。東日本大震災発生から1週間後、宮城県名取市の実家から往復2時間かけて自転車をこぎ、祖母の狭心症の薬を取りに薬局へ行った。あの時薬がなかったら――。製薬企業の担当記者になってみて初めて、製薬のありがたみが身にしみるようになった。

製薬企業のミッションは患者の命を救うこと、これにつきるだろう。それを達成するためには大きく2つの方法がある。一つは病気に苦しんでいる当事者への製品の安定供給を目指すこと。もうひとつはまだ治療法がない当事者のため新たな薬の開発を進めることだ。これら2つが達成できないのであれば、「薬九層倍」のそしりは免れない。

製薬業界は東日本大震災という危機から学び、新たな可能性のきっかけとして生かそうと試みている。前者は、第一三共などに代表される事業継続計画(BCP)の見直しの取り組みであり、後者は武田薬品工業などのゲノムを活用した取り組みだ。

特に、震災を契機にした取り組みが新型コロナウイルス禍で生かされたのは象徴的だ。在庫の積み増しやダブルソース化など、震災後の取り組みが功を奏した事例は多数ある。

私たちはコロナ禍という未曽有の危機のなかにいる。ただ、危機の中だからといってそこから何も学べないということではない。震災時のBCP見直しもバイオバンクも発生から1年を経ずして動き始めている。コロナ禍は「3.11後」の世界でもある。危機から学ぶというその態度を通じて、より良く生きることができるように思われる。

(赤間建哉)
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