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ブリヂストン、「黒いゴムの塊」から脱皮
タイヤが「CASE」のカギ(上)

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2019/8/27 4:30
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日経クロステック

「本当に熾烈(しれつ)な戦いだった」――。タイヤ世界首位のブリヂストン。同社の技術幹部らが神妙な面持ちで振り返るのは、タイヤ事業での開発競争や販売シェアの拡大競争に関してではない。

4月に欧州子会社を通じて約9億1000万ユーロ(約1138億円)で買収した、オランダ・トムトムテレマティクス(TomTom Telematics)への入札合戦についてだ。ブリヂストンは今回の買収を、「黒いゴムの塊」だったタイヤからの脱皮に向けた新たな戦略の柱と位置付ける。

■世界が狙った巨額買収

ブリヂストンが入札合戦を制したトムトムテレマティクスは、オランダのデジタル地図大手トムトムの子会社で、車両データやフリート(法人車両)の管理ビジネスを担う。クルマの付加価値が所有から利用にシフトする次世代移動サービス「MaaS(マース)」の動きが活発化する中で、トムトムテレマティクスが扱う車両の移動データはまさに「宝の山」となる。

宝の山を巡って、巨大企業も水面下で獲得に動いていた。タイヤ市場で世界首位を争う仏ミシュラン(Michelin)だけでなく、高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」の独ダイムラー(Daimler)、IT(情報技術)大手の米マイクロソフト(Microsoft)や同通信大手ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)が入札に名を連ねたようだ。

トムトムテレマティクスの運行データやフリートの管理といった技術を、ブリヂストンが手掛ける「つながるタイヤ」の開発に生かしていく。日経 xTECHが作成

トムトムテレマティクスの運行データやフリートの管理といった技術を、ブリヂストンが手掛ける「つながるタイヤ」の開発に生かしていく。日経 xTECHが作成

業界は違えど、入札に参加した各社の思惑は一致する。どの企業も、トムトムテレマティクスが日々吸い上げている欧州86万台分の車両移動データに価値を見出し、次世代を生き抜く新たなサービス開発の源泉にする狙いがあった。

■モノ売りからコト売りへ

ブリヂストンがトムトムテレマティクスへの入札合戦に勝利したことは、タイヤ業界の変革を象徴する出来事となる。ブリヂストンのフェローで技術スポークスパーソンの原秀男氏は、この買収劇を「5年前なら我々の頭の片隅にもなかったような戦略」と表現する。

同社が約1138億円を投じてでも獲得したかったのは、目標とするモノ売りからコト売りへの変革に、トムトムテレマティクスのコネクテッド事業が欠かせなかったからだ。ブリヂストンは、2015年に策定した中期経営計画(16~20年)にのっとって、ソリューション事業者への転換を急ピッチで進めている。

具体的には、今回買収したトムトムテレマティクスの運行データ管理の手法を、ブリヂストンが手掛ける路面の状態を判定する技術「CAIS(カイズ)」などと組み合わせて「つながるタイヤ」のサービス開発を強化していく。「コネクテッドがブリヂストンの大きな武器になる」(同社フェローで元執行役員チーフデジタルオフィサーの三枝幸夫氏)とし、タイヤを売り切るビジネスモデルではなく、タイヤの利用者に新たな付加価値を提供するモデルに転換する。

ブリヂストンと同様に変革を急ぐタイヤメーカーは多い。世界のタイヤメーカーが焦燥感を募らせている背景には、自動車市場の情勢の変化、とりわけ中国を中心とするアジアの「新興メーカー」が勢力を拡大していることがある。

04年と17年の世界シェアを売上高ベースで比較した。ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーの「ビッグ3」は苦戦しており、代わりに中国やアジアの「新興メーカー」がシェアを拡大している。ブリヂストンが米Tire Businessの情報を編集した発表資料を基に日経 xTECHが作成

