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政治への情熱と執念 中曽根元首相、強い指導者像確立

2019/11/30 2:00
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白寿を祝う会に出席した中曽根元首相(2017年5月、東京都千代田区)

白寿を祝う会に出席した中曽根元首相(2017年5月、東京都千代田区)

「暮れてなお 命の限り 蝉(せみ)しぐれ」。日本の政界に一時代を築いた中曽根康弘元首相はこの句を好んで詠んだ。長い生涯を貫いていたのは、政治へのあくなき情熱と執念である。

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首相就任以前の中曽根氏は「政界の風見鶏」「かんなくずのようにぺらぺら燃える男」などと世間の評価は芳しくなかった。首相に就任した中曽根氏はその手腕と実績で世評を一変させた。

従来の歴代首相とは異なり、自ら前面に出てリーダーシップを発揮する独特の「大統領型首相」の政治スタイルを確立し、内政・外交にわたって多くの足跡を残した。その裏には、政治家として不断の修練と努力の積み重ねがあった。

中曽根氏は生粋の政党人だが、旧制静岡高校―東京帝国大(現東大)法学部から旧内務省に入省したエリートである。エリートの座を捨てて戦後政界に打って出たのは、敗戦国日本の再建への強い情熱と使命感からである。

当選直後から「青年将校」と脚光を浴び、吉田茂長期政権のもとでは長く野党議員だったが、颯爽(さっそう)とした容姿と弁舌で論客ぶりを発揮した。早くから憲法改正論を唱え、「憲法改正の歌」を作って全国を行脚した。「右翼反動」などと批判されたが、ひるむことはなかった。

自民党では実力者・河野一郎の派閥に属し、河野死後に河野派の大半を継承して「新政同志会」を結成し、政権取りをめざした。中曽根派は保守傍流の少数派閥であり、政権への道のりは苦難の連続だった。少数派閥ゆえに自民党内の合従連衡に腐心し、「風見鶏」と揶揄(やゆ)されたのもこのころである。資金調達にも苦労し、殖産住宅事件では国会で証人喚問されたこともある。

同期当選組の田中角栄の支援を得て念願の首相の座に就いたのは1982年。そのとき、中曽根氏の手元には首相に就任したら何をやるべきか、どう振る舞うべきかについてびっしりと書き込んだ大学ノートがあった。

中曽根政権のハイライトは「増税なき財政再建」を掲げ、土光敏夫臨調会長と二人三脚で行政改革に取り組んだことである。その成果が国鉄、電電公社、専売公社の3公社民営化であり、今日のJR、NTTJTとなった。英国のサッチャー改革、米国のレーガン改革に続く中曽根改革は当時の新自由主義の世界的潮流の象徴だった。

外交面ではレーガン米大統領と「ロン・ヤス」関係を結び、日米同盟関係を飛躍的に強化した。中国の胡耀邦総書記、韓国の全斗煥大統領とも個人的な信頼関係を結んで積極的なアジア外交を展開した。サミットの場で議論をリードし、日本の存在感を世界に示した手腕も卓越していた。

中曽根氏は首相在任中、靖国神社への公式参拝に踏み切った。このことで親日派の胡耀邦総書記が中国国内で苦境に陥ると1回限りで参拝取りやめを決断した。中曽根氏らしい「君子豹変(ひょうへん)」ぶりだった。

首相退陣後、リクルート事件で逼塞(ひっそく)していた時期もあったが、すぐに影響力を回復し、「大勲位」として元老のような存在感を示した。56年間の議員生活を終えてからも、中曽根氏の意欲は衰えず「憲法改正実現までは死んでも死にきれない」と執念を燃やしていた。憲法改正こそは中曽根氏の「見果てぬ夢」であった。

(元特別編集委員 安藤俊裕)

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