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神奈川・茅ケ崎 風、波、音にどっぷり 10hours pleasure

2011/10/20 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 昔ながらの街並み、近隣の人々が憩う緑地、しゃれた雑貨店、知る人ぞ知るレストランや和菓子店……。遠くに出かけなくても、身近なところに思わぬ発見があるもの。わずか10時間もあれば十分、ちょっと時間ができた時にあなたも出かけてみませんか。「THE NIKKEI MAGAZINE(日経マガジン)」(毎月第3日曜日発行、東京、神奈川、千葉、埼玉の宅配限定)で好評連載中の「10hours pleasure」で訪ねた東京都内や近郊の街を紹介します。

電車を降りると潮風に頬をくすぐられた。

東京駅から東海道本線で約1時間。茅ケ崎駅の改札を出るとこんがりと日焼けした若い女性とすれ違い、湘南に来たことを実感した。

湘南といえばやはり海。何はともあれ海岸を目指し、サザン通りを南下することに。しかし道すがら「サザンオールスターズ33周年おめでとう」の張り出しが目に留まり『エトアール洋菓子店』へ寄り道する。店長の古屋宣仁さん(48)はサザンの大ファン。洋菓子の詰め合わせは「勝手にシンドバッグ」、「チョコの海岸物語」とユニークなネーミングにして販売している。茅ケ崎の沖合にある岩礁、烏帽子岩の形を模したサブレをかじり再出発した。

茅ケ崎・柳島から藤沢・鵠沼海岸まで続くサイクリングロード。遠くに江の島が見える

茅ケ崎・柳島から藤沢・鵠沼海岸まで続くサイクリングロード。遠くに江の島が見える

9月の海はすでに秋の気配。日差しは強いものの海水浴場の開設期間が終わったビーチに人影はほとんどなく、海の家は解体作業中だった。駅前で借りたレンタル自転車でサイクリングロードになっている海岸線を走る。潮風にのって飛ぶトンボと追いかけっこ。海、空ともに青くとても爽やかな気分だ。


ひょうたんの奥深さを語る『Cross road』の高崎店長(写真上)。ワークショップではランプも作れる

ひょうたんの奥深さを語る『Cross road』の高崎店長(写真上)。ワークショップではランプも作れる

休憩がてら昼食にする。鉄砲道でペダルをこいでいると『Cafe Pipipi』というかわいらしい店を発見した。貝のような形のホットサンドはあつあつ、カリカリ。デザートにおすすめのフレンチトーストを食べ、まったり過ごす。食後、雑貨店『Cross road』へ。「湘南の暮らしに合う」(店長の高崎康二さん)生活雑貨等を扱う同店は、ひょうたんでカリンバやオカリナなどの楽器を制作するワークショップも開催している。この日は作れなかったが、「ひょうたんカリンバ」の心地いい音にひかれ、出来合いのものを購入した。

現在はおしゃれなカフェや雑貨店が点在する鉄砲道だが、1728年、江戸幕府が大筒の演習場として海岸一帯に設置した鉄砲場に沿っていたため、この名が付いたという説がある。

『網元料理あさまる』の気さくな店員(写真上)。「生しらす丼」は透明感があるシラスがたっぷり(1270円)

『網元料理あさまる』の気さくな店員(写真上)。「生しらす丼」は透明感があるシラスがたっぷり(1270円)

江戸時代、茅ケ崎には23の村があり農業と漁業が主体だった。明治時代後半になると海岸部で別荘を誘致、海水浴場が開設されて新たな町作りが始まる。9代目、市川団十郎や新派劇の川上音二郎らがこの地に別荘を構え、また多くの文化人が創作活動の拠点にした。映画界の巨匠、小津安二郎監督は老舗旅館『茅ケ崎館』を定宿にし、『東京物語』など数々の名作の脚本を執筆。作家、開高健は後半生を茅ケ崎で過ごし、その仕事場兼自宅は記念館として公開されている。

夕焼けが見たくて再び海へ。オレンジ色の空には富士山のシルエットが浮かび上がっていた。東には江の島、正面には相模湾という絶好のロケーションで近隣住民がジョギングや散歩を楽しんでいる。波音を聞きながら海辺での生活を想像してみる。

湘南でシラスが水揚げされると知り、夕食は『網元料理あさまる』へ向かう。朝捕れた生シラスがたっぷりの「生しらす丼」を頬張る。「秋シラスはこれからさらにおいしくなる」と店長の北村宗範さんが教えてくれた。

お目当ての曲を鑑賞できる『BRANDIN』。営業は金(20~23時)、土・日(13~18時)のみ

お目当ての曲を鑑賞できる『BRANDIN』。営業は金(20~23時)、土・日(13~18時)のみ

週末の夜なら食後に一杯やりながら音に身を委ねるのもいい。『cafe studio Sprout』や『BRANDIN』では店内にある60-70年代のロック・ポップスのレコードを自ら選んで聴ける。『BRANDIN』はオーナーの自宅1階を店舗にしており、1万枚のコレクションが整然と収まる棚は圧巻だ。

波とカリンバとレコードと……。心地いい音と風に包まれた1日だった。集まりだした常連客と音楽談議で盛り上がる。気が付けば夕方海で出合った月はだいぶ高くなっていた。 

[写真・文 善家浩二]

[日経マガジン2011年10月16日号]


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