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住友金属鉱山、EV電池で鉱石から素材まで担う

コラム(ビジネス)
環境エネ・素材
2018/8/31 11:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

住友金属鉱山が世界に通用する非鉄メーカーにのし上がろうと奮闘している。世界のトップ5をうかがうニッケルでは鉱石から製錬、素材供給の垂直モデルを構築。電池材料の開発で顧客メーカーにも食い込み、電気自動車(EV)向けでは首位グループにつける。金や銅でも鉱山開発から攻め直すため、多角化路線と決別。「ヤマ」の会社として、第二の創業ののろしを上げる。創業約430年の老舗の進化を探る。

フィリピンのニッケル製錬所(パラワン島)

フィリピンのニッケル製錬所(パラワン島)

別子銅山ゆかりの愛媛県新居浜市。住友財閥お膝元のこの町で、黒い粉末材料の工場増強が佳境を迎えている。EV電池の主要部材「正極材」に使うニッケル酸リチウム作りを担う、住友鉱山の磯浦工場だ。

8つある工場棟の1つを訪れると、エメラルドグリーンのニッケル粉末やコバルトが直径数メートルの炉に投入され、緑色の化合液となる工程が目に入る。別の工程の炉ではカラカラに乾燥した原料が焼き焦がされ、真っ黒になった素材が正極材用の粉体となり出荷を待つ。

現在建設が進行中で年内にも稼働するのは、焼いた原料に後処理を施し生産効率を高める施設。世界のEVシフトを背景に増産を重ね、2014年時点で850トンだった磯浦工場の月産能力は、18年末までに断続的に計370億円を投じ、4550トン体制に膨らむ。

6月に就任した野崎明社長はニッケル畑が長い。就任会見では「ニッケル事業をいかに強化していくかが課題だ」と、旗艦事業の飛躍に意気込みを示した。見据えるのはブラジルのヴァーレや豪英BHPビリトンなど世界の資源メジャーだが、攻め方は異なる。住友鉱山が追求するのは、メジャーにも類を見ない、鉱石から製錬、素材供給を垂直統合した「新時代のニッケル王」だ。

■構造変化が商機

住友鉱山の創業は1590年。その約100年後に別子銅山の開発を始めた。時代を超えて日本の基幹産業を支え、20世紀後半の成長期以降も電機や自動車を最終ユーザーとして、ステンレス原料のニッケルなどを安定供給してきた。

しかし21世紀。多くの電機・自動車メーカーは生産拠点を海外に移し、自動車ではハイブリッド車やEV向け電池の需要が急拡大。住友鉱山はこうした構造変化を商機と捉え、製錬よりさらに「下流」の素材生産へとアクセルを踏んだ。

同社が電池メーカーに供給するのは正極材の材料となる粉体。単なる非鉄鉱山会社とも電池材料メーカーとも違うのは、鉱石から電池材料までのサプライチェーン(供給網)を包括的に掌握していることだ。

住友鉱山のニッケル供給網の起点は、フィリピンやニューカレドニアでそれぞれ20%超の権益をもつ鉱山だ。集めた鉱石はフィリピンの製錬所でニッケルとコバルトを含む中間生産物にして日本に移送。新居浜市の工場などで粉状の硫酸ニッケル、コバルトに加工し、これらを主原料として磯浦工場を中心に正極材料を作る。正極材料は電池に塗り込んで使う。

フィリピンでは住友鉱山が世界で初めて商用化した「高圧硫酸浸出(HPAL)法」を活用。ニッケルの含有量の少ない鉱石でも品質の高いニッケル、コバルト中間生産品を生産できる。

住友鉱山にとって電池材料の最大の供給先はパナソニックだ。同社が米EV大手テスラに納めるリチウムイオン電池など、パナソニック向けに大半を供給。トヨタ自動車のハイブリッド車やEV向けにも供給する。

■鉱山権益強みに

パナソニックが住友鉱山の電池材料を採用した最大の理由が、同社がニッケルの鉱脈から押さえている点にあるとされる。非鉄資源の獲得競争が世界的に激しくなるなか、原料を自社権益で確保できるのは強みだ。

