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人権問題、経営リスクに直結 投資家が格付けを本格化
Earth新潮流 日経ESG編集部 藤田香

コラム(ビジネス)
2019/10/11付
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今年9月にパリで開催されたPRI(責任投資原則)の総会では、気候変動やSDGsに加え、強制労働などにより自由を奪われ人権侵害を受けている「現代奴隷」が大きなテーマとなった。現代奴隷の経験者が語った体験談は投資家たちに衝撃を与え、金融の力でこうした人権侵害を防止しようという決意が会場で共有された。

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国際労働機関(ILO)によると、「現代奴隷」は世界に4030万人いる。企業のサプライチェーンにも大きなリスクが潜む。それを浮き彫りにしたのが、2016年にピュリツァー賞を受賞したAP通信の報道だ。ミャンマー人の船員がインドネシアの島で監禁されて漁業に従事させられ、その水産物がタイを経由して米小売り大手ウォルマートなどに流れていることを暴いたものだ。

企業が関係する人権問題は3つある。1つはサプライチェーンの原材料調達で起きる人権侵害。ウォルマートの例がこれだ。2つ目は業務委託先やサプライヤーの工場で起きる人権侵害。発注元の企業の責任が問われる。3つ目は国内の外国人労働者や海外拠点における移民労働者への人権侵害。日本における技能実習生も人権リスクが高い。入国時に借金を背負わされて働く場合は現代奴隷と見なされる。

最近、日立製作所が外国人技能実習生に技能実習計画とは異なる単純労働をさせていたとして厚生労働省から改善命令を受けた。三菱自動車パナソニックは技能実習計画の認定取り消しを受けた。これらも実習生の人権を軽んじている例だろう。

人権問題は経営問題だとして、投資家も企業の評価に乗り出した。英保険大手アビバ・インベスターズなどの投資家が設立したイニシアチブ「企業人権ベンチマーク(CHRB)」は、2018年に企業の人権の取り組みを採点し、公表した。農業、アパレル、資源採掘の約100社を採点し、多くの企業に100点満点中0~30点という厳しい評価を付けた。日本企業ではイオンファーストリテイリングが評価されたが、スコアは低かった。今年は情報通信分野も加わり、約200社、うち日本企業18社が採点される(結果は11月発表)。来年は自動車メーカーも評価される。

投資家は既にCHRBスコアの投資への活用を始めている。アビバはスコアが低い企業に対し、人権担当の役員再選に反対票を投じるなど、今年上期で38回の議決権を行使した。エンゲージメントでは新しい人権方針の策定やデータ開示を企業に求めている。

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのスチュワードシップ責任推進部長の小野塚恵美氏は、「人権対策は企業価値を高め、人材確保につながる。企業の成長戦略に関わる」とし、リスク回避だけでなくチャンスにもつながることを指摘する。グループ企業「GSサステイン」は、消費財セクターにおいて人権に関する方針がある企業は、ない企業に比べて株価が年率5.6%上回るという調査結果をまとめた。

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日本企業の中にも人権対策に乗り出す企業が増えてきた。工場リストを開示してサプライチェーンを透明化したり、従業員が人権侵害を訴えられる「苦情処理メカニズム」を整備したりする取り組みが進んでいる。

味の素は9月、人権デューデリジェンス(人権リスクを評価し低減する活動)の評価報告書を発表した。きっかけはタイの鶏肉業者の契約養鶏場でミャンマー人労働者が強制労働をさせられたとして、昨秋非政府組織(NGO)がサプライチェーンに関わる日本企業16社を名指ししたことだ。

指摘を受け、いち早く動いたのが味の素だった。現地に飛び、鶏肉やエビの生産実態を調査。加工場は、指摘された養鶏場と既に契約を打ち切り問題がないことが分かったが、移民労働者が多く今後もリスクがあると考えた。そこで調査結果を報告書として公表し、外国人労働者に関する方針の策定や苦情処理メカニズムの強化を現在検討中だ。

同社は昨年、それまで企業行動規範の中にあった人権方針を独立させて「グループ人権方針」とし、経営トップを巻き込んで人権専門委員会を設置した。「体制ができていたため、生産・調達部門の協力を得て素早く調査と報告書作成に移れた」と人財開発グループの中尾洋三氏は話す。

アパレル企業は工場リストの開示に乗り出している。ファーストリテイリングはユニクロとGUの242の主要縫製工場のリストに加え、ユニクロの主要素材工場も公開。同社も昨年6月にグループ人権方針を策定し、人権委員会を設置した。

特に注力しているのが透明性の確保だ。「情報開示は投資家への説明責任とともに、客の信頼、従業員の誇りにつながる。改善途上でも開示するよう気を付けている」とグループ執行役員サステナビリティ部の新田幸弘氏は言う。

ワコールホールディングスも、主要ブランド「ワコール」「ウイング」「ルシアン」「ピーチ・ジョン」の135工場と「アイ」の15工場のリストを公開している。同社は委託先工場など国内40工場に約540人の技能実習生が働いており、昨年から賃金や労働時間、受け入れ機関などの調査にも乗り出し、改善点の是正に当たっている。

日本の縫製業界は外国人労働者に大きく依存しており、労働環境の向上が人材確保や職場の価値向上、ひいては業界の生き残りにつながるとみている。サプライチェーンの人権配慮は投資家からの要請が強まり、待ったなしの状態だ。経営を巻き込んだ対策が急がれている。

[日経産業新聞2019年10月11日付]

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