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「強い東大」優勝なるか…もう一つの東京六大学野球

2012/6/9 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

"東京六大学野球"で早大や明大と対等に戦っている「もう一つの東大」がある。東京六大学軟式野球の春季リーグ、優勝に「マジック1」とした東大は7日、2位慶大との直接対決に臨んだ。結果は……。

2年ぶりの優勝へ「マジック1」。試合前に円陣を組む

2年ぶりの優勝へ「マジック1」。試合前に円陣を組む

東京六大学軟式野球連盟は1921年創部という最古参の慶大に、早大、明大、法大、立大を合わせた5校で1961年に発足。70年に東大が加わり、硬式の六大学野球と同じ6校がそろった。

04年初V、優勝争いの常連に

2004年の初優勝以来、めきめきと力を伸ばし、優勝争いの常連と化しつつあるのが東大だ。10年ほど前に他大学でいえば体育会にあたる運動会に昇格し、活動予算がつくようになった。

2010年春以来、東大の4度目の優勝はなるか。リーグの主な使用球場の一つである町田市民球場にはざっとみて、100人ほどの見物人が集まった。

その中に赴任先の名古屋からかけつけたOBの姿もあった。

「私たちの時代は何せ弱かった。シーズンに2、3勝でもすれば万々歳で、優勝なんてとても……。この町田市民球場といえば、33連敗で迎えた試合で何とか明治に勝ったという思い出がある」(OBの満渕茂樹さん、54)

OBを含め熱い声援を送った

OBを含め熱い声援を送った

弱小時代知るOBらが熱い視線

長かった弱小時代の東大の汗と涙がしみこんだこの球場で、優勝をかけた試合が行われるとあって、感慨もひとしおだ。

OBらの熱い視線が向けられるなかで始まった試合で、まず攻勢に出たのは慶大。1回は2死球で二死一、二塁。2、3回はそれぞれ二塁打を足場にチャンスを作る。

しかし東大のエース、佐伯遼(22、経済学部4年、麻布高)が踏ん張った。シュート、カーブ、スライダー、ツーシーム、カットボール、フォークと一通りそろえた変化球を低めに集める一方、高めの直球も効果的に配し、冷静に後続を断った。

エースの佐伯は高校3年の最後の夏、日大豊山に12点を奪われて敗れた。強豪ひしめく東東京地区で悔しい思いを重ね、大学進学後も「球速のない自分の投球をどの部分で差別化していくか」と考え続けた。

0-0のまま延長戦へ

0-0のまま延長戦へ

鉄壁の内野陣、エースをもり立て

結論は変化球を磨くこと。それも大きく曲げるのでなく、小さい曲がりで、打者に一瞬「捕らえた」と思わせながら、微妙に芯をはずしていく投球だ。

打たせて取るエースを鉄壁の内野陣がもり立てる。2回は副監督兼任の松田諭捕手(21、法学部4年、神奈川・栄光学園)が強肩をみせて二盗を阻止。8回には高く弾んだ軟式独特のバウンドのゴロに大田祐太朗三塁手(20、工学部3年、石川・小松高)が出足鋭く対応し、さばいた。

水も漏らさぬ守備に、この日の第2試合に備えてスタンドで観戦していた立大の選手が思わずうなった。

「こんなに野球がうまいくせに、受験(競争)をくぐり抜けてきてるんだからなあ」。まさしく同感……。

試合は0-0のまま、延長戦に入った。そこまで7勝2敗の東大は6勝3敗の慶大と引き分けても優勝が決まる。

耐え忍びながら、少ないチャンスをものに

耐え忍びながら、少ないチャンスをものにしていくスタイルの東大には願ってもない展開だ。

「9イニングあれば、1回くらいは必ずチャンスがある。ランナーが出たら足でかき回し、とにかく三塁に走者を進める。粘り強くゴロを転がせば、何かが起こる」と外野手兼任の塩田英史監督(22、工学部4年、栄光学園)は話す。

2安打と気を吐いた松田

2安打と気を吐いた松田

化学生命工学を専攻し、DNAを研究している塩田を含め、学業をおろそかにしない選手たちが集えるのは週末と平日の2、3日ほどの朝練のみ。朝練を終えた塩田は実験室に直行する。

限られた合同練習のなかで、穴のないチームを練り上げるあたり、勘所を押さえる受験勉強の要領が生きているのだろうか。

十回裏、東大は一死から三ゴロ失策で走者を出した。慶大がもっとも恐れていた展開だ。「東大はミスをせず、こちらのミスは必ず突いてくる。一つのミスもできないという変なプレッシャーが東大戦にはある」(佐藤龍ノ介主将兼監督(21、環境情報学部4年、慶応湘南藤沢)は話す。

守り勝つのが東大の野球

守り勝つのが東大の野球

東大はバントで二塁に送って歓喜の瞬間のお膳立ては整った。しかし、ここは右飛でサヨナラはならず。

延長十一回、エース佐伯が力尽きる

直後の十一回、佐伯が力尽きた。一死から二塁打と死球で二死一、三塁のピンチを招く。慶大の9番、穂積重孝(21、理工学部3年、駒場東邦)が放った当たりは右翼手が伸ばしたグラブの上を越えて決勝三塁打になった。

151球の熱投も報われず「最後は相手が変化球を待っている気がしたので、直球で行ったが」と配球を悔やんだ佐伯。しかし「延長がずっと続いても代わるつもりはなかった」という気合十分の投球は見事だった。根負けしなかった慶大の加藤智貴(22、文学部4年、神奈川・川和高)の出来もすばらしく、街中の公園の球場には不似合いなほどのレベルの好ゲームとなった。

好敵手となった東大の強さの秘密を慶大の佐藤監督が解説してくれた。「硬式、準硬式ではなかなか勝てないが、軟式なら勝てるということで入部を目指す学生が増えたようです。硬式野球部がない進学校でずっと軟式に親しんできた選手が多いのも東大の強みでしょう」

東大の塩田兼任監督。「決定戦はプレッシャーがかかるが、ウチのやることは変わらない」

東大の塩田兼任監督。「決定戦はプレッシャーがかかるが、ウチのやることは変わらない」

13日に東大と慶大で優勝決定戦

7勝3敗同士で並んだ両校は13日、埼玉・戸田市営球場で優勝決定戦に臨む(午前9時半プレーボール)。

東大の松田副監督は「今日は引き分けでもいいということで守りに入った部分もあった。これで完全に並んでイーブンになったので、チャレンジャーとして向かっていく」と気を引き締める。

逆転で通算13回目の優勝を狙う慶大の佐藤監督は「今季は負けてもおかしくない苦しい展開の試合が多かったが、モノにしてきた。選手には『何も心配することなく思い切ってプレーをすればおのずと結果はついてくる』と話そうと思っている」と決意を語った。

(篠山正幸)


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