04年と17年の世界シェアを売上高ベースで比較した。ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーの「ビッグ3」は苦戦しており、代わりに中国やアジアの「新興メーカー」がシェアを拡大している。ブリヂストンが米Tire Businessの情報を編集した発表資料を基に日経 xTECHが作成

タイヤの世界市場は自動車市場の成長に合わせて拡大し、04年の約10兆円から、17年には1.8倍の約18兆円にまで成長した。これまでは各タイヤメーカーが地域ごとに市場を分け合ってきたが、今回は状況が違う。市場の成長分を新興メーカーが奪うという構図が定着しつつある。

新興メーカーの成長によって、長年にわたって世界のタイヤ市場で上位に君臨してきたブリヂストンとミシュラン、そして米グッドイヤー(Goodyear)を合わせた「ビッグ3」の勢いは弱まり、04~17年の13年間で軒並みシェアを落とした。

■新興メーカー、2~3割安価に提案

シェアを拡大した新興メーカーには、台湾・正新ゴム工業(Cheng Shin)や中国・中策ゴム(Zhongce Rubber)、シンガポール・ジーティータイヤ(Giti Tire)などがいる。17年の世界シェアはそれぞれ2.4%、2.2%、2.0%だった。04年の段階では世界シェアで1%にも満たなかったが、中国やアジア市場の拡大を追い風にシェアを拡大している。3社は日本のTOYO TIREを抜き去り、気が付けば横浜ゴムのすぐ背後まで忍び寄る。

「価格は安いが、品質は上がってきている」――。横浜ゴム常務執行役員で技術部門を統括する野呂政樹氏は、新興メーカーの躍進に危機感を抱く。最大の脅威となる価格について、他のタイヤメーカー幹部は「(新興メーカーは日本メーカーに比べて)2~3割安く自動車メーカーに供給価格を提案することもざらだ」と明かす。

低価格を武器に供給を広げる新興メーカー。欧州の高級車メーカーでは安価なグレードに新興メーカー製のタイヤを採用する動きが目立ってきた。

さらに、正新ゴム工業は日産自動車の小型車「マーチ」や軽自動車「デイズ」への供給実績があり、中策ゴムは「日本企業の中国市場モデルに複数供給している」(同社販売部門の担当者)。ジーティータイヤは独フォルクスワーゲン(VW)の4ドアセダン「ジェッタ」をはじめ、トヨタ自動車ホンダ、米ゼネラル・モーターズ(GM)の中国市場モデルに供給している。

走る・曲がる・止まるといったタイヤが支えるクルマの基本性能や、接地面の摩耗といった耐久性など、品質や性能の高さでは日本メーカーが先行してきた。それが近年では、新興メーカーの開発・生産技術の向上によって徐々に差が埋まりつつあるようだ。

■大手は技術領域を広げて対抗

対する大手タイヤメーカーも、ただ手をこまねいているわけではない。ブリヂストンはもちろん、ミシュランやグッドイヤーなどは積極的なM&A(合併・買収)や提携を進めて新たな技術領域の獲得を急ぐ。新興メーカーが仕掛ける価格競争とは異なる土俵で勝負する戦略だ。各社に共通していえることは、コネクテッドを軸とするタイヤを超えた新たな領域への投資を増やしていることである。

ビッグ3が仕掛けた近年の代表的な買収や提携。各社の発表資料を基に日経 xTECHが作成

ビッグ3が仕掛けた近年の代表的な買収や提携。各社の発表資料を基に日経 xTECHが作成

例えば、ブリヂストンにトムトムテレマティクスの買収で敗れたミシュランは、19年5月に英国のコネクテッド企業であるマスターノートを買収した。17年6月には、商用車のフリート管理に強みがある米ネクストラック(NexTraq)を手中に収めており、新事業への進出に積極的な姿勢を見せる。ミシュラン最高経営責任者(CEO)のフロラン・メネゴー氏は「専門性がグループ内に無い場合は、戦略的買収を含む外部との連携を強化する」と意気込む。グッドイヤーも17年1月に米電気自動車(EV)大手テスラのコネクテッド領域を担う同テスループと提携するなど、ブリヂストンやミシュランと同じ道筋をたどっている。