住友鉱山も、EV電池材料の商機をつかむことがニッケル事業の飛躍を左右すると判断。顧客メーカーと積極的に議論を戦わせながら開発作業に関与していった。

両社は1990年代に携帯電話電池などを共同開発したが、規模は膨らまなかった。ところが2010年代にEV電池への期待が高まり、共同開発を加速した。

リチウムイオン電池の材料では、ニッケルやコバルト、マンガンを使うタイプやリン酸鉄リチウムを使うものなど複数の種類がある。その中で両社はニッケルを中心に、コバルトや、アルミニウム、リチウムを加えた電池材の採用を決めた。

住友鉱山はトヨタともハイブリッド車向けの電池材料の研究を重ねていた。日本の電機・自動車を代表する2社との連携を土台として、電池材料の技術を確立した。

EV向けリチウムイオン電池の世界市場は拡大している。矢野経済研究所によると、18年に容量ベースの予測で約5万9千メガワット時の世界市場は、25年には約4倍の21万8千メガワット時に膨らむ。

米中貿易摩擦を受け6月以降、ニッケル市況は悪化したが、7月後半からは下落に一服感が出ている。商品アナリストらは、EV電池向けの長期的な需要への期待が理由だとみている。

当面、住友鉱山はEV電池材料で世界シェア10%弱のユミコア(ベルギー)と首位を争う位置にあるとされる。ただ、ユミコアの事業は製錬と素材生産に限られ鉱石は外部から調達している。

ニッケル垂直モデルを強みとする住友鉱山への市場の期待は大きい。同社の時価総額は足元で約1兆1千億円と、00年代初頭の3千億円台から3倍超に拡大。同業の三菱マテリアルが同じ期間に4千億円弱で横ばいなのとは対照的だ。

住友鉱山ではEV電池を追い風に、資源、製錬の2大事業に比べて規模で見劣りする材料事業にも存在感がでてきた。18年3月期の材料事業の売上高は1854億円。電池向けが約4割を占め、電子機器材料なども手掛ける。経常利益は約150億円と、過去5年ほどで5倍近くに増えた。

この150億円は全社でみると1割程度にすぎないが、野村証券アナリストの松本裕司氏は「電池材料事業の成長は5年後に会社全体の利益を1~2割押し上げるだろう」と指摘する。

■供給先の分散課題に

住友鉱山のEV用電池材料でのパナソニック依存はリスクにもなり得る。テスラも生産停滞や資金繰りの懸念を抱える。住友鉱山はパナソニック仕様とは異なるタイプの車載電池材料をトヨタ向けに生産するノウハウを生かし、供給先の分散は課題として検討していくとみられる。

また、資源の上流から下流を丸抱えする垂直モデルだからこその供給網の寸断リスクもある。鉱石などは外部からも調達しているが、フィリピンやインドネシアなど日系非鉄メーカーが依存する国々では、資源政策の変更で鉱石の調達環境が一変する例もある。

1つの解決法として、住友鉱山はインドネシアで製錬所建設の事業化調査を進行中。建設投資は1000億円を超える見通しだ。同国は未加工鉱石の輸出を禁じる政府規定を施行(現在は時限措置で緩和中)しており、現地製錬の開始は資源の安定調達に資する。

海外製錬所では設備トラブルも大敵だ。現に18年はフィリピンの製錬所の稼働が芳しくなく、磯浦工場の増産も当初想定より半年ほど遅延。鉱石生産が落ちることで全体の業績に数十億円単位の悪影響が出ている。

海外の製錬・製造拠点の強化は、顧客メーカーの生産移転が進むなか喫緊の課題だ。パナソニックなど電池メーカーの生産もメーンの拠点は日本以外になるだろう。需要動向やライバル企業の勃興など変化が激しい分野にあって、投資のタイミングや場所については野崎社長ら経営陣の機を見るに敏な手綱さばきが問われる。

(企業報道部 鈴木泰介)

[日経産業新聞 2018年8月15日付]

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