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ドコモ完全子会社化、澤田NTT社長が直轄経営

コラム(ビジネス)
ネット・IT
2020/9/30 2:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

オンラインで記者会見するNTTの澤田社長(左)とNTTドコモの吉沢社長(29日)

オンラインで記者会見するNTTの澤田社長(左)とNTTドコモの吉沢社長(29日)

NTTは29日、NTTドコモを完全子会社化すると発表した。稼ぎ頭のドコモの再統合でグループ一体の運営体制を強化する。携帯料金の引き下げやポスト5Gの覇権争いに切り込む準備が整う。ドコモの時価総額のピークが日本一の43兆円となった2000年から20年。NTTの澤田純社長は葛藤を乗り越えてグループ再編を決断した。NTTは敗れ続けてきた世界戦略に再び挑む。

「吉沢社長、ごめんね。ドコモはシェアこそ1位だけど収益は3番手だ」。29日にオンラインで開かれた記者会見で、NTTの澤田氏はドコモの現状に不満があることを隠さなかった。「4月後半にはドコモに打診した」と明らかにしたが、子会社化は前々から頭の体操として考えを持っていたという。

30日からTOB(株式公開買い付け)を実施し、他の株主から3割強の株式を取得する。取得価格は1株3900円で、28日終値(2775円)に4割のプレミアム(上乗せ幅)をつける。買収総額は約4兆2500億円と、国内企業へのTOBでは過去最大となる。

完全子会社化でグループが一体となり、高速通信規格「5G」に投資し、世界での成長につなげる。菅義偉首相が求める携帯電話料金の引き下げも見据え、経営効率化で値下げ原資を捻出する。

■ドコモの料金プランに不満

「携帯料金をもっと下げれば顧客が増える。そんな発想はドコモにはないのか」。19年6月、最大4割値下げと表明したドコモの新料金プランに澤田氏はこう思った。「料金は吉沢氏に任せている」と静観の構えを装っていたものの、不満があるのは明らかだった。

そんな思いはNTT役員も共有していた。「ドコモはもっと稼げる」と異口同音にNTT幹部はつぶやく。ドコモ幹部は「料金プランを何も分かっていない」と反論するが、新しいアイデアの打ち返しは少なかった。「ワンNTT」を掲げる澤田氏は、経営の歩調が合わないドコモの完全子会社の時期を探っていた。

ただ、迷いはあった。「ドコモの完全子会社化には莫大な費用がかかる。海外のM&A(合併・買収)に振り向けた方がいいのでは」。澤田氏がまず優先したのは、将来の持続的成長を見据えた大型提携だった。

■マイクロソフトとの交渉に「急げ」

19年12月、NTTは米マイクロソフトと包括的な提携を発表した。サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)とがっちり握手をする澤田氏だが、提携に向けて交渉をしていた夏。「一体いつまで時間がかかるんだ」と周囲に発破をかけていた。

マイクロソフトとの提携には次世代の「6G」の通信網整備の協力も念頭にある。5Gで日本企業は主導権を握れず、ドコモは携帯電話の基地局整備で海外企業に頼らざるを得ない。そんな状況を打破する思いも強く、「澤田経営」はスピード重視に傾斜していく。

「意思決定の仕方が異なる」「スピード感について行けない」――。澤田氏は合理性を重視する一方、既成概念にとらわれない大胆な戦略もいとわない。「役所より役所」と皮肉られるNTTの体質に慣れた幹部たちは舌を巻いた。労使交渉で澤田氏と対峙したあるNTT労組幹部は「発想はドライ。手ごわい交渉相手だ」と認めている。

澤田氏が次々と提携戦略を重ねる一方、ドコモの吉沢氏は失点を重ねた。象徴的だったのが、19年秋の中国・華為技術(ファーウェイ)製の5G端末の調達を巡る判断だ。

「4G端末のサポートをしないといけない」。ドコモはなかなか、ファーウェイの5G端末の扱いを判断できずにいた。NTTはグループの海外事業に影響が出るため、「当然扱わない」と即断し、動かないドコモに調達しないことを迫った。両社のスピードの違いが際立つ格好となった。

