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日本経済新聞社は脱炭素社会の実現を後押しする「NIKKEI脱炭素プロジェクト」の第3回全体会議を2月中旬に都内で開いた。ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰などで、世界の脱炭素戦略は一時的に足踏みするとの見方があったが、中長期で実現すべき脱炭素社会が短期的な課題解決にもつながることが再認識された。参画企業を含め日本、世界が目標に向け行動し、実践する認識を共有した。
企業の新たな取り組みを熱心に聞く委員ら(2月、都内のホテル)
2月中旬に都内のホテルで開いたNIKKEI脱炭素プロジェクトの第3回全体会議では、まず2年目となる2022年度の活動を振り返った。21年度は活動の集大成として脱炭素社会を目指す宣言を取りまとめた。その決意の先にある具体的な行動について議論を深めようと、脱炭素委員会委員や参画企業の関心が高く、重要なテーマを設定した4つの分科会を開催した。
22年6〜7月に計2回開いた「生物多様性と自然資本」分科会では、気候変動のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の対になるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)について、専門家を招いて理解を深めた。
7〜9月に2回開いた「ディスクロージャーと金融」分科会では、カーボンニュートラルへの移行を促すサステナブルファイナンスの拡大に不可欠な開示基準などについて、深掘りした。このほか、「エネルギー」「サーキュラーエコノミー(循環型経済)とカーボンニュートラル」の分科会も順次開いてきた。
22年11月にはエジプト北東部のシャルムエルシェイクで開かれた第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)の会場から参画企業の取り組みを世界に発信した。
このほか、気候変動問題に取り組むユース団体との対話会を2回開いた。
23年3月には、2日間にわたるシンポジウムを東京・大手町の日経ホールで開催する。22年度の活動の集大成として、参画企業のトップらや委員が登壇し、脱炭素社会の実現に向けた次の一手を披露する。併せて2回目となるNIKKEI脱炭素アワードを公表する。
NIKKEI脱炭素プロジェクトは2023年度に3年目を迎える。2月中旬に都内で開いた第3回全体会議では、3年目の在り方について、参画企業や委員から活発な提案があった。
委員の一人は「参画企業の脱炭素に向けた提案がどのぐらいリアリティーがあってどこまで実現したのか。その全体像を描くのがこのプロジェクトの仕事だ」と提案した。例えば火力発電に水素やアンモニアを混焼することについては様々な意見があり、「実現可能性などについてきちんと検証する必要がある」と指摘した。
別の委員は「この会議は様々な関心やバックグラウンドを持った人々の集まりであることが強みだ」と強調。「日本が世界のスピードに負けないようにするには何を日本政府に求めるのか、日本の産業界が何を共通事項として持つべきか。もっと議論すべきだ」と話した。
企業からも「グローバルな視点での脱炭素の議論が少ない。日本が世界を引っ張っていくために何をするかという議論が必要だ」との声があった。脱炭素に関連する基準づくりは欧州が主導してきた経緯がある。「欧州の後追いではなく、日本がどうしたいのかというメッセージが必要だ」という。
23年度の脱炭素プロジェクトは「連携」をテーマに掲げる。企業と企業、企業と地域、企業と人などつながりによって、豊かな暮らしと未来の地球を守る取り組みを議論していく。全体会議や分科会、シンポジウムなどのほか、アラブ首長国連邦(UAE)で11月末に開幕する第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で日本の取り組みを国内外に伝える。
※大賞・奨励賞の内容は応募書類から作成
NIKKEI脱炭素委員会委員長 東京大学未来ビジョン研究センター教授
エネルギーの転換、そして脱炭素に向けて社会が大きく動く中、ロシアのウクライナ侵攻が企業を取り巻く環境を大きく変えた。エネルギー、食料、経済の安全保障の観点からも脱炭素に向かう取り組みの価値が大きくなっている。
2022年度に委員会では「決意」を「実行」に移す年として企業の関心の高い生物多様性、循環型経済、エネルギー、ディスクロージャー(情報開示)と金融について分科会で議論を深めた。
今後の動きとして注目されるのが、新たな段階を迎えるサステナビリティー情報の開示だ。国際的にも情報開示の基準が統合・整備され、日本でも有価証券報告書にサステナビリティー情報の開示欄が設けられる。国際基準を基礎に日本版の基準設定も進む。気候変動を皮切りに水、森林、生物多様性など自然資本に関する基準も23年に公表される予定だ。
事業環境が大きく変化する中でも自社のみならず、供給網からの排出削減、顧客や社会の排出削減に貢献する企業の取り組みは進んでいる。他方、世界の脱炭素の動きに対し、日本が十分な速度感と規模感をもって動けているかとの指摘もあった。
