【業界2番手】預り資産重視。手数料ビジネスからの脱却急ぐ。
大手証券の1~3月期は個人部門が苦戦した
ウクライナ情勢の緊迫化による金融市場の変調が証券会社の業績を揺さぶっている。大手証券の2022年1~3月期決算は5社中4社が最終減益だった。投資心理の悪化で個人投資家が株式の売買を手控え、仲介手数料が減った。大手証券は預かり資産に応じた収入を重視する安定経営にかじを切ってきたが、市場変調による売買収入の落ち込みを補えていない。
野村ホールディングス(HD)の1~3月期は米国の損失が膨らんだ前年同期の最終赤字から一転して黒字に浮上したが、21年10~12月期と比べると利益は半減している。
業績下押しの主因は個人部門だ。ロシアがウクライナに軍事侵攻した2月下旬から株価は下げ足を速め、日経平均株価は一時2万4000円台まで下げた。「(個人の)リスク回避の姿勢が顕著になった」(野村HDの北村巧財務統括責任者)。株の売買を手控える動きが広がり手数料収入は減った。野村HDの1~3月期の個人部門の税引き前利益は前年同期比80%減の52億円、大和証券グループ本社の同部門の経常利益は41%減の67億円だった。
ロシアの軍事侵攻に長期金利の上昇が重なり、米国株も全面安になった。21年までほぼ右肩上がりで上昇した米国株などに投資してきた個人は多い。相場の急変にたじろいで様子見姿勢を強めた。大和の佐藤英二・最高財務責任者は「(1~3月期は)米国株や米国株投信が特に低調だった」と振り返る。
大手証券は短期売買で稼ぐビジネスモデルを変えようと、まとまった資産を運用する「ファンドラップ」や投信の預かり資産を積み増して安定収益を得る戦略を打ち出してきた。
大和のラップ口座の3月末の契約残高はこの1年間で4000億円弱増えた。みずほ証券は1~3月期にラップと投信で490億円の資金が純増した。成果は上がってきてはいるが、いまだに株式相場が急変すると売買手数料が減って個人部門の収益を圧迫する構図から抜け切れてはいない。
法人は投資銀行部門が苦戦した。米国の金利上昇を受けて「(1~3月期は)金利の適正な水準が分からなくなり、起債を見送るケースが出てきた」(みずほ証券の若林豊財務・主計グループ長)。株価下落で増資による資金調達も少なくなり、引受業務に打撃となった。
28日の外国為替市場で円相場が一時1ドル=131円台と20年ぶりの円安・ドル高水準を付けた。急速な円安を受けて、足元では日本の輸入企業のヘッジ取引が活発だ。米金利上昇も相まって、大手証券では金利や為替関連の金融派生商品(デリバティブ)の需要が見込める。
野村HDの北村財務統括責任者は「海外企業は円安を(日本企業の買収などで)好機としており取引は増える」とみる。預かり資産を重視した個人部門の収益改善は当面期待しにくい。市場変動をとらえた法人ビジネスがどこまで収益を下支えできるかが今期の収益を左右しそうだ。