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安藤美姫「教わるだけから卒業。曲選びもコーチと」

2010/11/24 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 選手にとって、コーチの存在は大きい。フィギュアスケートの安藤美姫(トヨタ自動車)はニコライ・モロゾフコーチについて、今季で5シーズン目になる。グランプリ(GP)シリーズの中国杯、ロシア杯で連続優勝、GPファイナル進出を決めた安藤。これまでは決めてもらうことが多かったそうだが、「今季からは曲選びからすべてコーチと一緒に相談して決めている」と言います。

最初についたのは門奈先生

 フィギュアスケートは8歳のときに門奈裕子先生の元で始めました。門奈先生がスケートでの夢を、スケートを好きになる気持ちを持たせてくれました。今、私のジャンプがあるのは、最初の先生が門奈先生だったからだと思います。

 続いて、小塚幸子先生(小塚崇彦選手の母)、佐藤信夫先生について、エッジの乗り方とか、スピンのポジションなどを教わりました。2人に習うことによってスケーティングのレベルも、得意にしていたジャンプに少しずつ追いついてきました。

 2005年5月からついたのはキャロル・ヘイス・ジェンキンス先生。彼女は、日本でつらかった時を支えてくれました。そして06年のトリノ五輪の後に、ニコライにつきました。

自分の意志でニコライに決める

 ジェンキンス先生までは母がコーチを決めていたけれど、ニコライは自分の意志で決め、初めて自分から動きました。当時、ニコライが指導していた荒川静香さん、特に高橋大輔選手のプログラムが好きだったんです。

 私が「あ、いいな」と思ったプログラムはほとんどニコライのもの。コーチしてもらえると決まったときは、うれしかったです。

 せっかく自分から振り付けてほしいと思った先生に習えているので、最初は無理しても頑張ろうと思いました。そうでないと成長できません。自分がその時にできる限りのものをやらないと、コーチも私が何をできるのか分からないですから。当時の練習後は全身筋肉痛でした。

 習い始めた時は、コーチに何も言えませんでした。もっとも彼もいろいろ我慢していたみたいですけれど……。それでも、信頼関係は自然に生まれるものです。先生を心から尊敬することによって、それが信頼につながっていきます。習って2年ぐらいして、何でも言える関係になりました。

08年の世界選手権を契機に何でも言える関係に

 きっかけは08年の世界選手権で左ふくらはぎを痛めてフリーの途中で棄権してしまったことです。ニコライは振付師・コーチとして有名になっていました。このため「(世界選手権で)棄権とか、とても悪い演技をしたら、コーチが恥ずかしいと思ったり、(私から)離れていってしまうのではないか」と思っていたんです。

 実際に棄権することになって、もうリンクに立つ資格はないんじゃないかと考えて、彼に「私はスケートをやめないといけないと思う」と伝えました。

 そうしたら「何で? この試合が最後じゃないでしょ。僕は君を見るって決めたから。五輪が君のゴールでしょ」と言われたんです。ニコライのこの言葉で吹っ切れました。ここから何でも話せるようになりました。

コーチ自身もヒップホップを習いに

 ニコライは多くの選手を見ていますが、1人ひとり対応の仕方は違っています。びっくりするくらいアイデアを持っているし、高橋選手がヒップホップを踊るときは、自分も習いに行っていました。

 そうすることによって選手を理解して、いいところを見つけて伸ばしてくれます。

 ニコライはアイスダンスの出身なので、自分で実際にステップを踏んでくれるので分かりやすいです。ディープエッジを間近で見る機会はそうないですから。

提案をイヤと思ったことはない

 最近、「スケーティングが上手になったね」と言われるのでとてもうれしいです。

 ジャンプに関しては、「私自身の中のタイミングが違う」と何となくモヤモヤした感じを持ってしまうことがあります。

 調子がいいように見えても、実際に滑っている自分は納得できないことがあります。ニコライからも「何が悪いのか分からない」って言われることもありますが、「(感触が悪くても)いいじゃないか」って励まされるだけで、リンクでは自信が持てますね。

 コーチを全面的に信じてやってきたので、ニコライの提案をイヤと思ったことはありません。ただ、1年目のSP(ショートプログラム)の「シェヘラザード」と2年目のSPの「サムソンとデリラ」は似た感じもあったので、こういう系統しかできないと思われたくないな、と思ったくらいです。

今季から曲選びなども一緒に

 今年のバンクーバー五輪のフリーで演じた「クレオパトラ」の振り付けをリー・アン・ミラーに頼んだのはコーチの提案です。

 「今まで滑ったプログラムの中で一番好きなのどれ?」と聞かれて、「火の鳥」と答えたら、それを振り付けたリー・アンのところに。

 最初は不安でした。やっとニコライといい関係が築けたと思っていたのに……。「新しい風がほしい。今の美姫だったら、僕じゃなくてもいいプログラムを作れるから」と言われました。今、振り返ると、結果的に良かったと思います。

 今シーズンから、曲選びからすべてニコライと一緒にやっています。ニコライが私の意見も取り入れてくれるようになってきたので、一緒に考えていく作業は楽しいですね。

 SPはヒップホップ調のナッシン・バット・ストリングスの曲。「この曲、好きなんだけれど」と言ったら、それに決まりました。私がリンクで遊び半分で踏んでいたステップも取り入れてくれました。

振り付けに手をつけるのが遅かったが…

 フリーは「クラシック音楽で」とだけ希望して、お任せしました。そしてニコライが決めてくれたのがグリーグ作曲の「ピアノコンチェルト」です。

 実は振り付けは8月になっても手をつけていませんでした。いつもと比べて、かなり遅いです。でも、「美姫なら2週間も滑り込めば大丈夫」って言われ、ニコライが言うなら大丈夫かなって思えます。

 それでも、ニコライが時間通りに来なかったり、急な予定変更があったりして、戸惑うこともありました。スケジュールが組めなければ、費用がかさんでしまうことがあります。

すべては選手のため

 でも、もう5年目。少々のことでは驚きません。「自分は(ニコライに)ついていくしかないな」って思っています。

 彼は周囲の目を気にしません。気にせずに思ったことを口にして、たまに批判を浴びてしまうことはありますけれど、自分を信じて、仕事に誇りを持ってやっているところはスゴイと思います。

 「ここはグッとこらえて、丸く収めてね」と思うときもありますが、すべて選手のために言ってくれているんです。


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