【電機大手】家電を事業基盤に電気自動車の電池や住宅関連、企業向けシステムに注力。
在宅勤務をするSiM24の河合真奈美さん=同社提供
電子機器の開発に必要な解析業務を請け負うSiM24(大阪市)は、15年前から在宅勤務を推進してきた。技術者の大半は専門技術や知識を持ちながら夫の転勤や育児などでいったんは仕事をやめた女性たち。全員が自宅でのテレワークに取り組んでいる。
同社は2005年に松下電器産業(現パナソニック)の社内ベンチャーとして誕生。開発中の電子機器が熱による材質の変化などで動作に異常をきたさないかコンピューター上で解析する受託サービスを行う。高い専門知識や技術が必要だが、創業者の大木滋社長(59)が人材集めで着目したのが、元同僚の優秀な女性技術者たちだ。現在は15人の技術者のうち9人が女性。オフィスには社長ら2人しか常駐していない。
当時も今も、最大の課題は指示の伝達だ。2次元上の設計図をもとに3次元上での動作を解析するため、技術者は作業のイメージをつかみにくく、「対面ですら指示が難しいことがある」と大木社長。在宅で働く技術者への説明はより丁寧に、設計図から書き起こした立体のイラストをメールで送ったり、実物の部品を郵送したりするなど、着手段階でつまずかないよう手を尽くしてきた。
また、解析中に一人では解決困難な壁にぶつかることも。複雑な物理現象を扱うため計算エラーによる中断も多く、そのたびに原因を特定して再計算。計算結果が出ても条件が妥当か確認する必要があり、ときには論理的に説明できない結果が生じる場合もある。
在宅勤務は近くに相談できる人がいない、という物理的な課題がある。同社は難題を一人で抱え込まないよう社内体制を整備。同じ解析チームの上司だけでなく、チーム外でも経験豊富な技術者がメンター役となり、ためらうことなく相談できる環境を築いてきた。
創業年から技術者として働く大阪府枚方市の河合真奈美さん(52)は「仕事で悩むことがあっても、早い段階で意見を求めて解決できることが多い」と話す。同僚とは子育ての雑談もするなど、在宅ならではの話題も親しさを育むという。
2カ月に1度、社員でランチを楽しむ参集日も同様の狙いだ。新型コロナウイルスの影響で2月以降は中止し、現在はウェブ会議で近況を語り合うが、離れていても心通じ合う仕掛けに、テレワークの秘訣があるようだ。(高橋直也)