日本の中央銀行。上場しているが、株式の取引量は少ない
米国のシリコンバレーバンク(SVB)が突如経営破綻して10日あまり。米シグネチャー・バンクが続き、欧州ではスイスの巨大金融グループ、クレディ・スイスの救済合併が決まった。各行の個別事情の影響が大きく、日本にすぐ波及すると慌てるのは早計だ。だが、つい2週間前まで人々の関心外だった「銀行破綻」が実際に起きているのは事実。万が一にも日本で銀行が破綻した場合、どのような手順で処理が進み、預金にどのような影響があるのか――。個人が知っておくべきポイントをまとめた。
日本では1997年以降に金融機関が相次いで破綻した金融危機を経て金融システムを守るセーフティーネットが整備された。金融機関の破綻時には「預金保険制度」に基づき処理される。万一の場合に預金者を保護し、決済の履行を担保して信用秩序を守ることを目的とする制度だ。破綻先に代わり、政府・日銀と民間金融機関が共同で設立した「預金保険機構」が一定額までの預金等を保護する。原資は金融機関から徴収している預金保険料だ。
全てをカバーするわけでなく、保護対象となる金融機関、金融商品が決められている。対象の金融機関は日本国内に本店がある銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、労働金庫連合会、商工組合中央金庫など。政府系金融機関や日本の銀行の海外支店、外国銀行の在日支店は対象外だ。農林中央金庫や農協・漁協などの系統金融機関も対象外だが、別途、預金保険制度と同様の仕組みでカバーされている。
金融商品で対象になるのは一般的な円預金で外貨預金はカバーしない。邦銀の外貨預金でも同様だ。昨年来の円安で関心が高まる外貨預金のデメリットの一つとして覚えておこう。円建てでも譲渡性預金や架空名義の預金、他人名義の預金(借名預金)は保護制度の対象外だ。
預金保険制度の対象の金融商品はさらに2つに分かれる――全額が保護される預金と、「元本1000万円とその利息まで」という条件付きの預金だ。後者は逆にいうとそこまでしか保護されず、破綻時には全額は戻らない可能性が高い。払い戻し保証を一定額に限る「ペイオフ」制度が2005年4月以降、全面的に始まっている。制度自体は昔からあったが、取り付け騒ぎを恐れた当局は長らく発動を封印。金融危機時には例外措置を繰り返して預金の全額保護を続けてきた。だが金融機関の経営も正常化、今後は預金者もルール通りの処理を覚悟した方がいい。実際、10年に破綻した日本振興銀行に対してはペイオフが発動された。
同じ預金でも当座預金や利息の付かない普通預金(決済用預金)は全額保護の対象だ。ペイオフの対象になる預金はそれ以外の、利息の付く普通預金、定期預金、納税準備預金、定期積金などだ。同じ銀行に複数口座あれば預金者ごとに名寄せして合算される。預金者1人あたり1金融機関ごとに元本1000万円までと破綻日までの利息は保護対象になるが、それを超える部分がどの程度戻ってくるかは破綻会社の財務状況次第だ。
例えば1500万円の定期預金なら1000万円までの部分は保護されるが、はみ出る500万円分については破綻処理を終えた後、債務カット率がどの程度になるかによる。カット率30%なら150万円は戻らない計算だ。小さな額ではないが金融危機時の破綻例で試算してみると2割前後になるとの数字もある。「1000万円を超えた分は全額没収」と過度におびえる必要はない。
名寄せ対象にならないよう可能な限り口座の名義はバラしておく。個人事業主の場合、事業用の資金でも個人名義のままだと他の預金と合算されてしまう。マンションの管理組合なども理事長の個人名で名寄せされないよう注意しよう。家族の預金は別々にカウントされるが、借名預金とみなされると保護から外れるし、贈与税がかかる場合もあるので注意が必要だ。名義分散には限界があるので、1つの銀行の預金残高が突出しないよう金融機関分散を図るのが正攻法ではあるが管理は複雑になる。相続時の手間も大変だ。
他には全額保護の対象である、利息の付かない決済用預金に切り替える手がある。決済用預金とは①利子がつかない②公共料金などの引き落としができる③いつでも引き出せる――の3条件を満たす預金だ。メガバンクはじめ多くの金融機関がメニューの一つとして提供しているが、中には持たないネット銀もある。
切り替えは簡単にできる。口座番号やキャッシュカード、通帳などはそのまま使えるケースが多い。最大のデメリットは利息が付かないことだが、現状、預金金利は依然としてコンマ以下のすずめの涙。今後は金利上昇局面に向かいそうとはいえ、日銀が預金金利に影響を与える政策金利を引き上げるまでにはまだ時間もかかりそう。諦めて心の安寧を優先するのも一案だ。