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ぽっこり腹や腰痛の原因にも 「反り腰」を改善 ゆがみリセット学(4)
竹井仁

2012/1/29 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 慢性的な腰痛に悩まされるかどうかは、普段の姿勢で決まります。壁を背にして立ったとき、腰に手がすっと入るのが腰に負担のかかりやすい「反り腰」。腹筋など「体の前側の筋肉」と、姿勢を支えるべき「体の後ろ側の筋肉」のバランスの崩れが原因となり、腰痛が起こります。解決法は、固まった筋肉をほぐし、なまけた筋肉を鍛えること。腰がすっと伸びれば痛みも軽くなり、猫背もすっきり、体のラインもきれいになって、いいことづくめのメソッドです。

 腰痛の症状はさまざまですね。ズキズキ痛む、あるいはずーんと鈍く痛む、長く座り仕事をしていると痛むけれど体を動かすと楽になる、というふうに波がある場合もあります。

 ぎっくり腰や椎間板ヘルニアなどのように、急にひねった、ぶつけた、物を持ち上げたなど、原因がはっきりしていて、その結果生じる痛みは「急性腰痛」といいます。一方、じわじわと長く続くのが「慢性腰痛」。痛みがなかなか治まらないので受診し、血液検査、X線検査、磁気共鳴画像装置(MRI)などでひと通り調べても「異常所見なし」。原因不明といわれるのが、こちらの慢性腰痛です。

 検査でわかる原因はなくても、慢性腰痛にも必ず原因があります。もっとも大きく関わるのは普段の姿勢の悪さ。今回は、悪い姿勢をとることがどれだけ腰に負担をかけるか、というところから説明していきましょう。

 もともと人間の体は、前側に重みが偏っている状態なんです。ぶ厚い胸郭も内臓も、体の前側にあり、体の軸となる背骨は体のぎりぎり後ろ側にあります。だから、普通に立つだけでも前に倒れそうになる力と対抗しないといけない。そのため、姿勢を保持するための筋肉、「主要姿勢筋」はすべて体の後ろ側についているんです。頭を支える首まわりの頸部筋、背骨を支える脊柱起立筋、太もも裏側にある大腿二頭筋、足首を動かすヒラメ筋。これらの体の後ろ側にある筋肉がきちんと働いている人は、すっときれいに立つことができます。

「反り腰」で、腰の一部分に相当の負荷がかかる

自分は「反り腰」かどうかをチェック。靴は脱ぎ、素足で壁からかかとを5cmほど離して真っすぐ立つ。頭、お尻、背中を壁や柱にぴたっとくっつけて、壁と腰の隙間に手を入れる。壁と腰の隙間に手がすぽっと入り、余裕があるようなら骨盤が前傾して腰が反っている(この記事のイラスト:もと潤子)

自分は「反り腰」かどうかをチェック。靴は脱ぎ、素足で壁からかかとを5cmほど離して真っすぐ立つ。頭、お尻、背中を壁や柱にぴたっとくっつけて、壁と腰の隙間に手を入れる。壁と腰の隙間に手がすぽっと入り、余裕があるようなら骨盤が前傾して腰が反っている(この記事のイラスト:もと潤子)

 では、主要姿勢筋がうまく使えていない人はどうなるかというと、体の「前に倒れそう」になる力に負けてしまう。もも裏から骨盤の後ろにつながる大腿二頭筋が弱いために骨盤は前に傾く。そこで体が倒れてしまわないようにバランスをとろうと、ちょうど腰のあたりで反る。これが「反り腰」です。

 自分はどうだろう? と思ったら、チェックしてみましょう。本シリーズの第1回目でもお話ししましたが、腰と壁の間に手がすぽっと入るくらい余裕があるなら、骨盤が前傾して腰が反っている証拠です。腰痛は反り腰の人に圧倒的に多いんです。これは男女ともに共通しています。

 姿勢に何も問題がなくても、腰には大きな負担がかかります。ある実験によると、体重70kgの人の場合、最も力がかかる腰の骨には、あおむけなら30kg、立てば70kgの負荷がかかります。重心が前に出ると負荷はさらに高まり、イスに座ると100kgにもなるんです。

 反り腰の人は、姿勢を支えるはずの背面の筋肉がうまく働かず、この負荷を支えるために、腰の脊柱起立筋と、その近くで背骨同士をつなげている深層筋だけが常に踏ん張らないといけない。これでは腰が痛くなっても無理はありませんよね。

 反り腰による負担を分散させるには、骨盤の癖を正すことも有効な対策となります。座った状態で、骨盤を後ろに倒すように意識しましょう。お腹に力を入れておへそを背もたれに寄せる意識で骨盤は後傾します。腰にかかった負担がリリースされることによって、腰の凝りが痛みに変わるのを、未然に防ぐことができます。

【骨盤周辺の筋肉をほぐす】
座って骨盤ストレッチ
 座った姿勢で上体を真っすぐにする。頭の高さは変えず、腹筋に力を入れておへそだけを背もたれの方向に引きつける。これで骨盤が後傾する。骨盤が後傾した状態で5秒キープし、10回繰り返す。

 仕事に集中していると、次第に骨盤が後ろに倒れるだらしない座り方になってしまうのは、ある程度仕方がないこと。もちろん、姿勢ばかり意識していては仕事が進みません。ただし、楽だからといってだらしない姿勢をずーっと続けると、姿勢を維持する筋肉が力を発揮する機会を失い、弱っていってしまう。

 イスにきちんと座ることができず、いい姿勢をとろうとしても3秒と持たない、というような人は特に要注意です。こうした筋肉のバランスが崩れた状態だと、運動も余計に体を悪くする原因になりかねません。