脱炭素に向けた企業の「次の一手」を進めるためにいかなる政策が必要か、世界、特にアジアの脱炭素の実現に必要な方策は何か。皆さんと共に考え、発信していきたい。
プロジェクト参画企業から
サスティナビリティー推進部部長 飯田征樹氏
100%リサイクルペットボトル、省エネ型自販機の導入推進などあらゆる面で脱炭素を進めている。23年1月から一部地域でさらに軽量化したアルミ缶を導入した。1缶当たり0・6㌘、CO2排出量を約3%削減できる。22年、富山と金沢のマラソン大会で製紙大手とランナー用紙コップを分別回収・リサイクルする実証実験を行った。
経営企画部SX推進チーム長 関口洋平氏(オンライン参加)
次の一手は、自然資本、生物多様性の保全・回復だ。気候変動と自然資本はコインの裏表のような関係であり、一体的に取り組むことが重要だと考えている。 22年10月にはCO2を回収し地中に貯留するCCS事業者向けの環境汚染賠償責任保険、11月には企業緑地の整備を支援する商品・サービスをパッケージでリリースした。
取締役専務グループ経営委員 進藤富三雄氏
紙パルプ製造時の石炭使用量を削減し、代替として当面は実用性のある液化天然ガス(LNG)を使う。その後ネットゼロカーボンに向けて、カーボンニュートラルメタンや水素、アンモニアなど最適な代替燃料に替えていく。所有する森を活用した陸上風力発電も検討し、木質由来の新素材開発など森林資源を根幹とした事業を着実に推進する。
代表取締役社長執行役員CEO 宮内大介氏
昨年、COP27に参加して世界との温度差を感じた。30年、50年の目標達成には課題をより明確にする必要がある。同じ「運ぶ」にしてもロスなく運ぶというように副詞を付け、具体的な行動・活動にすることが大切。当社でいえばボイラーの稼働実態と用途先をリンクした「エネルギーのマッピング」を具体化するような活動をしていく。
日本共同代表 内田有希昌氏
様々な環境変化が起きる中、レジリエンス(強じん性、回復力)は非常に重要な論点だ。脱炭素の対応は計画段階から本格的な実行段階へと移っており、今後はサプライチェーンの強じん化、政府、公的機関と連動した営み、人材育成が重要になる。また、生物多様性や資源循環も重要で、こうした課題解決に皆様と取り組んでいく。
取締役兼執行役副社長 田代桂子氏
ウクライナ侵攻により脱炭素の後退が懸念されたが、米国のインフレ抑制法(IRA)成立を機に、欧州では気候変動対策に向けた投資を後押しする政策が打ち出された。日本でもGX経済移行債の発行が計画されており、23年は民間資金の活用も重要なテーマとなる。投資家と企業をつなぎ、新たな資金循環の仕組みづくりに取り組みたい。
サステナブルビジネス部部長 角田真一氏
トランジションファイナンスに注力している。ローンやボンドなどバンカブルな領域だけではなく、会社設立時や間もないシードステージの企業に対して出資する枠組みを構築し、1号案件も出た。従来の事業金融にとらわれず、いかに貢献できるかが大事だと考え、バランスシートの上から下まで資金調達を支えるように取り組みを進めている。
執行役員ESG推進統括部長 石原亮氏
水素利用やCO2の回収・貯留などの自社技術を生かし、2050年のネットゼロを前倒しできれば、と考えている。水素とCO2からメタンを合成するメタネーション、大気から直接CO2を回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)などの技術開発に取り組む。スタートアップ企業や異業種・他分野との連携も進めていく。
執行役員広報部長 藤岡千春氏
建築時のCO2排出量削減に取り組んでいる。現状の算出方法は、環境投資をするほど工事額が上がり排出量が増える仕組みのため、工種や材料別に算出する新たなマニュアルを作成した。今後すべての施工者に建築時排出量算出を義務化する予定だ。脱炭素に特化した3つの海外ファンドにも出資、自己託送型のメガソーラーなども増やしている。
チーフ・サステナビリティ・オフィサー 滝沢徳也氏
新型コロナが収束しつつある中、当社の脱炭素への取り組みは出張の削減だけではなく、今後は代替燃料を使う航空会社との契約など新たな段階に進める。戦略から実行の段階に入るクライアント企業が増えており、効率的に脱炭素へのアクションを実行できるようにサポートする。脱炭素社会の実現に向けた各種制度化や情報開示を支援する。
コーポレート戦略部門部長 松本一道氏
再エネを拡大・活用するために蓄電池、揚水発電所、電気自動車(EV)の活用を進める。原子力はしっかりと安全運転を続ける。22年10月には60年運転に向けた延長認可を申請した。将来に向けては水素の活用が重要になる。原子力は次世代や新型の炉を検討し、火力は水素・アンモニアの混焼に向けサプライチェーンの構築を含め取り組む。
取締役副社長執行役員 奥田久栄氏
2035年度までに13年度比でCO2を60%削減する目標を昨年追加した。火力発電のアンモニア混焼については23年度末に愛知県碧南市の実機で最後の実証試験を行い、20年代後半に商用化する予定だ。再生可能エネルギーの電池の取り組みではトヨタ自動車と組み、リユースバッテリーを電力系統につなぎ、蓄電池として使っていく。