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コロナ禍による社会の変化こそ「起業」のチャンス
新規事業家 守屋実さん

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株式投資
日経マネー
コラム
2021/7/15 2:00
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――起業や新規事業の創出支援を専門とする「起業のプロ」として知られる守屋実さん。1992年に新卒入社した機械部品専門商社のミスミ(現・ミスミグループ本社)で新規事業部に配属されて以来、一貫して新規事業の立ち上げを手掛けてきました。

ミスミで10年間、同社創業者で当時社長だった田口弘さんと共に立ち上げたエムアウトという起業専業企業で10年間、その後独立して10年間。ひたすら新規事業の立ち上げをやってきました。同時並行で全く異なるプロジェクトを動かし、ある事業が失敗したら別の事業を立ち上げ、軌道に乗ったらその事業は売却してまた新しい事業を立ち上げる。それだけを30年間やり続けてきました。

――起業のスペシャリストのキャリアを歩もうと思った理由は。

「日本には新規事業の専門家がいないから新しいビジネスがなかなか立ち上がってこない」という田口さんの問題意識がきっかけです。日本の企業では、新規事業を立ち上げて軌道に乗せた人はその事業の責任者となり事業開発の現場を離れ、失敗すると二度とチャンスが巡ってこない組織がほとんど。これを繰り返していると、新規事業を手掛ける人は常に起業の素人ということになります。そこに疑問を感じていた田口さんが、僕に「永遠に新規事業だけをやれ」というミッションを与えたのです。

――新入社員でありながら、新規事業を担当することに戸惑いは?

学生時代に起業経験はあったのですが、最初は苦労しました。ある時は高齢者の訪問歯科医療の事業を立ち上げながら、同時にキャリア女性向けのアパレル事業の開発をしたり。当初は失敗の連続でしたが、量稽古を重ねることで、新規事業の自分なりの「型」が身に付きました。

例えば、僕は自分の仕事を知ってもらうために、年齢を使った数式(下図)で自己紹介します。これまで手掛けた企業内起業の数(17)と、独立起業の数(21)、週末起業の数(14)を足すと自分の年齢(52)になるというものです。自分のキャリアを可視化する数式です。

新しいサービスや商品を顧客に届けるには、その価値を可視化し、キャッチーな言葉で伝え、強く印象付けることが重要です。それは事業の担い手も同じ。自分の強みを瞬時に理解してもらえるツールを持っておけば、結果として様々なチャンスが巡ってくるようになります。

――30年のキャリアで積み上げた起業のノウハウや心得を記した書籍『起業は意志が10割』を5月に刊行しました。起業で最も重要なのは「意志」だと説いています。

起業や新規事業は、「何としても挑戦したい、やり遂げたい」という強い意志を持って臨まなければ動き出しません。事業立ち上げの過程では、思った通りになることはほとんど、いや全くないといっていい。想定外とつまずきの連続です。並々ならぬ強い意志と熱量がないと成功しません。

――一方で、いくら情熱を持って取り組んでも、顧客に支持されなければ軌道には乗りません。

その通りです。意志の次に重要なのが、「顧客視点から考える」ことだと思います。既にモノやサービスがあふれている今の社会では、自分が提供したいモノやサービスより、求められているものを売る方が圧倒的に成功する確率が高い。「そんなの当たり前だ」と思うかもしれませんが、顧客視点を貫き通せている事業は実は多くありません。最初は顧客視点で考えた事業であっても、コストなど様々な制約の下で展開していくうちに、いつの間にか顧客が求めている本質とズレてしまうのです。

――本書では、事業を失敗へと導く行動や姿勢を「7つの大罪」として紹介しています。新規事業に限らず、組織での仕事に当てはまる要素も多分にあると感じました。

30年間の起業人生で、僕がしてきた数え切れない失敗から得た貴重な教訓です(笑)。これから起業する人に参考にしてほしいと思う半面、失敗はどんどんした方がいいとも思っています。失敗には、未来の成功のヒントが詰まっているからです。

一方で、挑戦を続けるためには、致命傷を負わないことも重要です。「このぐらいの失敗なら大丈夫、なんとか立て直せる」という、許容ラインをあらかじめ想定しておくことで、そこに至らない限りは全力投球できます。これは起業家の生存戦略として、とても重要なことだと思っています。

――許容ラインはどのように決めればいいのでしょうか。

許容度は人によっても事業によっても違うので自分で考えるしかないのですが、イメージがつかない、ということであれば、事業の進捗を見直す「関所」を細かく設定することをお勧めします。後戻りできないところまで進んで、撤退か玉砕かの勝負に出るのではなく、「あれっ?」と思ったらすぐに立ち戻ってもう一度進み直すことができる、そんな関所を設定する。関所の度に、進み、見直し、進み直す――を繰り返すことで、想定外の失敗で深手を負い過ぎるのを避けることができるのです。

自分が世に出した事業で社会課題を解決できる

――エンジェル投資家としても活躍されていますが、投資先を選定する時のポイントは?

