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守れサプライチェーン 水害対策にスタートアップの力

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2020/10/6 2:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

RTi-castは津波の被害を受ける地域の人口や建物を即座に予測する

RTi-castは津波の被害を受ける地域の人口や建物を即座に予測する

台風や豪雨など毎年のように甚大な自然災害に襲われる日本。世界に目を転じれば気候変動から大規模火災が続発し人類を脅かす。企業活動や住民生活を守るため、スタートアップや大手は事業継続計画(BCP)や日ごろのSNSネットワークを防災に生かすサービスなどを持ち込み、リスク軽減を手助けする。「備えあれば憂いなし」を地でいくテックを追った。

大手製薬会社では今、来るべき災害に備え担当者らが、医薬品製造にかかわるサプライチェーン(供給網)のデータを次々と入力している。原料の調達先や出荷先、最終ユーザーの立地場所、保管できる在庫量などデータは多岐に及ぶ。

■被災をきっかけに起業

同社が導入したのは、Tech Design(テックデザイン、東京・目黒)が6月に提供を始めたBCP管理サービス「Resilire(レジリア)」だ。事前に自社の事業所や取引先工場などの場所をクラウド上に登録しておくと、災害時に気象庁などから自社の事業継続に影響する被災情報が自動で入ってくる。

どこが供給網のボトルネックとなっているのか常時分かり、時々刻々と変わる被災情報を社内の対応マニュアルとひも付けいち早い復旧に臨むことができる。この製薬大手を含めレジリアを導入した商社などは過去、関係先の被災状況を把握するのに時間がかかり、製品の供給が停止。原料の代替調達先の確保にも手間取り、多額の損失を出した。その苦い経験からもう失態は許されないとレジリアを選んだ。

津田裕大代表がテックデザインを起業したきっかけは、2018年の西日本豪雨だ。自身も大阪で被災し自宅が3日間停電。ITコンサルティング会社経営の経験から、データの力で減災に貢献したいと考えた。当初はボランティア志望者と復旧を手助けしてほしい人をマッチングするサービスを無償提供。防災で収益化できるビジネスを探るうちに、「BCPはあってもいざという時使えていない産業界の実情を知りテックデザインを起業した」。

似通ったサービスは他にもあるが、強みは直感的な使いやすさ。「取引先の工場のある地域が停電しています」などテキストが時系列で分かりやすく表示され、サプライチェーンの関係拠点を示した地図上に各地の震度や降雨データがビジュアルに並ぶ。

「取引先が多く把握しきれないという企業のニーズは大きい」といい、平時からサプライチェーンの全体像を掌握することで有事の危機対応に生かしてもらう狙いだ。現在は商社なども試験運用しているが、「まずは命に関わる社会的責務が大きい製薬会社への導入を狙う」(津田代表)。

■飛び交う地域のミクロ災害情報

日本の自然災害は台風や地震だけでなく、ここ数年は毎年のように大規模な水害に襲われている。国土交通省によると、19年の水害の被害総額は2兆1500億円と1961年の統計開始以来、最大となった。これは鳥取県の域内総生産を上回る規模。自然災害に立ち向かう上で、テクノロジーの活用は焦眉の急だ。

災害に付き物の不安を解消するため、大同団結して命を守る仕組みをすでにあるサービスに落とし込んだのが、地域向けSNSアプリを手掛けるマチマチ(東京・渋谷)だ。

普段、アプリ上では近所だからこそわかり合える飲食店や医療機関、子育てなどの情報が盛んにやりとりされている。コミュニティーは全国1922の市区町村を対象に林立し、アクティブユーザー数は月間200万人。地域密着を地でいく。

「防災と地域コミュニティーサービスは相性が抜群」。マチマチの六人部生馬代表は、災害時にこそ「ご近所さん」ネットワークが威力を発揮すると考え、防災機能を実装した。災害が起きるとマチマチの運営会社が情報共有の場をSNS内に立ち上げる。やり取りされるのは、メディアでは伝えられないきめ細かな地域の情報だ。

「○○の道は冠水しているから車は使えなさそう」「子ども連れだけど避難所には迷惑かけないようなスペースあるかな」。19年、関東甲信越地方に甚大な被害をもたらした台風19号の際にもマチマチでしかチェックできない情報があちこちで飛び交った。

マチマチの実力に行政も着目する。9月には東京消防庁が同社と協定を締結。同庁がマチマチのアプリ内に公式アカウントを持ち防災情報を発信できるようになった。「銀座1丁目」や「甲子園三番町」など市区町村よりも細かいエリアに住む人にピンポイントで避難訓練への参加を呼びかけ、他人事と思われない工夫をこらしている。

防災には的確で素早い予測技術も欠かせない。15年に米カリフォルニアで創業したOne Concern(ワン・コンサーン)は、人工知能(AI)を使って洪水や地震の被害を予測する。

洪水では降雨量など気象に関するビッグデータをもとに、水害が発生する最大72時間前から予測される浸水地域を地図上に表示できる。組んだのは日本固有の天候データを豊富に蓄積しているウェザーニューズだ。

両社でデータを掛け合わせ、精密な予測モデルを構築し有益な情報を自治体や企業に提供する。SOMPOホールディングスとも手を携え、19年3月から熊本市で実証実験している。災害が多い日本での仕事に本腰を入れるべく、20年には日本法人を立ち上げた。

AIは災害後の復興にも力を貸す。東大発スタートアップのArithmer(アリスマー、東京・港)は、家屋や工場などがある地形と浸水エリアの数カ所の水深から保険金の支払額を算出するシステムを開発。三井住友海上火災保険が採用している。従来の人手による被害調査では支払いまでに1カ月ほどかかっていたが、最短5日程度に短縮できるという。

日本は水害だけでなく地震大国でもありリスクに絶えず直面する。21年は東日本大震災から10年の節目でもある。企業や住民の防災意識が高まればスタートアップの技術やサービスにも磨きがかかりそうだ。

(山田彩未)

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