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商人は客に寄り添う 「出社が基本」伊藤忠・鈴木社長

日経ビジネス
2020/9/25 2:00
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鈴木善久(すずき・よしひさ)氏 伊藤忠商事社長COO(最高執行責任者)。 1979年伊藤忠商事入社。2003年航空宇宙・電子部門長、執行役員。2012年ジャムコ社長、16年伊藤忠取締役専務執行役員、18年社長COO、20年からCDO、CIOを兼ねる。65歳(写真:的野 弘路)

鈴木善久(すずき・よしひさ)氏 伊藤忠商事社長COO(最高執行責任者)。 1979年伊藤忠商事入社。2003年航空宇宙・電子部門長、執行役員。2012年ジャムコ社長、16年伊藤忠取締役専務執行役員、18年社長COO、20年からCDO、CIOを兼ねる。65歳(写真:的野 弘路)

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。

今回、話を聞いたのは、伊藤忠商事の鈴木善久社長COO(最高執行責任者)。緊急事態宣言が解除された直後に、出社体制を通常に戻しました。リモートワークを継続する会社が多かった中、伊藤忠の判断は注目を集めました。その後、感染の再拡大を受け、出社体制は柔軟に変更していますが、そもそも伊藤忠はなぜ、出社が必要だと考えたのでしょうか。背景には、伊藤忠が重視する「商人」としての心構えがありました。

■「自分はできるから」という理由で在宅勤務をしていいのか

――コロナ禍において、伊藤忠商事はどのような出社体制をとってきたのでしょうか。

「2月、3月くらいから感染がかなり広がって、伊藤忠としてどうするか、だいぶ悩みました。早い時期から、IT(情報技術)業界を中心に在宅勤務を導入する会社がある中で、伊藤忠には国内勤務者が3300人ちょっといて、そのうち生活消費に関連する分野に45~50%近くが携わっています。そして、生活消費の分野は、在宅勤務がままならない方たちがすごく多い。そこに、たくさんのお客様や事業会社があり、社員もたくさん出向している」

「つまり、伊藤忠のビジネスの多くの部分を、コロナ禍においても在宅勤務がままならない生活消費の分野が支えているんです。そう考えたときに、伊藤忠にはテレワークをするための体制や機器が整っているからといって、自分たちだけ在宅勤務をしていいのだろうかと」

「伊藤忠は、社員一人ひとりが『商人』であることを非常に大事にしています。だから、このコロナ禍においても、商人としての姿勢というのはどうあるべきかを考えました。流通や物流などの分野に深く関与しているという意味で、伊藤忠の社員も店頭に立って商品を売ったり、荷物を届けたりする"エッセンシャルワーカー"だというくらいの自覚を持って仕事をすべきだという考えが、まず基本にあるわけです」

「それから、伊藤忠が目指すこれからの商社像も関係します。商社は元来、川上から川下にバリューチェーンをつなぐビジネスをしてきました。しかしこれからの時代は、消費者目線に立ち、川下から川上へとバリューチェーンをつくり直す必要があると考えています。そういう新たな商社像を目指しているのに、リテール(小売り)や流通の皆さんが現場に出て仕事をしているときに、伊藤忠だけ在宅勤務でテレワークをします、というわけにもいかないだろうと考えました。それで感染拡大が深刻になる3月初旬までは、在宅勤務を一切導入せず、通常勤務を継続していたのです」

「ただ、感染が徐々に広がってきて、社員が通勤途中に感染するリスクも出てきました。やはり、社員の安全が第一なので、まず3月6日から、組織長の下の社員は基本は1日おきくらいで交代で出社する『輪番制』を始め、3月26日から『原則在宅』としました。その結果、出社率はどんどん下がっていきました」

「そうこうしているうちに、緊急事態宣言が出されました。その前の4月2日からは『全員在宅』として、出社率は本当にごく少数、15%ぐらいまで抑えました」

――そして緊急事態宣言が5月25日に全面解除され、26日から「通常出社」に戻したというわけですね。

「政府が緊急事態宣言を解除したということは、ある程度、感染拡大が収束する見通しが立ってきたということです。そして、経済を再生しなければいけない。しかも伊藤忠は、最初に動き出す生活消費分野に深く関わっている民間企業ですから、やはり我々も通常出社に戻そう、という流れになったんです」

