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小児に広がる「睡眠時無呼吸」 落ち着きなく粗暴に

2011/10/28付
ニュースソース
日本経済新聞 夕刊

夜中にイビキをかいたり息が止まったりしてぐっすり眠れない睡眠時無呼吸症候群が、子どもの間で増えている。落ち着きがない、勉強に集中できない、動作が粗暴といった特徴があり、専門医は心身への悪影響に警鐘を鳴らす。「潜在患者は相当数に上る」ともいわれ、早く見つけて治療すれば治るため、負担の小さい検査法の研究や、啓発冊子を作るなどの動きが活発化している。

寺田明ちゃん(仮名、3)が母親に連れられて千葉県こども病院耳鼻咽喉科を訪れた。「睡眠中のイビキがひどく、呼吸が止まることもある」という。明ちゃんは痩せて元気が無く、口を開け鼻水を垂らしていた。体重は同年齢の平均(14キロ)を下回る12キロ。食が細く、この1年間ほとんど体重が増えていないと母親。「気道が狭まり、睡眠時無呼吸を発症しているのではないか」と工藤典代耳鼻咽喉科部長(現・千葉県立保健医療大教授)は考えた。

睡眠時の様子をビデオに撮ってもらうと、寝返りが多く、あえぐような呼吸や息が止まる様子が映っていた。喉の内視鏡検査などで扁桃(へんとう)腺や咽頭扁桃(アデノイド)が肥大していることを確認、これらを手術で取り除いた。

退院から1カ月後に外来診察室に現れた明ちゃんは元気いっぱいで、別人のようだった。「よく眠り、よく食べる。体重は1.5キロ増えた」と母親は話した、という。

「潜在患者多い」

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に呼吸が止まるなどして深い睡眠が得られず、日中に耐え難い眠気に襲われる。国内では2003年に新幹線の運転士が居眠り運転して車両が緊急停止する事故が起きて注目された。

「子どもの場合、睡眠中低酸素状態になるなどして、注意散漫や情緒不安定、学業不振、成育の遅れなどを引き起こす。早めに見つけ、治療することが大切だ」と工藤教授は話す。

小児患者の割合は海外で1~3%と報告されているが、「イビキは幼児期から小学校低学年の子どもに目立ち、その多くに睡眠時無呼吸が隠れている」と指摘する医師もいる。

日本学校保健会が07年に8都府県の小学校21校で保護者を対象に行った調査(1764人回答)では、子どもに睡眠時の無呼吸が「よくある」「時々ある」が1年生では4.5%、5年生、6年生でもそれぞれ3.4%、2.4%あった。

睡眠時無呼吸の子どもの4人に1人に「寝息が荒い」や「イビキをかく」などの症状がみられ、調査で中心となった工藤教授は「特にイビキをかく子どもで、落ち着きがなかったり学習意欲が低かったりする割合が高かった」と話す。ただ、「子どもの睡眠時無呼吸症候群は、小児科や耳鼻咽喉科の医師の間でも十分理解されていない」のが現状だ。

検査法が簡便に

診断のための検査が煩わしいことも影響している。国際標準となっている睡眠ポリグラフ検査は、体に20以上のセンサーを付けて、眠っている間の脳波や心電図、眼球運動、口・鼻の気流、血中の酸素濃度などを調べるもので、3~4歳の幼児に行うのは難しく、実施できる医療機関は限られている。このため、簡便で子どもへの負担が小さい検査法が求められてきた。

山梨大小児科の杉山剛助教は08年から、携帯型の検査装置「SAS2100」を使って、睡眠時の呼吸障害の程度を測り、独自に作成した問診票の結果と併せて、手術などの治療が必要な子どもを見つけ出す診断基準を編み出した。

検査は、鼻の下に装着した管で息の圧力を測り呼吸やイビキの状態を把握するとともに、指先に付けた小さな装置で心拍数や酸素濃度を計測し、それぞれデータをSAS2100に記録し解析する――という方法だ。

杉山助教は「小児の睡眠時無呼吸症候群は治療法が確立しており、これまでの検証では、治療を受けた子どもの大半でイビキなどの症状が改善、集中力や落ち着きを取り戻す傾向にあることが分かっている。にもかかわらず検査が障害となって、診断されずに適切な治療を受けないでいる潜在患者が多い」と強調。「心身の成長にとって大切な時期だけに適切な検査と治療の普及が重要だ」と話している。

扱う医療機関少なく

小児の睡眠時無呼吸症候群は2005年改訂の国際睡眠障害分類第2版で初めて独立した疾患となり、診断基準が示された。

千葉伸太郎・慈恵医大耳鼻咽喉科講師によると、扁桃腺や咽頭扁桃の肥大、アレルギー性鼻炎などで気道が狭まるのが主な原因だ。「イビキや荒い寝息は重要なサイン。何度も目覚めたり、口呼吸や頻繁な寝返りをしたりすることもある。日中の症状では、成人に多い居眠りより、注意散漫や粗暴な行動などの特徴がある」

我が子が睡眠時無呼吸症候群ではないか、と疑った場合、どこで検査や治療を受ければいいのか。

現状では、小児の睡眠時無呼吸症候群を扱う医療機関は極めて少なく、成人を診る施設や小児専門病院で相談するしかない。

医師や患者団体、医療関連メーカーなどが、睡眠時無呼吸症候群の検査や治療の促進を目指してつくる「グリーンピロー・SAS広報委員会」がホームページ(http://www.greenpillow.jp/hospital/)で治療、検査を受けられる医療機関を紹介。日本睡眠学会もホームページ(http://www.jssr.jp/data/list.html)で学会の認定施設と認定医などのリストを公開しており、近くの医療機関を知る手掛かりとなる。

また、日本学校保健会は09年、小児の睡眠時無呼吸症候群を分かりやすく解説した学校関係者向けの啓発冊子を作成し、全国約3600の公立校に配布、内容をホームページ(http://www.hokenkai.or.jp/mukokyu/090202.pdf)にも掲載している。

(安西明秀、編集委員 木村彰)

[日本経済新聞夕刊2011年10月27日付]


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