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「打倒、金満クラブ」…サッカーFA杯、ストークの挑戦
サッカージャーナリスト 原田公樹

2011/4/22 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

4月18日、イングランド北西部にあるスタジアムには、長蛇の列ができていた。みんな、顔はニコニコ。夢の瞬間を見ようと、チケットを買うために朝から並んでいたのだ。

■陶器の町の誇りのクラブ

町の名はストーク・オン・トレント。人口約24万人の町である。炭鉱閉鎖や製鉄業の不振で、90年代に一時は廃れたが、地場産業だった陶器産業で盛り返した。現在では年間約5000万人が訪れる一大観光都市だ。

この町のもうひとつ自慢が「ポッターズ」。陶器職人を意味するこれは「ストーク・シティーFC」のことである。

日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、2008-09年からイングランド・プレミアリーグで戦っている。このストークが今季、FA(イングランド協会)カップでクラブ史上初めて決勝に進出した。陶器の里が、盛り上がらないわけがない。

■世界最初のリーグに参加したクラブのひとつ

ストークの歴史は古い。1863年に創設され、88-89年シーズンに始まった世界最初のフットボールリーグに参加した12クラブのひとつだ。当時のクラブ名はストーク・ランブラーズ。その後、他クラブと合併し、1925年から現在のストーク・シティーと名のっている。

由緒正しい歴史あるクラブなのだが、これまで栄冠はたったひとつ。1971-72年に旧ウェンブリー競技場での決勝でチェルシーを下した、リーグカップ優勝だけである。それ以外はずっと1部から3部リーグを行ったり来たりしていた。

それが今季のFAカップでは快進撃を続け、17日行われたウェンブリー競技場での準決勝でボルトンに5-0で大勝し、決勝進出を決めたのだ。

■決勝の相手はマンチェスター・シティー

その翌日、再びウェンブリー競技場で行われる決勝(5月14日)のチケットを買うため、地元ファンらが長蛇の列を作っていた、というわけだ。相手はマンチェスター・シティー。距離にして約80キロ。広い意味で隣町のクラブとの対戦だから燃えないわけがない。

そのうえマンチェスター・シティーといえば、アブダビの王族、マンスール殿下がオーナーを務める金満クラブだ。1シーズンの総収入は09-10年で1億5800万ポンド(約214億円)もある。

一方、ストークは2部リーグ時代の07-08年は1100万ポンド(現在のレートで約15億円)。プレミアへ昇格したその翌シーズンは激増したものの、5350万ポンド(同73億円)だった。

■資金力では勝てないが…

ストークの昨季のファイナンシャルリポートは公表されていないので、マンチェスター・シティーと同年の単純比較はできないが、規模の違いは歴然だ。

資金力では勝てないが、ピッチの上では負けない、というのが、ストークファンの目下のモチベーションである。

ストークが初めてFAカップ決勝へ進出した背景には、いくつかの理由がある。まず05年に地元の実業家、ピーター・コーツ氏が2度目のオーナーに就任したことだ。

炭鉱労働者の14人兄弟の末っ子として生まれたコーツ氏は、オンラインカジノ業で財をなし、いまでは英国の長者番付の上位20位以内に入る億万長者となった。

一時はアイルランドの企業体へ売却した、当時2部リーグだったストークを買い戻し、借金も返済。さらに選手補強のための投資を行い、最初のオーナー時代に解任した、トニー・ピュリス監督を再招へいした。

■オールドスタイルのサッカー

このピュリス監督は実にやり手で、わずか2年でプレミアへ昇格させた。今季でプレミア3年目だが、一貫してダイレクトプレーを重視する古いイングランドスタイルを続けている。

ボールを常に前へ運び、ゴール前へロングボールやクロスを蹴り入れる。ショートパスやバックパスでボール支配率を高め、クリエイティブに攻めるなんてことは一切ない。

2部から昇格すると、多くの指揮官たちは、選手を入れ替え、こうした近代サッカーへ進歩させようとするのだが、ピュリス監督は違う。

「ワンパターン」とか「つまらない」と批判されるが、このダイレクトプレーのスタイルは頑として変えない。今季リーグ戦は21日現在13位で、プレミア残留は濃厚だ。

■「ジャイアント・キリング」を起こすか

この手腕もさることながら、ピュリス監督の発言はやたら面白い。今季もアーセナルのベンゲル監督が、ストークの戦術を批判すると「ベンゲル? そんな男は知らないな。プレッシャーを感じているんだろ」と挑発。どんな質問にも歯に衣着せない言い方で答えるから、記者たちからは人気がある。

マンチェスター・シティーは世界の代表クラスを取りそろえた強豪だ。プレースタイルもパスをつなぐ超近代サッカーで、ストークとは対照的。もしオールドスタイルが、最新型を負かすことになれば、これこそFAカップ名物の大物食い「ジャイアント・キリング」が決勝で実現することになる。


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