僕の場合は、自分の頭の中にこういう事業をやりたい、こういう事業が必要だというアイデアがたくさんあります。なので、そのコンセプトに合った事業で、かつ最後までやり切ってくれると思える人に投資します。

――最近の案件で印象的だったものはありますか?

たくさんありますが、例えば「ころやわ」という床材を作っている会社です。この床材は普段は固いのですが、人が転んだ時だけ柔らかくなって衝撃を吸収し、その後また固い床に復元するのです。

日本では毎年100万人の高齢者が転んで骨折していて、その後寝たきりになったり、骨折がきっかけで亡くなったりしています。この問題を解決するために、高齢者が転んだ時に床が柔らかくなって、骨折しない程度まで衝撃を減らせればいいという発想で作られた床です。ピッチ(短いプレゼン)を聞いて感動し、その場で出資を決めました。

――有望な投資先を見極めるに当たり、重視するポイントは。

条件やルールに沿って判断するというより、「感じる」という方が近いですね。ある人やコト(事業)に出合った時、「この人物、この事業にかけよう」と瞬時に情熱を注げるかどうか。ただ一方で、ほれた人物や事業がうまくいかなくても、決して短気を起こさないことも重要です。うまくいかなくて当たり前と割り切り、じっくり伴走していく構えが大切です。

お金についても同じようなことが言えます。投資家であれば当然、その事業にお金が付いてくるか、平たく言えば「カネのにおいがするか」には敏感でなくてはいけません。でも一方で、カネに執着していては駄目なのです。事業がうまくいかず、投資したお金が溶けてなくなることもあり得ます。一旦入れたカネは、その存在を忘れるぐらいの思い切りが必要だと考えています。

――それだけのリスクを負って新規事業に関わり続ける理由は?

最高に面白いからです。自分が素晴らしい、面白いと思った商品やサービスを自分の手で世の中に出すことで、社会課題が解決したり、人を幸せにできたりするのが起業の魅力です。そして、社会や人の暮らしを変える力を持った事業には、お金が付いてきます。

この1年は、コロナ禍によって人々の暮らしが一変し、様々な不便や不満が山積しています。見方を変えれば、人々の「不」を解決できる新しい商品やサービスのニーズが至る所にある。新たな商機と勝機があふれた時代とも言えます。だからこそ、多くの人の背中を押したい。

いずれ起業や独立をしたいと思っている人には、今すぐ動き出すことを勧めます。ただし間違っても、やりたいこともない中、ただ会社をつくるという手段先行はしない方がいい。会社を辞める前に、小さな挑戦と失敗を繰り返しながら経験値を上げておくことが大切です。週末のボランティアでも、友人の事業の手伝いでもいい。大きく構えず、小さな経験を着実に積み重ねていくことで、動く筋力を鍛えておくのです。そうしているうちに、チャンスが巡ってくる。

終身雇用制度が象徴するように、日本では高度経済成長期以来、大きな組織にとどまることが有利とされてきました。でもこれだけ進化圧が大きい時代にあっては、動かないことはリスクだし、とどまることは後退を意味します。やりたいこと、挑戦したいことがある人にはぜひ、今すぐ一歩を踏み出してほしいと思っています。

(撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希)

[日経マネー2021年7月号の記事を再構成]

守屋実(もりや・みのる)
1969年生まれ。明治学院大学在学中から起業を経験。卒業後ミスミに入社、新規事業の開発に従事。2002年にエムアウトを創業、複数の起業を手掛ける。10年に独立して守屋実事務所を設立、新規事業創出のプロとして活動する。ネット印刷のラクスルの立ち上げに参画、取締役や副社長を歴任。博報堂、リクルートホールディングス、JR東日本など大手企業の新規事業アドバイザーや宇宙航空研究開発機構(JAXA)の上席プロデューサーを務めるなど、幅広い業種で新規事業立ち上げに携わる。エンジェル投資家としても活躍。
『起業は意志が10割』 守屋実著/講談社/1650円(税込み)

ネット印刷のラクスルや訪問看護のケアプロなどの起業や企業の新規事業立ち上げ支援を数多く手掛け、「起業のプロ」として知られる著者。コロナ禍で既存のマーケットが瞬間蒸発する一方、新たな社会課題やニーズが次々と生まれる現在は、商機と勝機があふれる時代だと指摘する。自らの豊富な経験に基づき、起業で押さえるべき「9つのポイント」や心得を解説。社会課題の解決につながる事業の例やありがちな失敗を具体的に示しつつ、起業を成功に導くためのエッセンスを熱く説く。
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