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個人の資産運用、税務署はどこまで把握

2011/9/30 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 個人の資産運用にとって、気になるのは「マーケットの動向」に加えて「税務署の動き」だ。資産運用で得た利益をうっかり申告し忘れて税務署から指摘されるケースが少なくないからだ。必要があればきちんと納税しなければならないが、そのためには資産運用にかかる税金の仕組みに加え、個人の資産運用について税務署はどの程度まで把握しているのかを知っておく必要がある。ここでは後者について紹介したい。

 税務署は資産運用に関する「申告・課税漏れ」を見つけ、納税を促すため、様々な情報を集め、蓄積している。具体的には株式投資や海外投資など資産運用に伴う資金の流れを把握するために「法定調書」を活用している。

 表に個人の資産運用関係の主な法定調書などをまとめた。

個人の資産運用に関する主な法定調書
資 料どんなもの?
特定口座年間取引報告書特定口座を通じた株式や株式投信などの取引について、銘柄名、株数・口数、売却額、取得額、手数料、利益額などを税務署に提出
株式等の売却の対価等の
支払調書
一般口座を通じた株式や株式投信などの取引について、銘柄名、株数・口数、売却額を税務署に提出
先物取引に関する支払調書例えば外国為替証拠金取引(FX)では、その決済損益、数量、決済年月日、決済時の約定価格などを税務署に提出
国外送金等調書1回当たり100万円超の海外からの入金や海外への送金について、国内金融機関が入送金の年月日、金額、本人の口座番号、入送金の理由などとともに税務署に提出
金地金、金貨などに関する
支払調書
(2012年から提出)
金地金、金貨、プラチナを取引業者に売却する場合、その売却額を税務署に提出
1回の売却額が200万円以下の場合は提出されない

 法定調書とは金融機関や企業が個人に対して何の対価として、いつ、いくら支払ったかを税務署に報告する支払調書が主で、現在、合計53種類ある。2012年からは金などの支払調書が法定資料に加わるので、54種類となる。このほか税務署が独自の調査により収集した「法定外資料」もあるが、ベースとなるのは法定調書だ。法定調書などのデータは、国税庁が全税務署と結んで展開するKSK(国税総合管理)システムに蓄積される。必要に応じて氏名、住所などで名寄せできる。例えば個人ごとの株式取引記録も検索・出力可能だ。

 株式投資など証券関係の法定調書には「特定口座年間取引報告書」と「株式等の売却の対価等の支払調書」がある。証券取引口座には「特定口座」と「一般口座」があるが、前者は特定口座を通じた株式取引などの調書。ただ、結論からいうと、特定口座を通じた売買のうち「源泉徴収あり」の分は税務署はそれほど念入りにチェックしない傾向があるとされる。証券会社を通じて既に年間損益が確定しており、税金も源泉徴収(天引き)されているため、チェックしても二度手間になることが多いからだ。ただ、「源泉徴収なし」を選択した特定口座での取引や、一般口座での取引は、念入りに分析される。ともに確定申告による納税が必要で、チェックしなければならないからだ。

 ただ、税務署にとって一般口座の確定申告のチェックはかなり手間のかかる作業だ。チェックのために使う「株式等の売却の対価等の支払調書」では売却額は報告されるが、取得費や購入額、取得日までは報告されない。そこで申告が正しいかを証券会社などに改めて確認する必要があるからだ。

 そもそも一般口座での取引は申告漏れも少なくない。そこで税務署では、チェックを効率化するために、KSKデータ上は多くの売却額があるのに、確定申告書では譲渡所得が少なかったり、損失の申告のみのケースを抜き出して調べる傾向があるという。ただ、調査した結果、売却額は多くても、年間で損失が出ることも少なくないため、税務署にとっては徒労に終わるケースもある。

 先物取引は、支払調書により、基本的に取引の全容が税務署に把握されていると考えた方がよい。店頭取引の課税方法が2012年から申告分離課税となり、既に申告分離課税となっている取引所取引と課税方法が一本化されるため、税務署がチェックしやすくなるかもしれない。

 海外での運用についても税務署は目を光らせている。「国外送金等調書」はそのための有力な手段だ。特に数百万円以上の入金は申告漏れの発見につながる可能性があるとみて、調べることが多い。なお、海外での利子所得は、現地で税金を徴収されても、申告することが必要。日本では海外の利子所得は他の所得と合計して総合課税する仕組み(国内の利子所得は源泉分離課税)なので、申告しないと税務調査の対象になる可能性がある。

 2012年からは金地金、金貨を取引業者に売却する場合、その売却額の情報が業者の「支払調書」として税務署に提出されることも知っておこう。金の売却益にはもちろん税金がかかる。金価格高騰の中で課税漏れが起きないようにするため、調書提出が義務付けられる。1回の売却額が200万円以下の場合は提出されないが、多額の売却額がある人は税務署に情報を把握されるようになる。

 以上、個人の資産運用について税務署は何を把握し、どのような動きをするかをみてきた。税務署に報告されることは、基本的に個人が自らの資産運用の成果を知るうえで当然記録していると思われることばかりで、その記録をもとにきちんと申告すべきことを申告していれば、税務署からいろいろと聞かれることはないはず。ただ、意図的な申告漏れは論外だが、うっかり申告し忘れることもある。特に株式を一般口座で取引する人にその傾向が強い。資産管理や取引管理は日ごろからきちんとしておこう。(編集委員 後藤直久)


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