【投資持ち株会社】中国・アリババ集団などを保有。ファンド運用も。
「Newsモーニングサテライト」のキャスター、佐々木明子さん
最近めっきり化粧ノリが悪くなった。ため息をつく私に友人が言い放つ。「仕方ないわよ、年とともに肌の新陳代謝は落ちるのだから」。道理でシミやシワが目立つはずだ、と納得した。
でも、どこかで聞いたこの「新陳代謝」という言葉。そういえば最近、ゲストが今後の日本経済の注目ワードとして番組内で挙げていた。「コロナによって日本企業は一気に新陳代謝を迫られたと思っている。これは必要なことだ」と。
確かに企業は今、リモートワークや非接触型技術の導入などを強いられている。株式市場では市場拡大をにらみDX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄などが活況だ。官も民も劇的な転換を迫られているのは間違いない。
この「企業の新陳代謝」について、さらにもっと昔に聞いたことがあるような気がした。そして思い出した。巨人の長嶋茂雄元監督だ。スポーツキャスターとして取材に駆け回っていた1995年頃。長嶋監督の野球人生を取材している時に、「プロ野球の親会社は、その時代の産業を表しているんですよ。あなたはそうか、知らないか。昔は鉄道会社が多かった」と懐かしむように語り出した。
「『阪急ブレーブス』『南海ホークス』『西鉄ライオンズ』などね。やがて食品系、80年代は小売業や金融などに変わったね」。なるほど、その時代に元気な企業がチームを担うのか。私が初めて触れた企業の新陳代謝の話だった。
その数年後、ソフトバンクや楽天、ディー・エヌ・エーなどのIT(情報技術)企業が球界の一角を占めるようになった。企業の新陳代謝が進むことで経済が活性化され、時代が変わり、そして文化が創られているのだろう。
ただ日本はそうした産業転換が遅いと指摘されてきた。よく例として挙げられるのが、日米の時価総額の変遷だ。95年の米国トップ3は、ゼネラル・エレクトリック、AT&T、エクソンモービルだったが現在は一変。アップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトと巨大IT企業が名を並べる。一方、95年の日本のトップ3はNTT、トヨタ自動車、日本興業銀行(現みずほ銀行)だった。25年たった現在は、トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、NTTドコモ(11月上旬時点)。ふむ。新旧交代の激しい米国に比べ、代わり映えがしないと専門家が言うのもうなずける。
肌の新陳代謝は、薬を塗って古い角質を取り除く美容医療があるが、急いで薬を塗り過ぎればピリピリと痛みが伴う。今回のコロナ禍の革新は激痛を伴っている。果たして日本企業の新陳代謝はどこまで進むのだろうか。
[日経マネー2021年1月号の記事を再構成]