【国内トップ級】印刷用紙と段ボール大手。海外に展開進む。
王子ホールディングスは2050年に温暖化ガス排出量の実質ゼロをめざす。森林による二酸化炭素(CO2)の吸収・固定、燃料転換や省エネ設備の導入による排出量削減を柱に、50年を見据えた環境ビジョンや30年に向けた環境行動目標を定めた。エネルギー多消費型産業とされる製紙業をいかに脱炭素に導くのか。矢嶋進会長は社有林拡大や森林資源の活用を説く。
やじま・すすむ 1975年慶大経卒、本州製紙(現王子ホールディングス)入社。2015年王子HD社長。19年から現職。東京都出身。70歳
当社グループは50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)とする「環境ビジョン2050」、その道筋として30年度に18年度比で70%以上を削減する「環境行動目標2030」を定め、20年秋に公表した。
70%削減のうち50%分は森林によるCO2固定化の純増で達成する。当社グループは国内外に約58万㌶の森林を保有する。国内が約19万㌶、残りが海外だ。目標達成のため海外で植林地の面積を増やしていく。
すでに保有林があるブラジルやニュージーランド(NZ)を中心に30年度までに約15万㌶増やす計画だ。大きくなって成長が止まった木は伐採して新しい木を植える。成長が早い、CO2を吸収・固定化しやすいといった樹種の選定・植樹・育成には、当社グループが持つノウハウを活用し、効率の高い森林経営を進めていく。
ただ、排出量取引が広がってきた影響もあり、NZでは植林に適した牧草地の価格が高くなってきた。海外の年金基金などがNZの森林を買っているうえ、世界でだぶついた投資マネーも流入している。植林地の取得費用は約1000億円と試算しているが、さらに膨らむ可能性もある。
残る20%分の削減は石炭ボイラーのガスへの転換、省エネ設備への更新などで実現する。植林地の取得と合わせ、ざっと2000億円かかると試算している。経常的な修繕投資を除けば自由に使えるキャッシュフロー(CF)は年間800億円程度だ。机上の計算になるが29年度までの8年間では6400億円。今後5年間で手を打つならばCF4000億円のうち投資が2000億円を占め、かなりの負担になる。
それだけ覚悟して取り組まないと、企業として存続できないと考えている。ステークホルダー(利害関係者)に対するアカウンタビリティー(説明責任)を果たせないと認識して行動している。
計画を立てたのは世界の潮流を見据えたためだ。気候変動、地球温暖化の環境問題に対して影響力が強いのは欧州連合(EU)だ。20年初めの段階で、EUの30年の温暖化ガス削減目標(1990年比)は40%だった。これが50%以上に引き上げられるのは間違いないとみていた。今後、排出量取引が拡大し、排出量そのものに対する規制、いわゆる炭素税が課せられることになるだろう。
世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ1・5度に抑えることに伴う事業リスクを検討した。パリ協定の目標を達成できず温暖化がさらに進んだ場合、集中豪雨や干ばつが頻発する。最も大きな問題は海水面の上昇だ。1つの大きな工場で生産するのは効率が高い半面、工場水没という気候変動リスクを背負ってしまう。供給責任を果たすためには工場の分散化を検討せざるを得なくなる。
森林の維持・管理にも問題が生じる。干ばつや森林の乾燥で山火事が発生しやすくなってきた。植林地で木が育つには700㍉以上の年間降雨量が必要とされる。植林地としての可否は30年平均の降雨量をこれまで判断基準にしていたが、温暖化の影響が顕著になるなか、近年は直近の降雨量で判断するよう指示している。
欧州主導のタクソノミー(サステナブルな経済活動を促す基準)は確定していない段階だが、ベースになる温暖化ガス削減を急ぐ。2、3年で達成できるわけではなく、早急に行動しなければならない。ルールづくりは厳しく言うところがリーダーになり、シビアに考え行動するところが主導権を握る。それが欧州だ。
日本政府が30年度の温暖化ガスの削減目標を13年度比26%から46%に引き上げたのは正しい。日本の考え方を取り入れてもらうには、日本が厳しい目標を掲げ行動しないといけないと考えている。
当社グループが持つ脱炭素のノウハウは他社にも供与していきたい。例えば、成長が早い植林木を選び育てていくという森林経営のデータの交換・開示などを通じ、世界全体の温暖化ガス排出量削減に貢献していきたい。
ユーカリの品種を選び、育てる苗畑(5月、ブラジルで)
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