「体力のあるビッグ3はこのまま買収や提携を強化していくだろう」――。大手自動車メーカーの経営コンサルティングを担うドリームインキュベータ執行役員の竹内孝明氏はこう分析する。

ビッグ3は本業のもうけを示す売上高営業利益率で高水準を維持している。18年度はブリヂストンが11.0%、ミシュランが12.6%だった。グッドイヤーのみ8%台と10%を下回ったものの、17年度は他2社と同様に10%を超えていた。タイヤのビッグ3は、同7~10%台で推移しているトヨタ自動車を数値上では上回る。業績好調で成長への体力を残す今だからこそ、新たな投資を積極的に実行し、成長につながる武器をかき集めている。

■自動車メーカーのCASE戦略を変える

タイヤ以外の事業を次々と獲得して成長を目指す戦略を真っ先に採ったのは、業界4位の独コンチネンタル(Continental)だった。かつてはタイヤ専業だったが、買収を繰り返してシャシーやパワートレーン、内装や先進運転支援システム(ADAS)まで幅広い部品を手掛けるメガサプライヤーに転身した。タイヤとブレーキシステムを合わせて自動車メーカーに「パッケージ」として提案しており、事業領域の広さを生かした戦略で独自の立ち位置を確保した。

ビッグ3とコンチネンタル。企業規模が大きく、技術の蓄積もある上位タイヤメーカーが商機とするのが、次世代の車両技術である「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」の開発だ。CASEに対応したタイヤで付加価値を高め、脅威となっている新興メーカーに対抗する。

次世代のタイヤ技術がCASEのそれぞれに貢献可能な要素を示した。日経 xTECHが作成

次世代のタイヤ技術がCASEのそれぞれに貢献可能な要素を示した。日経 xTECHが作成

コネクテッドでは、タイヤ内部の空気圧や温度、接地面の摩耗度合いといった情報をクラウドに吸い上げて分析し、タイヤの故障を予測する。この技術を発展させて、タイヤの挙動や加わる振動の変化を検知すれば、自動運転時の車両制御に使える。例えば、住友ゴム工業は25年までに、タイヤを検知器として活用して路面の状態を分析し、車両制御にフィードバックさせる仕組みを実現する計画だ。

シェアリングで重要なのは、車両の稼働率を高めること。自家用車の多くは稼働率が10%未満にとどまっているが、シェアリングに利用方法を変えると稼働率は90%以上に跳ね上がることもある。1日当たりの走行距離は大幅に延び、タイヤの温度を下げるクールダウンの時間を確保することもままならない。タイヤは格段に劣化しやすくなる。

このような過酷な使用環境に対応すべく、交換無しで長距離を走れるタイヤ材料の開発や、空気を充填していないためパンクしないエアレスタイヤの開発が進む。現在、エアレスタイヤの実用化は建設機械といった産業用にとどまるが、ミシュランはGMと組んで24年にも乗用車向けに供給を始める。

車両がEVになれば、エンジンの駆動による振動は無くなる。一方で、路面からタイヤを経由して伝わる振動や騒音の存在が気になってしまう。さらに、一般的にEVは従来のガソリン車に比べて車両質量が大きいため、走行時のロードノイズやパターンノイズが大きくなりやすい。自動車メーカーがタイヤに求める静粛性能は高まっていく。

これら次世代のタイヤ技術に対して、自動車メーカーからは期待の声が上がる。日産自動車のマネージャーは「(CASEの競争力強化につながる)魅力あるタイヤ技術ならぜひ欲しい」と興味を示す。これまで、なかなか脚光を浴びる機会が無かったタイヤだが、機能を追加した次世代のタイヤの登場によって、自動車メーカーのCASE戦略に大きなインパクトを与えていくはずだ。(下につづく)

(日経 xTECH 窪野薫)

[日経 xTECH 2019年6月27日付の記事を再構成]

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