■在宅勤務比率を何パーセントにしろとは絶対に言わない

「その後、第2波のような事態になってきて、安全を重視するために7月20日に『輪番制』に戻し、7月31日に『原則在宅』にして在宅勤務率を高めました。仕事の流れがあるので、僕ら(経営層)から在宅勤務比率を何パーセントにしなさいとは絶対に言いません。原則在宅にしようとか、輪番制でやったらどうかとか、そういう大まかな指示を与えるだけです。あとは8つのカンパニーそれぞれが判断する」

「第2波の状況もほぼわかってきたので、それで今日(取材は8月31日)、通達を出して、9月からまた『輪番制』に戻します。とはいえ60歳以上の人や基礎疾患がある人たち、子供や介護が必要な家族がいる人たちは、引き続き在宅勤務を基本にしてもらっています」

――かなり頻繁に体制を変えてきたのですね。

「頑固に『絶対に通常出社でいくぞ』ということではなくて、基本の姿勢があって、その時々の状況において柔軟に対応していく。これが、伊藤忠の強みなんだと思います。いったん8割にする、2割にするとか言ってしまうと、おそらく、数字を達成することが目的となり、状況が変化してもなかなか方針を変えにくくなると思いますが、うちは柔軟に対応します」

■社員の4割が「理解するが共感はできない」

――伊藤忠がいったん通常出社に戻した5月末は、まだ様子見で在宅を継続した企業が多かったと思います。従業員の反応はどうでしたか。

「6月頭に、労働組合がアンケートをとりました。会社の考え方や理念、通常出社という基本姿勢について『理解する』と答えた人が7割。一方で、共感できるかという問いに対しては、『共感できない』と答えた人が7割いました。つまり、会社の考えを『理解もするし、共感もする』という人は3割、『理解はするけど共感できない』という人が4割。『理解もできなければ共感もできない』という人が3割いました。こういう社員の反応も頭に入れて、少しずつ微調整しながら対応してきました」

「最初はやっぱり怖いんです。新型コロナというのは、えたいが知れない病気だから。そのため、『在宅勤務をなぜ継続しないんだ』という考えの方が強くて共感できないのだと思います。それがだんだんと、3密を避けて、こうやれば大丈夫だと自分でコントロールできるようになってくれば、社員の共感度は少しずつ上がっていくのではないでしょうか」

「この『共感できない』という社員の意識は、今回の対応で一番悩んだ部分です。だから一生懸命、社内に発信しています。出社体制を変える度、ほぼ毎回メッセージを出しています。それで分かってくれるかどうかは別にして、分かってもらうための努力をしています」

「もちろん、会社の防疫体制はものすごくしっかりしていますし、理解と共感のギャップを埋めるためにいろいろと取り組んでいます。例えば、東京女子医科大学病院と提携して、PCR検査をすぐできるように体制を整えています。検査結果は1日で出ます。また、社内の健康管理室の医師が毎日、熱が出た人や何となく症状がある人を全員把握して、日々、状況を追跡するようにしました。今のところ、出勤したことによって感染した人は幸い1人もいません」

社員の「理解」と「共感」のギャップを埋めることに苦心している(写真:的野 弘路)

社員の「理解」と「共感」のギャップを埋めることに苦心している(写真:的野 弘路)

■商いの基本はお客さんと同じ目線、出社と在宅で心証に違い

――考え方の話に戻りますが、そもそもなぜ、出社が商人として正しい姿勢なのでしょうか。

「先ほどお話ししたように、伊藤忠の事業の大きな塊は生活消費関連です。皆さんがちゃんと生活ができて、ちゃんと消費活動ができるように後押ししなくてはいけない。そして伊藤忠のお客さんの多くは現場に出なくてはいけない。そういう人たちがいる中で、伊藤忠の本社だけが在宅勤務をするという考え方はありません」

「つまり、お客さんに合わせた形での出社体制を組むという考え方なんです。もし社会が変わって、リテールも全部オンラインになり、伊藤忠の事業会社も、お客さんも全員がオンラインで仕事ができるようになったら、伊藤忠もそうするでしょう。だけど、お客さんがそれをできないうちは、そうしない。『出社しなきゃいけない』と言っているのではなくて、お客さんの状況に応じて出社体制を組みます、ということです。1人で仕事しているわけじゃないですから」

――現状では、お客さんの仕事はオンラインでは済まないから、伊藤忠の社員も出社することで、お客さんの立場に寄り添うということでしょうか。

「例えば、お客さんから電話があって、『あなたはどこにいるの』と聞かれたときに、『自宅です』と答えるのと、『会社にいて今、皆さんの対応をしています』と答えるのでは、心証が違うでしょう? これが、お客さんがIT業界ならば違いますよ。IT業界の人たちは、リモートでも仕事ができることをウリにしているわけですから、『おお、すごいね』『それだよ』みたいな話になると思います。でも、(生活消費分野だと)そうはならない。やはり、『自分たちが出社しているのに、あなたたちは出社していないのか』となると思います」

