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ESG圧力強める機関投資家 投資引き揚げ、業種に広がり
Earth新潮流 日経ESG編集部 相馬隆宏

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
2021/7/2付
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環境や社会課題、企業統治への配慮を評価する「ESG投資」が世界で広がり、機関投資家が企業への要請を強めている。気候変動をはじめとするESGの課題は重大な経営リスクとなっている。投資先企業に対策の強化を促すことでリスクを減らし、リターンを確保するのが狙いだ。

英資産運用大手リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は6月15日、中国工商銀行や米AIGなど4社をダイベストメント(投資の引き揚げ)の対象に加える方針を明らかにした。気候変動によるリスクへの対応が不十分なことが理由だ。

LGIMは2016年から「クライメート・インパクト・プレッジ(気候影響誓約)」と呼ぶ取り組みを開始し、投資先企業に気候変動対策の強化を求めている。先のダイベストメントもこの一環だ。

LGIMジャパンの福田愛奈インベストメント・スチュワードシップ部長は「気候変動の危機に向き合い、変革できない企業は競争力を失う可能性が高い」と言う。

クライメート・インパクト・プレッジでは、気候変動に対する企業の取り組みを「ガバナンス」「シナリオ分析」「指標と目標」「リスクと機会」「戦略」の5項目について100点満点で評価する。20年に対象社を6業種約80社から15業種約1000社へと大幅に増やし、採点結果をウェブサイトで公開し始めた。

対策が十分でないと判断した企業に対して、エンゲージメント(建設的な対話)を通じて改善を促す。約40個ある評価指標のうち最低基準にしている指標を一定数満たしていなければ、議決権行使で反対票を投じる。

例えば(1)取締役会のメンバーに気候変動対策の責任者がいる(2)企業の環境対策を評価するNPOであるCDPの調査に回答している――ことが最低基準になっている。

こうした働きかけをしても改善が見られない場合、一部のファンドの組み入れ銘柄から除外する。今回発表した4社の他にこれまでに9社を除外している。日本企業では日本郵政が入っている。SUBARU(スバル)も一時除外対象になったが、対策を強化し、20年、ファンドの保有銘柄に再び組み入れられた。

ESGの領域で気候変動は投資家の最大の関心事項だ。エンゲージメントのテーマは多岐にわたる。

仏アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)は「気候変動」「生物多様性」「ジェンダー平等」「公衆衛生」の4つを中心にエンゲージメントを強化している。アクサIM責任投資部長のクレメンス・ウモー氏は「これらの領域は財務リターンに最も影響を与えやすい」と言う。

AIGもダイベストメントの波にさらされる(ニューヨーク証券取引所に掲げられた創立100周年を祝うバナー)=ロイター

AIGもダイベストメントの波にさらされる(ニューヨーク証券取引所に掲げられた創立100周年を祝うバナー)=ロイター

生物多様性に関しては、パーム油生産による森林伐採に関わっている企業には投資しない方針だ。今後は森林消失につながる事業をより幅広く捉えて投資対象から外す。

アクサIMは20年、環境評価を手掛ける仏アイスバーグデータラボなどと、生物多様性への影響を測定するツールの開発で協力すると発表した。影響が大きい企業を特定し、エンゲージメントを実施していく。

アクサIMはエンゲージメントを通じて投資先企業に働きかけるが、改善が見られなければ議決権を行使する。20年は出席した株主総会の56%で反対票を投じた。前年より10ポイント増えた。反対の理由で上位に入るのは、ジェンダーダイバーシティなどの取締役会の問題や役員報酬の問題で、この2つが過半を占める。

例えばジェンダーダイバーシティについては20年、議決権の行使方針を見直し、インドを含む途上国と日本の企業に対して女性取締役を1人以上選任するよう求めている。

エンゲージメントや議決権行使を実施しても投資先企業が変わらない場合、株式や債券を売却する可能性もある。ウモー氏は「脱炭素の目標に逆行するような動きがあれば売却もある。そういった事例は今後、増えてくると考えられる」と話す。

実際、20年はインドステイト銀行のグリーンボンドを売却した。同行がオーストラリアで大規模な炭鉱開発事業に貸し付けをしていたためだ。アクサIMはやめるよう働きかけたが態度を変えなかったという。

ESG志向を強める投資家だが、多くの場合、いきなりダイベストメントをすることはない。投資先企業に現在の評価や課題を伝え、エンゲージメントなどを続けることによって変革を後押しする。

企業にとって圧力ともとれるが、投資家の声にきちんと耳を傾け、自社の課題を解決すれば、企業価値を高めることができる。

その好例といえるのが、フィデリティ投信と化学メーカー日油のケースだろう。フィデリティ投信は19年12月から20年5月にかけて集中的に日油の経営トップらと議論を重ね、資本市場とのコミュニケーション不足がESGの評価や株価の低さにつながっている課題を共有した。

日油はその後、統合報告書を発行して情報開示を強化するなど取り組みを改善した。20年6月ごろに3000円台で推移していた株価は、21年5月には一時6000円を超えるなど大幅に上昇した。

大手監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が世界のアセットオーナー300機関に実施した調査によると、22年までにESGに配慮しない商品への投資をやめると回答した割合は77%に上った。投資家の要求水準はさらに高まることが予想される。企業はESG経営を磨く契機と捉え、自社を変革していくことが他社との差異化につながるだろう。

[日経産業新聞2021年7月2日付]

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