【国内最大の鉄道会社】JR7社のリーダー格。関連事業を強化。
東急はJR東日本などと静岡県伊豆地域で展開する次世代交通サービス「MaaS(マース)」の実証実験を始めた。2019年から続く実験の第3弾となり、前回実験よりも商品数やエリアを大幅に拡大。新型コロナウイルスの感染対策の機能も盛り込んだ。伊豆は自動車で観光する人が多いが、MasSで公共交通機関による移動を底支えし、コロナ禍で苦境の地域観光の回復を図る。
下田市内を走るオンデマンド交通の「Izukoくろふね号」
今回の実験は来年の3月末まで実施し、本サービス開始前の最終段階と位置づける。観光振興に主眼を置き、スマートフォンになじみのある20~30代の女性グループをメインターゲットに据えた。観光施設や体験のチケットは前回実験の約6倍となる125種類をそろえた。
サービスエリアは伊豆半島の東部などから西部に広げ、さらに清水地域や静岡空港まで含めた。
交通手段や観光商品の検索から予約・決済まで一括で可能にするのはウェブサービスの「Izuko(イズコ)」だ。スマホから専用サイトにアクセスし、電車やバスが乗り放題になるフリーパスのほか、観光体験や飲食店の電子チケットなどを手軽に購入できる。決済手段もクレジットカードに加えて「楽天ペイ」と「モバイルSuica」に対応した。
キャッシュレスで購入した電子チケットで観光施設や飲食店を利用できる
観光ニーズを盛り上げるため、イズコでしか体験できない観光商品を設けた。下田漁港(静岡県下田市)の見学プランでは、観光客が自ら市場で選んだキンメダイを昼食として調理してもらうことができる。地元漁協の担当者は「市場を見学できるのはイズコの利用客のみ。キンメダイの水揚げ量日本一の現場をぜひ見に来てほしい」と呼びかける。
Izukoオリジナル商品では、一般客が入れない下田漁港の市場で水揚げを見学できる
伊豆地方は鉄道路線やバス網がありながらも、静岡県の調査では約8割が自家用車を来訪手段として選んでいた。地域経済の活性化のみならず、自動車免許を持たない若者を呼び込むためにも、公共交通で周遊できる環境整備が課題だった。
解決策のひとつとして下田市内では人工知能(AI)が予約に応じてルートを決めるオンデマンド型の乗り合い交通を運行する。伊豆急下田駅周辺の中心部なら予約からおおむね10分ほどで配車される。今回は中心部から離れた宿泊施設も提供エリアに含めた。
また新型コロナ対策として、一部観光施設の混雑状況をリアルタイムで表示する機能を追加した。東急でマース事業に携わる森田創課長は「キャッシュレスで購入したチケットを見せるだけで利用できる。イズコはコロナ禍にも適したサービスで、安全に周遊してもらえる」と話す。
今回用意した交通チケットは、通常料金で公共交通機関を乗り継ぐより割安に使うことが可能だ。一方、足元ではコロナ前の水準まで交通機関の利用が回復していない。実用化にはコロナ後を見据えた採算性の見極めが課題のひとつになる。
新型コロナの影響でテレワークなど働き方の多様化が進み、東伊豆地方では仕事と休暇を組み合わせる「ワーケーション」の利用者が増加しているという。IT関係で働く20~30代が多く、イズコのターゲット層とも重なる部分がある。彼らの利用データを集めて需要を見極め、将来的な観光客以上定住未満の「関係人口」の増加につなげたい狙いだ。
(野元翔平)