 立つ・座るときの、姿勢を保持する筋肉をあなどってはいけません。ここを鍛えないまま放ったらかしていると、代わりに頑張っている腰には凝りや痛みがたまっていくばかり。慢性腰痛をこれ以上進行させないためにも、現時点で釣り合わなくなっている体の前側と後ろ側の筋肉バランスを正すことが必要です。

詰まった腰の関節同士を伸ばす

 最初に、「胎児姿勢ストレッチング」で、反った腰をストレッチします。反り腰の人は、腰の関節同士がぎゅっと詰まった状態にありますから、ここを伸ばすだけで、その場で非常に楽になるんです。腰だけが伸びるよう、お尻だけを浮かせるのがポイントです。

【腰部分の脊柱起立筋を伸ばす】
胎児姿勢ストレッチング
 頭の後ろに枕やクッションを入れて横になり、あごを引き気味にして、太ももの後ろに両手を回して両ひざを抱える。腰部分だけを伸ばす意識で、20~30秒ストレッチ。10秒休んで、合計3回行う。

 腰が反っている人は、腹筋がとても弱く、お腹がぽこっと出ているのも特徴です。本来であれば、骨盤を正しいニュートラルな傾きにセットするために使われる、お尻の筋肉もなまけている。だから、「ゆりかご体操」で、お腹を縮める腹直筋とお尻の大殿筋を同時に鍛えましょう。背中が床につきそうになる直前でこらえ、足の裏が床につきそうになる直前でこらえる。このときに、腹直筋と大殿筋が一気に刺激される。非常にきつい体操です。だからこそ、お腹やお尻のシェイプアップ効果も高いですよ。

【腹直筋と大殿筋を一気に鍛える】
ゆりかご体操
 「体育座り」をして両手をひざの上に置く。体全体を後ろ側に倒し、肩甲骨(けんこうこつ)が床に着きそうになる手前で戻り、今度は足裏が床に着きそうになる直前で戻り、前後に揺れる。ゆっくりと5回往復する。

 反り腰の人は、骨盤まわりの深層筋も硬くなっています。特に硬直が強く、きれいな立ち方をしようとするときにつっかい棒のように邪魔をしているのが、腸腰筋。背骨から骨盤を通り、太ももの骨までを結ぶ、「姿勢の影の立役者」のような筋肉です。反り腰の場合、腸腰筋は常に不自然に引っ張られ、がちがちに硬くなっています。そこで、「脚の付け根伸ばしストレッチング」で腸腰筋をしっかり伸ばしましょう。普段はほとんど行わない動作なので、腸腰筋が硬い人ほど「伸びにくい」と感じるはずです。

【腸腰筋を伸ばす】
脚の付け根伸ばしストレッチング
 両ひじを伸ばし、両手を床につける。右のひざを曲げ、左のひざは真っすぐ後ろに伸ばす。左のひざを伸ばしたまま、体重を前にかける。この状態で20~30秒ストレッチする。左右交互に、合計3セット行う。

 最後の仕上げはうつぶせに寝た状態で行う「もも上げ体操」。あらかじめ腸腰筋をストレッチしてあるから股関節がスムーズに動き、お尻の大殿筋が効果的に鍛えられます。

 腰が反らないよう、お腹の下に枕を入れて、お尻の力だけを使ってももを真上に持ち上げる! これもきついけれど、ヒップアップ効果抜群ですよ。

【大殿筋を鍛える】
もも上げ体操
 うつぶせになり、お腹の下に枕やクッションを入れる。ひざを曲げ、左のお尻の力だけを使って、左もも全体を真上に持ち上げて5秒キープする。左右ともに5回ずつ行う。

無理せず徐々に回数を増やして継続

 いずれの運動も、腰痛があるときは無理をしないことが大切です。一つひとつの運動の間に10秒ほどの小休止を入れること。ゆっくりと、一定のリズムで行い、痛みが出たらすぐにやめましょう。

 「体操」という名前がついている鍛える動きは、最初はそれぞれの運動を5回ずつ行います。慣れてきたら徐々に増やしていき、最終的には10回できることを目指します。続けるうちに筋肉が鍛えられてくるので、無理なくできるはず。

 腰痛が軽くなったからといってやめてはいけませんよ。筋肉のバランスが崩れれば、また元に戻ってしまいます。きちんと、予防として続けていくことが大事です。

 今回のストレッチングと体操をひととおり行ったら、両足を地面にしっかりつけて立ってみましょう。どうでしょうか。きれいな立ち姿勢を邪魔していた筋肉がほぐれ、姿勢を保持する筋肉が鍛えられると、無理なくすぅっと背すじが伸び、良い姿勢がとれることを実感できるのではないでしょうか。

 このきちんとした立ち方を体に染みこませましょう。仕事をしているときや、立っているとき、前後の筋肉バランスが崩れていることに早めに気づくように注意して、こまめに修正しましょう。

【今回のポイント】
 反り腰の腰痛は筋肉バランスを改善してリセット!
 腰が反った姿勢は、腰痛のもと。体を支えるときの全負担が腰にかかり、これが慢性的な腰痛を呼ぶ。衰えている体の後ろ側の筋肉を鍛え、前後の筋肉バランスを整えれば、腰痛はなくなる。

竹井仁(たけい・ひとし)
 首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科准教授。1966年、愛媛県生まれ。筑波大学大学院修士課程(リハビリテーション)修了。2002年、医学博士(解剖学)学位取得。理学療法士。医学的知識に基づいた筋力トレーニング、リハビリテーションを研究する。著書に『不調リセット』(ヴィレッジブックス)などがある。

(ライター 柳本操、構成/日経ヘルス 宇野麻由子)

[日経ヘルス2011年10月号の記事を基に再構成]


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