日本経済新聞社

記事利用について
印刷 印刷

名建築を楽しめる温泉宿 東西ベスト10

2014/1/5 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 忙しさや雑事から離れ、ゆったりしたひとときを満喫できる温泉宿。泉質や宿のサービスなど宿の選び方はいろいろだが、今回は名建築を楽しめる宿を専門家に聞いた。国の重要文化財や登録有形文化財、日本を代表する建築家が手掛けた宿がずらりと並んだ。

<東日本>

1位 富士屋ホテル(神奈川県箱根町) 565ポイント
 ■明治の和洋折衷 明治時代をしのばせる和洋折衷の建築。外国人向けのリゾートホテルとして1878年に創業した。本館は和風建築の代表的な装飾である唐破風(からはふ)屋根の柔らかな曲線が美しい。当時の洋館に多かったよろい戸付きの上下窓がある西洋館、校倉造りの外壁の花御殿、食堂棟などの建物が国の登録有形文化財に指定されている。
 メーンダイニング「ザ・フジヤ」では頭上に注目したい。日光東照宮本殿をモデルにした5メートル超の格天井には高山植物や鳥などが描かれ、欄間の彫刻や装飾は荘厳さを感じさせる。館内ツアーが毎日あり、宿泊客の3分の2が参加するという。「喫茶だけでも建物を体感したい」(富本一幸さん)、「夕食時にダイニングから見えるライトに照らされた花御殿は一見の価値あり」(山崎まゆみさん)(1)宮ノ下温泉(2)0460・82・2211(3)花御殿2万8500円~

2位 長寿館(群馬県みなかみ町) 560ポイント
 ■湯殿にアーチ窓 山あいにある秘湯の一軒宿。明治初期に建てられた本館や、混浴大浴場「法師乃湯」、別館が国の登録有形文化財だ。
 「法師乃湯」は杉皮ぶき屋根の木造平屋建ての湯殿で歴史を感じさせる。英国人鉄道技師の意見によるというアーチ型の窓から湯へ光が降り注ぐさまは幻想的。のちに補強した杉の丸太の梁(はり)も迫力がある。「本館の梁が出ている客室と浴室が見どころ」(郡司勇さん)(1)法師温泉(2)0278・66・0005(2)別館1万5750円

3位 三養荘(静岡県伊豆の国市) 490ポイント
 ■庭園に離れが点在 離れ形式の数寄屋造りの34室が、東京ドーム3個分(14万平方メートル弱)の広大な敷地の中に点在する。旧三菱財閥の創始者一族の別邸だった本館と、戦後を代表する建築家・村野藤吾氏が晩年に設計した新館がある。選者の多くが薦めるのは新館。広い玄関に風で揺れ動く照明が配置され余裕のある空間を演出する。それぞれの部屋には坪庭がある。「照明や装飾など隅々まで行き届いた技が光る」(藤森照信さん)。(1)伊豆長岡温泉(2)055・947・1111(3)新館5万円~

4位 歴史の宿金具屋(長野県山ノ内町) 480ポイント
 ■館内に飾り屋根 昭和初期にいろいろな建築様式を取り入れた。「斉月楼」と折り上げ天井が素晴らしい大広間は国の登録有形文化財。「館内に飾り屋根がある独特の建物で不思議」(西村りえさん)(1)渋温泉(2)0269・33・3131(3)1万9950円~

5位 向瀧(福島県会津若松市) 320ポイント
 ■雪の庭に灯火 温泉保養所だったが明治初期に旅館に。山の斜面に広がる日本庭園を囲むような木造3階建ての客室は国の登録文化財。冬、庭にろうそくをともす「雪見ろうそくは幻想的」(山田祐子さん)。(1)会津東山温泉(2)0242・27・7501(3)1万9950円

6位 龍言(新潟県南魚沼市)
 豪農などの民家を移築しており太い柱や梁が迫力(1)六日町温泉(2)025・772・3470(3)2万6250円

7位 よろづや(長野県山ノ内町)
 松籟荘と桃山風呂が国の登録文化財(1)湯田中温泉(2)0269・33・2111(3)松籟荘2万6800円~

8位 新井旅館(静岡県伊豆市)
 文人や画家が愛用。天平風呂が国の登録文化財(1)修善寺温泉(2)0558・72・2007(3)3万1500円

9位 萬翠楼福住(神奈川県箱根町)
 国の重要文化財に泊まれる温泉宿(1)箱根湯本温泉(2)0120・29・2301(3)明治棟2万1000円~

10位 大観荘(静岡県熱海市)
 平田雅哉氏による本館の大観の間と松風の間は見学も可(1)熱海温泉(2)0557・81・8137(3)2万5620円

<西日本>

1位 西村屋本館(兵庫県豊岡市) 630ポイント
 ■武家造りの荘厳さ 江戸時代の役所、陣屋だった建物を利用して創業した150年以上の歴史を持つ老舗旅館。武家造りの荘厳さを残した門構えや玄関をはじめ、構成の美しさは日本旅館建築の傑作の1つ。本館客室は手入れの行き届いた庭園との一体感を意識した造りで、狭さを感じさせない。
 別棟「平田館」は「吉兆」などを手掛けた数寄屋造りの名匠・平田雅哉氏によって1960年に建てられた。庭園に面した大浴場の「尚(しょう)の湯」は本館客室の宿泊客も利用できる。「数寄屋造りの結晶。各部屋で異なる趣も味わい深い」(山田祐子さん)、「(平田館の)特別室『観月の間』に込められた知恵と技には言葉も出ない」(武田真理子さん)(1)城崎温泉(2)0796・32・2211(2)3万7800円~

