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減収時代、副業に活路 「月5万円未満」穴埋め

2013/3/2 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 給料の伸び悩みで副業を検討する人が増えている。今後も消費増税などで家計の負担は増すだけに、必要性が高まっているのは確か。だが、企業の多くは認めていない。変わり始めた働き手と日本企業の関係の行方を考える。

「息子を大学に行かせるため副業をするしかない」

神奈川県に住む大森祐子さん(仮名、45)は、食品会社で正社員として働き、年収約350万円を得ている。3年前からはそれに加えて週3回、夜間にファミリーレストランで働き、月3万~5万円ほど稼ぐ。

住宅ローンの返済が負担になっていたところに、夫(53)が勤め先に退社を迫られた。今は時給1000円足らずの非常勤のため、2人の本業だけでは進学費用を賄えないからだ。

■既に1割が開始

とはいえ会社には知られたくない。住民税を給与天引きで納付すると、副収入が合算され副業を知られる可能性がある。そのため自分で納付しているという。

副業を始めたり、検討したりしている人は43%(グラフA)。昨年11月、「日経生活モニター」に登録した読者に行ったアンケート調査(1046人回答)の結果だ。既に始めている人も10%おり、生活手段として定着し始めたことがうかがえる。背景にあるのは収入の伸び悩みだ。

国内労働者の平均年収は1997年をピークに減少傾向をたどっている。2011年の年収は97年と比べ58万円(月額5万円弱)減った。一方、調査では「副業で稼ぎたい月収」で5万円未満と答えた人が半数超。中でも「3万~5万円未満」(年収換算36万~60万円未満)が29%と多かった。収入減を副業で穴埋めしようという意識が読み取れる(グラフBとC)。

リストラや非正規社員活用の広がりで、働き手の立場が不安定になったことも大きい。総務省の労働力調査によると12年に勤め先などの都合で離職した人は70万人。直近10年は100万人を超す年も3度あった。

収入減で生活費が細っているところに雇用の不安定化が加われば、「家計防衛策の一つとして副業が浮上するのは当然」とファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子氏は指摘する。ただ、そこで問題になるのが本業との兼ね合いだ。

■半数の企業が禁止

労働政策研究・研修機構の04年の調査によると、副業禁止の企業は50%。その後も「情報漏洩の懸念から副業規制を厳格にする流れは変わっていない」と郡司正人主任調査員はみる。

リーマン・ショック後の09年、業績悪化に伴う賃金カットで、日産自動車や富士通などが一時的に副業を認めたケースはある。しかし両社とも「申請はほとんどなかった」といい、現在は全面禁止に戻している。

そのため危うい綱渡りをする人もいる。ジュエリー卸会社勤務で、埼玉県に住む飯田智子さん(仮名、33)はその一人。会社は副業禁止だが、生活費が足りなくなると、休日に宅配便の仕分けのアルバイトをしている。日払いの仕事なら会社に知られないとの判断からだ。モニター調査でも、副業で選ぶ仕事として最も多かったのは「単発のアルバイト」(41%)(グラフD)で、本業の会社に知られないよう、働くダブルワーカーが多いことがうかがえる。

法的には、就業規則で副業を禁じても効力に限界がある。副業を理由とした解雇が有効になった判例は、本業への悪影響があると判断されたケースだからだ(表F)。無論、裁判で争ってまで副業を求める個人はいない。そのため企業に変化を求める声もある。

「年金や雇用の不安が強まっており、複数の収入源を確保するのは当然の権利」と訴えるのは、大手企業に勤めながら賃貸マンション50戸を経営する加藤隆氏(54)。著書の収入も得ており、65歳時点で年金がなくても暮らせるよう設計しているという。

「どんな企業も終身雇用と給与を保証はできない。副業禁止は時代錯誤」と語るのはアプリ開発会社フィードテイラー(大阪市)の大石裕一社長。社員に副業を奨励することで知られる。

■消費増税で加速も

だが、「社内の仕事に専念させたい」という企業の姿勢も当然だろう。「本業に支障をきたさない前提で、就業外の時間を副業に使えるよう改めるべきだ」と主張している東京大学社会科学研究所の佐藤博樹教授も、情報漏洩などの問題から「企業が急に変わる可能性は低い」とみる。

副業や共働きの動きが加速する公算は大きい。最大の要因は消費増税だ。大和総研の是枝俊悟研究員は、年収800万円の4人世帯の場合、実質手取りは16年に43万円減ると試算する。

焦点になるのは賃上げ。安倍晋三首相は経済界に賃上げを要請している。企業がボーナスを含め賃金改善を実施し、それを継続できる経済成長が実現すれば、働き手の安心感は高まる。

しかし実現できない場合は……。かつて企業戦士とうたわれた日本の社員と企業の間柄が、抜き差しならないところに来ているのは確かだろう。

(下前俊輔)

[日本経済新聞朝刊 2013年2月27日付]


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