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ダイムラー、「つながる車」でノキアに特許使用料
両社で和解、訴訟は取り下げ

瀬川 奈都子
ネット・IT
自動車・機械
ヨーロッパ
2021/6/1 15:00 (2021/6/1 22:24更新)
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ダイムラーは一転してライセンス料の支払いで合意した=ロイター

ダイムラーは一転してライセンス料の支払いで合意した=ロイター

【フランクフルト=深尾幸生】インターネットとの通信機能を備えた「コネクテッドカー(つながる車)」に関する基本的な特許をめぐる訴訟で、フィンランドの通信機器大手ノキアと独ダイムラーは1日、ダイムラーがノキアに特許使用料を支払うことで和解したと発表した。両社の合意は日本の自動車メーカーにも影響を与える可能性がある。

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ノキアとダイムラーが特許のライセンス契約を結んだ。この契約に基づきダイムラーはノキアにこれまで拒んでいた特許使用料を支払う。契約の内容は非公表としているが、ノキアはダイムラーに対する訴訟を、ダイムラーは欧州連合(EU)欧州委員会への訴えをそれぞれ取り下げる。

一連の裁判で問題となっていたのは通信規格「LTE(4G)」に関する特許だ。ノキアなど通信機器メーカーが持つ特許は自動運転車を含むつながる車を生産するうえで欠かせない標準特許とされる。今後自動車のデジタル化が進むなかで重要性が増すため訴訟の行方に注目が集まっていた。

ノキアはつながる車を含む全てのLTE技術を使う製品は、同特許を使っていると主張。一方ダイムラーは特許侵害について否定し、ノキアの主張は権利の乱用にあたると異議を唱えていた。

ノキアがドイツで複数起こしていた訴訟ではこれまで、ノキアが勝訴する場合と敗訴するケースもあった。ノキアが勝訴したケースではダイムラーは控訴していたが、ダイムラーは当該特許を使う車両の生産・販売ができなくなるおそれもあった。

つながる車は新しい市場のため、ライセンス供与や使用料支払いなどの慣行が定まっていない。ダイムラーは、ノキアは通信制御ユニットを生産する部品メーカーと交渉すべきだとも主張。20年11月のデュッセルドルフ地裁の裁判では、地裁が訴訟を欧州司法裁判所(ECJ)に付託するとの判断を下していた。

ノキアは1日、「今回の和解は、ノキアの自動車向けのライセンス事業の成長の機会を証明する非常に重要な節目だ」とのコメントを出した。ダイムラーの広報担当者は「経済的な観点、そして長期間にわたる法廷での論争を避けられるという点からも和解を歓迎している」と述べた。

独フォルクスワーゲン(VW)や独BMWはすでに、ノキアなどの通信関連企業が結成する特許連合「アバンシ」に対して、通信特許の使用料の支払いで合意している。ダイムラーも同様の枠組みを利用する可能性がある。

つながる車はインターネットを介して車の走行距離などの情報をやり取りできる通信機能を備えており、自動車大手は対応車種を増やしている。トヨタ自動車は日米で20年以降の乗用車の新車のほぼすべてに車載通信機を搭載している。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、つながる車の新車販売台数は35年に20年見込み比3倍の約9000万台になる見通しだ。世界の新車の8割強がつながる車になると見込む。

ダイムラーとノキアの特許を巡る争いは、日本勢を含めて車メーカーによる特許使用料の支払いの動きが広がるかどうかの試金石として注目が高かった。国内部品メーカーの開発担当幹部は「自動車に付加価値があるため完成車メーカーに要求がきた形で、求められる金額が巨額と聞いた」と明かす。危機感は強まっており、日本自動車工業会ではホンダやトヨタなどの有志で通信特許に関わる専門部会を設立し、情報収集などを進めている。

完成車メーカーが特許使用料を払えば、コスト増になり消費者にもしわ寄せがくる可能性もある。トヨタ関係者も「支払額が大きいとつながる車の普及に水を差しかねない」と不安視する。伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は「争いが続けば車、通信機器のメーカー両方がビジネス機会を失いかねない」とみる。成長分野の技術を巡る日本の完成車メーカーの対応も今後、注目を集めそうだ。

日本勢への影響必至


ノキアとダイムラーが和解したことにより、通信規格「LTE」(4G)通信に不可欠な「標準必須特許」のライセンスを受けることを拒んできた日本の完成車メーカーも、特許の権利者側との交渉の席につかざるを得なくなりそうだ。和解は他の企業を法的に拘束するものではないが、これまで抵抗してきた独自動車大手が支払いに応じた意義は無視できない。
ノキアがダイムラーを訴えていた訴訟の争点は「コネクテッドカー(つながる車)」の提供を可能にする標準必須特許のライセンスを受けるべきなのは、完成車メーカーか、それとも通信制御ユニットを生産する部品メーカーなのかという点だ。同じく権利者側から交渉の申し入れを受けていた日本の完成車メーカーは、ダイムラー同様に「交渉は部品メーカーとすべきだ」というスタンスをとり続けてきた。
ノキアはスウェーデンのエリクソンやシャープなどと共に「アバンシ」という特許連合に入っている。アバンシは4Gの必須特許の約7割を占めており、1台15ドルの包括的なライセンス契約を提示する。既に独BMWや独フォルクスワーゲンはアバンシを通じてライセンスを受けている。
ダイムラーはアバンシ陣営からの交渉に応じなかったためドイツで提訴されていたが、昨年、シャープから個別にライセンスを受けるなど姿勢に変化を見せ始めていた。今回のノキアとの和解を機にアバンシを通じたライセンスを受けるのかどうかは不明だが、実質ダイムラーが陣営の軍門に降ったのを機に「アバンシ陣営から日本の完成車メーカーへの交渉圧力は強まる」(特許訴訟に詳しい松永章吾弁護士)との見方がある。
特許に詳しい一色太郎・外国法事務弁護士は「つながる車では、付加価値の重心が本体からシステムに移る」と指摘する。交渉が滞っている一因は、産業構造が変化するなかで通信特許の価値をどうみるか、関係業界で定まっていない点にある。自動車業界は権利者との交渉と並行して、製品やサービスへの特許の寄与度をより正確に反映し、特許料をサプライチェーンの中で公平に分担できる仕組みを再構築する必要がありそうだ。
(編集委員 瀬川奈都子)
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