2位 旅館大橋(鳥取県三朝町) 470ポイント
 ■川からの眺めは壮観 三徳川沿いに100メートル以上も続く宿のたたずまいは壮観。唐破風の玄関がある本館や大広間棟、本館と西離れをつなぐ廊下の太鼓橋など、ほぼ全館が国の登録有形文化財だ。客室20室全ての造りが異なり、天井が傘型になった「南天の間」などは一見の価値がある。「宿がライトアップされるころ、川からの眺めに情緒を感じる」(山崎さん)(1)三朝(みささ)温泉(2)0858・43・0211(2)2万5200円~

3位 大正屋(佐賀県嬉野市) 455ポイント
 ■ガラス越しに滝 皇居新宮殿の基本設計をした吉村順三氏が生涯手を掛け続けた宿。大窓を配し、障子を壁の中に引き込んで庭の眺めをよりよくするといった宿泊客をもてなす工夫が随所に凝らされている。全面ガラス張りの地下の「滝の湯」のファンも多い。「吉村順三氏の簡素な美しさの表現にうっとり。とりわけ大浴場は庭との一体感が見事」(武田さん)(1)嬉野温泉(2)0954・42・1170(3)2万2050円

4位 由布院玉の湯(大分県由布市) 450ポイント
 ■客室と林の一体感 約1万平方メートルの敷地に14棟17室が点在。雑木林は約40年前に土壌づくりから始め、地元の山林の植物を移植した。客室が林へつながるような演出が見事。「周囲の自然と調和した素朴なモダンさは玉の湯ならでは」(武田さん)(1)由布院温泉(2)0977・84・2158(3)3万4850円~

5位 雲仙観光ホテル(長崎県雲仙市) 360ポイント
 ■スイスの山荘風 外国人向けの保養施設として1935年に開業した。「雲仙ならではの材料である溶岩石や、杉やヒノキの丸太が使われ、スイスにある山荘を思わせる」(稲葉さん)。国の登録有形文化財。(1)雲仙温泉(2)0957・73・3263(3)2万4000円~

6位 湯之島館(岐阜県下呂市)
 重厚な趣の玄関や本館などが国の登録文化財(1)下呂温泉(2)0576・25・4126(3)1万9500円~

7位 べにや無何有(石川県加賀市)
 自然を楽しむ無駄を排した洗練された造り(1)山代温泉(2)0761・77・1340(3)5万925円~

8位 つるや(福井県あわら市)
 数寄屋造りで本館客室は平田雅哉氏による設計・施工(1)芦原温泉(2)0776・77・2001(3)2万3100円

9位 レゾネイトクラブくじゅう(大分県竹田市)
 自然と共生する宿(1)久住高原温泉(2)0974・76・1223(3)1万4500円

10位 金波楼(熊本県八代市)
 明治から昭和初期の正門や本館などが国の登録文化財(1)日奈久温泉(2)0965・38・0611(3)1万4700円

 表の見方 数字は選者の評価を点数に換算。(1)温泉地名(2)問い合わせ先電話番号(3)宿のおすすめプランの一例料金(1泊2食付き、1室2人利用時の平日の1人分、消費税とサービス料込み、入湯税除く)。写真は東日本の1位以外は宿の提供。

文化財にお泊まり

富士屋ホテル本館

富士屋ホテル本館

 元来、宿は経営者の好みや時代背景を映す。欧米の文化や技術が入ってきた明治時代の宿は和風建築と西洋建築が見事に調和し、和洋折衷の美しさが際立つ。東日本1位の富士屋ホテルや西日本5位の雲仙観光ホテルなど外国人向けに開業した宿が象徴的だ。

 昭和になり鉄道網が整備されると、温泉巡りが一般の人々にも広がり始める。東日本4位の歴史の宿金具屋のように、様式にこだわらず職人たちの最高の技を尽くして見る者を圧倒する建築が非日常を求める客を喜ばせた。これら文化財の宿に共通する欄間の彫刻や障子のデザインなどはもはや再現が難しく、一見の価値がある。

 高度成長期を経て温泉観光が一般化すると、くつろぎが求められるようになり、村野藤吾氏や数寄屋造りを得意とした平田雅哉氏といった建築家の手による温泉宿が増えた。宿全体のたたずまいはもちろん、庭や客室の照明など細部まで配慮されている。稲葉なおとさんは「その建物ならではの居心地のよさを感じ取ってもらえたら」と話す。

 館内のガイドツアーなどを催す宿もあり、事前に勉強しておくとより楽しめる。中には段差が多かったり照明が暗かったりする施設もあるので、事前に確認しておこう。

  ◇  ◇  ◇  

 調査の方法 国指定文化財や、建築や温泉に詳しい専門家らに推薦された各地の名建築とされる温泉宿でリストを作成。約70軒を東日本と西日本に分け、専門家に建築を楽しむ目的で順位をつけて10軒選んでもらった。選者は次の通り(敬称略、五十音順)

 雨宮健一(近畿日本ツーリスト国内旅行部)▽稲葉なおと(『匠たちの名旅館』著者、1級建築士)▽木村麻紀(JTB東日本国内商品事業部)▽郡司勇(温泉研究家、1級建築士)▽武田真理子(柴田書店「月刊ホテル旅館」編集長)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽西村りえ(温泉ライター)▽藤森照信(工学院大学教授)▽山崎まゆみ(温泉エッセイスト)▽山田祐子(井門観光研究所)


本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。