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相場に惑わぬ投資眼 「ESG」で有望株を買う

2014/3/21 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 「また下がった」「今日は上がった」……。少額投資非課税制度(NISA)を機に「投資デビュー」し、毎日ハラハラしている人も多いだろう。だが、投資の王道は短期の値動きに一喜一憂しない長期投資。その極意は将来に向け継続的に成長する「いい会社」選びにある。「ESG投資」のエッセンスを学び、参考にしてみよう。

「女性ってなぜか組み立てミスを見逃さないんですよね」。ユーモアを交え企業における女性登用の重要性を説くのは建機メーカー、コマツ初の女性執行役員浦野邦子さん。12日夜、独立系のコモンズ投信が開いた「投資先企業から学ぶ」セミナーの一幕だ。

コマツは「30年目線で投資先を選ぶ」がモットーの「コモンズ30ファンド」の投資先29社のうちの一つ。建機というと男性的なイメージだが、早くから女性社員登用に関する目標値を設定するなど、人材ダイバーシティ(多様性)に配慮した経営で知られる。東京証券取引所が選定した「ESG銘柄」の一つだ。

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字。その3要素で企業を分析、優れた経営をしている企業に投資をするのがESG投資だ(図A)。

具体的には、Eはエネルギー使用量や二酸化炭素(CO2)排出量削減など環境面への配慮などを意味し、Sには人材多様化やワークライフバランスへの取り組みが含まれる。女性活用はこのカテゴリーの一要素だ。そしてGには資本効率への意識の高さや情報開示の充実などが含まれる。

コモンズ30もESG投資の要素を取り入れた投信だ。伊井哲朗社長は銘柄選びを「企業が長期にわたって業績を伸ばせる源泉、秘密を探す作業」と表現する。足元の業績は決算数字を見れば分かるが、それは将来の業績・株価を保証するものではない。将来的な企業価値を見通すには数字以外の「見えない価値」に着目するのが、遠回りなようで結局正解、という考えだ。

■機関投資家が着目

この考えは欧米の年金など長期資金を運用する機関投資家を中心に世界的潮流となっている。きっかけが2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」というルール。大手機関投資家に対し投資判断にESGの観点を組み込むことなどを求めた。その後のリーマン・ショックを経て短期的な高利回りを追求する投資家の動きが金融危機を増幅させたという反省も普及を後押ししている。

とはいえ、投資はあくまでリターンを追求する行為。ESG投資の肝は「いい会社」を選ぶことが結果的に良好なリターンにつながることだと、PRIづくりに参画したハーバード大学大学院のジェームズ・ギフォード上席研究員は言う。「投資家の目的である収益と社会の要請は関連が薄いように見えて、実は両立している」

たとえばローソンなどのコンビニエンスストア大手。東日本大震災後、社会インフラとしての存在価値を高めたことで業績も拡大した。また、自動車各社の将来成長のカギを握るのはエコカーなど環境対応車だ。

■「統合報告」にヒント

ニッセイアセットマネジメントでは約20人のアナリストが、通常の財務分析に加えESGの観点から4段階で対象企業(約500社)の持続的成長力を評価する。評価を始めた08年11月~昨年3月まで、最上位「1」の企業のパフォーマンスは全体平均を15%強上回ったという。井口譲二株式運用部担当部長はESGを「将来の株価のパフォーマンスを読む上で優れた分析手法」と言う。

アナリストでない個人投資家がESG分析をする場合はどうするか。「統合報告書」という資料を読むのが第一歩になる。決算数字などの財務情報に加え、社会貢献や環境経営などへの取り組みを網羅したもので、日本では「アニュアルリポート」の名で年1回発行されることが多い。開示企業は年々増えてきており、今年は100社を超える見通し。統合報告書を出していない企業は「まずはホームページの企業理念やトップの考えを読み込むことが出発点」(コモンズの伊井社長)。

冒頭の東証による「ESG銘柄」のように"お墨付き"のある企業に着目する手もある。ESGのうち、今最も旬なテーマといえば女性登用。経済産業省と東証が共同で選んだ「なでしこ銘柄」(図B)が参考になる。東証1部上場の1750社から女性管理職比率や自己資本利益率(ROE)などで選別、26社を認定している。

なでしこ26社に過去投資をしていたとしたら、投資成績はどうだったか――。アベノミクスに沸いた過去1年間では日経平均株価の上昇にかなわなかったが、過去5年で見ると市場平均を上回る上昇率を記録している(図C)。まずはNISA口座の非課税期間、5年を一つの目安にESG投資を始めてみてはどうだろう。(伊原健作、富田美緒)



■安倍政権の成長戦略とも一致
 「政策に売りなし」という相場格言がある。女性活用を進める企業に注目するESG投資は、安倍晋三政権の成長戦略とも一致しており政策面での追い風も期待できる。 「2020年までに指導的立場の女性比率を30%以上にする」という数値目標を掲げているが、企業の管理職は十数%、取締役に至っては1%強しかいないのが現状。世界ではクオータ制の下、一定枠を女性に配分する動きもある。ノルウェーでは違反企業を上場廃止にする罰則もあるなど、徹底している。

[日本経済新聞朝刊2014年3月19日付]


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