【大手総合商社】繊維、食料など生活消費関連に強み。非資源の利益首位。
「来期は今の役職から代わってもらうからな」。伊藤忠商事の岡藤正広社長から昨年末にそう告げられた鈴木善久氏は「そろそろ引退か」と受け止めていた。その時の反応を見た岡藤社長は「外にでると勘違いしているようだったが、淡々とした様子で変な野心がない人物だ」と感じ、次を託す決心を固めた。
もともとは航空機のエンジニアを目指していた。しかし、「研究より航空機を売るほうが性に合う」と進路を変更した。日本では未開拓の分野だった宇宙ビジネスに着目。ロケット打ち上げ専門の外資企業と契約を結ぶなど実績を重ねた。丹羽宇一郎氏が社長の時には秘書を務め、2003年には当時最年少で執行役員に就いた。
しかし、06年に米国子会社に赴任した際にはリーマン・ショックが起きた。日本に戻り航空部品製造の関連会社、ジャムコに出向した時も東日本大震災が発生した。度重なる困難も「粘り強くやれば何とかなる」との持ち前のポジティブな志向で乗り切ってきた。
仕事をする上で大切にする考え方は「事業は人」「答えは現場にある」。「関西弁でまくし立てる熱血型の岡藤氏とは対照的に紳士的」とライバルの商社幹部は評すが、人と現場を大切にする気持ちは共通する。商社の経営環境が激変するなか「新しい伊藤忠の土台を作りたい」と意気込む。(直)