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「自主的オフセット」広がる マイクロソフトなど 温暖化ガス実質ゼロへ
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
2020/12/18付
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欧州連合(EU)、中国、日本などに続き、バイデン米大統領就任後の米国も温暖化ガス排出のネット(実質)ゼロを目指す。産業界でも、石油メジャーのBP、IT(情報技術)サービスのマイクロソフト、世界最大の製鉄会社アルセロール・ミタル、日本最大の排出企業の東京電力と中部電力の発電部門を統合したJERAなど多数の企業がネットゼロを表明している。

コンテナ船世界最大手のマースク(デンマーク)は海運業界を挙げた脱炭素へ研究機関の設立などに動いている=ロイター

コンテナ船世界最大手のマースク(デンマーク)は海運業界を挙げた脱炭素へ研究機関の設立などに動いている=ロイター

投資家の目も意識して、有力企業が動けば同業他社も続く。宣言した企業は取引先に対して、資材や輸送面などでも低炭素化を求める。ネットゼロの影響は産業全体に広がり、もはや「ネットゼロ目標を宣言して当たり前」という雰囲気すら生まれつつある。

目標があれば、次は実行だ。そこでいくつかの問題に直面する。まず、そもそもの排出量の範囲をどう考えるか。使った化石燃料からの排出「スコープ1」と電力消費からの間接的な排出「スコープ2」を対象にする企業が多く、さらに原材料や製品使用などライフサイクル全体の排出「スコープ3」を対象とする企業もある。

スコープ3を含む全ての排出に気を配るべきは当然だが、具体的な数値を目標とするかは意見が分かれる。例えば、自動車には数万点の部品があり、部品メーカーも多数の部材を使う。さらに製品の使用状況を製造企業が把握し続けるのは困難だ。スコープ3の正確な捕捉は現状、かなり難しい。

ただ、自動車は製造段階ではなく、利用時に大量のエネルギーを使うから、製造段階の排出削減だけで十分とは言い難いだろう。また、炭素繊維など省エネに貢献する製品や部材については、使用による排出量削減を評価して欲しいところだろう。どちらの考え方にも十分な理由があり、正解はなさそうだ。実質的に大きな影響を及ぼす範囲に絞る、と言うのが現実な対応だろう。

■オフセットで規格作り

範囲が決まれば、次は達成手段だ。ネットゼロを目指して再生可能エネルギー由来の電力を利用するとしても、供給が十分とは限らない。鉄、セメント、化学や航空、長距離海運などではゼロ排出エネルギーへの転換には技術革新が必要だ。不確実性があるし、経済性も制約になる。「減らしきれない排出」への準備は欠かせない。

そこで注目されているのが、マイクロソフトや小売り大手の英マークス&スペンサーなどが補完的手段として活用するオフセット(相殺)だ。二酸化炭素(CO2)の排出量を、排出権購入などで差し引く取引が代表的だ。オフセット活用を前提に、英国の認証機関BSIは炭素中立の規格を整備したし、国際標準化機構(ISO)でも国際規格作りが進められている。

オフセットになじみがない企業は多いかもしれないが、2019年には世界全体で1億トン以上のオフセットクレジットが利用された。その中心はVCS、ACRなど民間団体が管理するクレジットだ。

国連が管理するCDM(クリーン開発メカニズム)や日本政府が主導するJCM(二国間クレジット制度)、また日本国内のJクレジットや非化石証書など様々なクレジットが調達可能であり、特徴を生かした使い方があってもよいだろう。

初めてオフセットクレジットに触れる企業にとって、それぞれのクレジットの特徴、排出削減事業と森林吸収の違い、価格差の理由など迷う点が少なくない。

参考になる基準はできつつある。国際排出量取引協会の傘下にあるボランタリーオフセット団体は、クレジットに求められる要件を優良事例として取りまとめている。9月には民間金融機関の国際団体、国際金融協会(IIF)が「ボランタリー市場拡大のためのタスクフォース」(TSVCM)を立ち上げた。信頼できるクレジットの要件(原則)、取引のための登録簿や契約といったインフラ、監視組織などを含む市場整備の提案を検討している。

■企業に選択肢を用意

こうしたルール作りでは、社会への貢献などすべての面で理想を追求するのか、必要最低限の要件を決めて多様な取り組みを認めるのか、というスタンスの違いが議論になる。また、信頼性を確保するための監視組織などガバナンスも、効果と費用のバランスについて意見が分かれる。

最近、関心が高くなってきたのは「二重使用」の問題だ。「企業の自主的な貢献であっても、削減した国と削減効果を譲渡された国の二重使用を禁じるパリ協定に準じた取り扱いにすべきだ」という意見もあるが、企業の場合は単純ではない。

CO2の削減に貢献した設備や製品は評価されるべきだろうし、各国の規制や制度では評価されにくい取り組みの評価こそ、自主的な取り組みの存在意義だとの意見もある。

百家争鳴の中で参考になりそうなのが、国際民間航空機関(ICAO)がまとめた「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム」(CORSIA)だ。国際航空部門は20年以降にCO2排出を増やさない「カーボンニュートラル・グロース」(炭素中立型成長)について合意。航空会社に対して、増えた分は排出権を購入し、温暖化ガスの排出を相殺する義務を課す。

相殺に使ってよいクレジットの要件として、追加的な削減(何も対策を講じない、Business as usualとの比較ではないこと)、二重使用ではない、削減事業が他の環境に悪影響を起こさない、所有者が明確である、などの条件を、3年以上の議論を重ねて定めている。

企業が安心してオフセットを利用するためのルール整備は必要だ。規制であれば白黒を明確にしなければならないが、企業側でも様々な工夫を凝らすのが自主的な取り組みの持ち味だ。目的に応じた複数の選択肢を用意しておくことが、企業にとって使いやすい仕組みになることだろう。

[日経産業新聞2020年12月18日付]

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