吉沢氏は部下から上がってきた案件を承認する「ボトムアップ」タイプで、「部下に嫌われない上司」(関係者)だが、スピード決定できない。

■菅新政権誕生で環境変わる

そうこうすると20年春に新型コロナウイルスが世界的に大流行した。「体調が心配だ。秘書に少し控えろと言った」(NTT幹部)と心配されるほど、頻繁に入っていた海外出張案件はなくなる。株式相場も不安定で高値づかみになりかねない海外のM&A案件は当面見送りになった。そこに携帯料金値下げを掲げた菅首相が誕生した。そして、澤田氏はしびれを切らし、決断した。

大胆かつ合理を求める澤田経営の原点は85年のNTT再編にある。澤田氏はNTTの民営化などを事務方として深く関わった。複雑な利害関係をときほぐし、時には大胆なビジョンを示して難局を破る。民営化の苦難が澤田氏の経営センスを磨いた。

持ち株会社に移行した99年のグループの再編の状況もよく知る。澤田氏はグループ全体を見渡し、客観的に分析できる強みがある。携帯料金値下げをにらみ、6G時代に世界で勝ち抜く戦略を進めるには、NTTグループがより一丸になる必要があった。だからこそ、反発も予想されるドコモの完全子会社化をためらいもなく実行した。

■NTTグループ人事にも独自色

TOBと同時に発表されたドコモのトップ人事にも澤田氏の独自色が透けてみえる。

グループ会社の社長人事では持ち株会社の社長より入社年次が上の人間を置かない。ドコモのような主要子会社では技術系と事務系を交互に就任させるという不文律がある。社内バランスに配慮したもので、人事・労務畑が長かった鵜浦博夫前社長はそうした経緯も踏まえてパズルのような人事配置をした上で澤田氏に引き継いでいる。

技術系の吉沢氏は20年春に退任見通しで後任は事務系の辻上広志前副社長の昇格とみられていた。しかし、辻上氏はグループのNTT都市開発社長に就任。持ち株会社副社長で澤田氏の懐刀だった技術系の井伊基之氏を副社長に送り込んだ。井伊氏は「安政の大獄」で知られる井伊直弼の子孫にあたる。完全子会社化後にドコモ社長になる。

NTT社員は上司の入社年次をはじめ、技術系か事務系なのかをすぐに答えられるほど、人事に関心を持つ。澤田氏が腹心の井伊氏を社長に据えたメッセージは明確だった。技術系の社長が2代続くという人事の不文律が乱れることよりも、6G向けの研究開発をグループ一体で優先することにこだわった。

■国が大株主の特殊形態

NTTは日本電信電話公社が民営化したものの、現在も株式の約3割を国が握っている。NTT法という設置法があり、法律に基づいて事業に制限がかかる。NTT東日本と西日本が東西に分かれて固定電話事業を扱っているのはそのためだ。一般企業と異なる経営形態だけに、菅首相の携帯料金値下げ要請には敏感に反応せざるを得ない背景がある。

「NTTグループの霞が関や永田町への根回しはさすがだ」。通信行政に長年携わる旧郵政省系の総務省幹部はこう語る。NTTグループでは、主要な幹部は政治家や中央省庁の幹部と太いパイプを築くことに腐心する。

そうして築いた情報網から菅首相はワンポイントリリーフではなく長期政権になると判断したのだろう。官房長官時代から「通信行政は菅さんの意向が大きい」(NTT幹部)と影響力を認めるNTTは携帯料金値下げは不可避と判断した模様。その判断はもちろん澤田氏が下したとみられる。

ドコモはかつて世界初の携帯電話のインターネットサービス「iモード」で海外に打って出た。その結果は散々たるものでそれ以降ドコモは内向きになった。「役所より役所らしいといわれるNTTグループの中でも特にドコモは役所っぽい」(通信業界関係者)。今回の完全子会社化で吉沢氏は社長を退く。

ドコモの時価総額はピーク時の43兆円に比べて現在は約10兆円と4分の1だ。NTTを合わせても20兆円に届かない。NTTが反転する体制はようやく整った。内向きドコモは井伊新社長の下、「開国」してグループ一丸体制を築けるか。過去の大型投資は失敗の連続だったNTTグループ。約4兆円を投じる再編の決断は、NTTだけでなく、日本の通信産業の未来も左右する。

(企業報道部 新井重徳)

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