――在宅勤務でも、いつでも対応できるように、きちんと体制を整えておくことはできると思います。会社で対応するのと、家で対応するのと、仕事の中身は変わらないのではないでしょうか。

「それはちょっと違うと思います。やはり、人間の気持ちだから」

「今、お客さんから反発の声が聞こえてきているわけではないですよ。けれども、やはりそこは人間なので、同じ船に乗って、同じ目線で仕事をするという感覚が商いの基本だと思います。だから、お客さんに寄り添うという意味において、出社して対応するのと、自宅で対応するのとでは、どちらの寄り添い方がいいかということです」

■オンライン会議では「空気感」が分からない

――在宅勤務のメリットとデメリットはどう認識されていますか。

「在宅勤務ではどうしても運動不足になってしまうし、出社と同じ仕事のパフォーマンスを出すためには、ものすごく努力と工夫がいる。家の環境もあるし、子供など家族がすぐそばにいると仕事に集中なんかできないでしょう。それからコミュニケーションの不足もデメリットです。一方、ペーパーレス化が進むのはいいことですね」

「オンラインでの会議は、聞きたいことが決まっているときには有効ですが、雑談はできないですよね。でも、ビジネスの妙味はここにある。雑談を通して、相手の人柄や、仕事の周辺情報なども知る。これがとても大事なんです。実際に海外のお客さんとオンラインで会議をしていると、微妙に音声のタイミングがずれることがあるなどして、何か空気感がつかめないわけですよ。温かいか、冷たいかが分からない」

「だけど、一方で無駄な会議や無駄な会食が何かがわかってきます。毎年同じ時期に、同じところで同じメンバーでやっているような、マンネリ化した会議や会食がある。それらは不要ですよね。必要な会議はオンラインでやっているし、どうしてもやらなくてはいけない会食は、感染に気を付けながらやっています。だから会議も会食も、どうしても必要なものに限れと言っています」

■朝型勤務を進化させる

――働き方改革をかなり前から始めていて、朝型勤務が浸透していますが、コロナ禍でどうなりますか。

「朝型勤務を徹底していたので、多くの社員が感染拡大当初から朝の混まない時間に出社していて、そもそも相対的には通勤感染リスクは少なかったんです。ただ、コロナ前になかなかできていなかったのは、早帰りです。朝6時、7時から仕事をしていれば、本当は午後2時、3時に帰っていいのに、夕方まで会社にいる。だから、コロナを機に、みんな早帰りを徹底しろと言っています」

「無駄な会食は減っているし、早帰りもやりやすい。コロナ後の生活を考えると、社員がわりと早く帰って、家族との時間をより多く持つことができるようになると思います。早帰りが徹底されることで、朝型勤務が本来のあるべき姿に進化すると思います。その点が、コロナ禍での一番の変化かもしれないですね」

■清潔さ、日本の売りになる

――最後に、日本が再興するために、コロナ禍をどう生かしていくべきだと思いますか。

「コロナ禍への日本の対応には様々な見方がありますが、結果として死亡者は世界と比べたら少ないわけでしょう。柔軟に対応してきたのがよかったのではないでしょうか。公衆衛生がもともとしっかりしていて、清潔な国であることが根底にあるのだと思います」

「そもそも、インバウンドのお客さんも、清潔さを1つの魅力として日本に来ていました。世界的に公衆衛生がこれからものすごく注目されるのは間違いなく、日本はそれをもっと強みにしたらいいと思います」

「既に、清潔さを保つためのいろいろな工夫がされているわけですから、それを商品につなげていけばいい。抗菌の材料を使ったり、換気を徹底したり、航空機や鉄道などの乗り物の安全・安心についても、様々な日本の技術がさらに生きると思います」

「一方で、保健所や防疫体制は人手不足です。これからインバウンドのお客さんをたくさん迎えるためには、空港の検疫体制はもっと充実させた方がいいでしょう。これからお金を使うべきところは、そこじゃないでしょうか。そうしたら、日本にもっと安心して来られるようになると思います」

「日本に行ったら安心して旅ができる。清潔さが日本の強みとなり、ブランドとなり、安心できる国として選ばれる。日本にとっては、本当にいいチャンスだと思います」

(日経ビジネス 庄司容子)

[日経ビジネス電子版2020年9月23日の記事を再構成]

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