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その買い物、なかったことに 後悔した時の解約術

2014/3/29付
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 新年度に入り生活が変わる4月は、いろいろ買い物がしたくなる時期でもある。語学の学習や美容系のサービスなどを新たに契約する人は少なくない。でも、勢いに任せて高額な契約を結ぶのは失敗のもと。しまったと思ったら解約も選択肢だ。速やかに手続きをすれば、全額が戻ることもある。

「やっぱり納得できない」。都内に住む20代の女性A子さんは最近、エステティックサロンの無料体験を利用した。店舗でサービスが終わり、現れたのは3人の営業担当者。あまりにしつこい勧誘に根負けし、約30万円の利用契約にサインしてしまった。

■クーリングオフを

しつこい勧誘やその場の勢いで高額な契約を結ぶのは失敗のもと

しつこい勧誘やその場の勢いで高額な契約を結ぶのは失敗のもと

家に帰り、もやもやした気分が怒りに変わったA子さんは解約を決意。手続きをすると、間もなく全額が戻ってきたという。「初めは不安だったが、意外と簡単にお金が戻ってきた」と振り返る。

A子さんが利用したのはクーリングオフと呼ばれる制度。消費者が契約日から原則8日以内に手続きをすれば、無条件で契約がなかったことにできる。商取引では通常、契約をすると、約束を守らなければならない。だが不意打ち的な勧誘による被害から消費者を守る目的の「特例」との位置付けだ。

対象となる取引は大きく2つに分けられる。まず、不意打ち的な契約につながる訪問販売や電話勧誘、街で声をかけるキャッチセールスなどの営業手法によるもの。家を訪問して強引に貴金属を買い取る「押し買い」なども該当する。この場合、購入した商品や契約の内容は問わない。

もう1つがトラブルが起きやすいとされる特定の業種だ。エステティックサロンや結婚相手紹介などは営業手法に関係なくクーリングオフの対象となる。ちなみに金融商品などでもクーリングオフの対象となるケースがある。

手続きは難しくはない。期限内に契約を解除したい旨を明記した文書を契約相手の業者に送ればよい。相手に届かなかった場合に備え、簡易書留や内容証明郵便など、送った証拠が残る方法を使おう。費用は郵送料の数百円程度で済む。送付した文書はコピーをとり、契約書などとともに5年間保存しておく。

クーリングオフは消費者にとって非常に有利な制度といえる。文書を送れば「大抵のケースは契約が解除され、お金も戻ってくる」(国民生活センターの市川結理氏)。商品を使ったりサービスを受けたりしていても、消費者側の負担はほとんどない。例えば訪問販売で太陽光発電設備を設置する契約をし、工事が始まっていても、期間内に手続きをすれば無料で工事前の状態に戻してもらえる。

■通販などは適用外

もっとも「クーリングオフの対象については誤解している人も多い」と消費者トラブルに詳しい行政書士の吉田安之氏は話す。例えば通信販売ではクーリングオフが適用されないのに、販売元に要求する人がいるようだ。一部に「返品無料」を掲げる販売会社があるためだが、これはあくまで企業側のサービス。クーリングオフとは全く違う。また、インターネットの回線契約のように、制度の対象にならない取引もある。

自分の取引が該当するか分からない場合は専門家に確認しよう。消費生活センターなどが無料の相談窓口を開設している。手続きの仕方についても助言してもらえる。クーリングオフの手続きは原則契約から8日間。迅速な手続きが必要だ。

クーリングオフの期間を過ぎると無条件の解約は難しくなる。だが、あきらめるのはまだ早い。業態によっては途中で解約して、お金を取り戻すことができる。

中途解約が認められるのはエステや語学教室などの6業種。基本的に継続してサービスを受けることが前提となる契約だ。実際に利用して、期待した成果が得られない場合などを想定している。解約の手続きはクーリングオフと基本的に変わらない。解約したい旨を文書にして、業者に証拠が残る形で送付すればよい。

ただし、クーリングオフのように全額取り戻すのは困難だ。返金額は未使用のサービス代相当で、入会金や塾のレベル判定テストなどの初期費用は原則として返金されない。さらに一定額の「違約金」を業者側が請求できる。そのため「返金額にがっかりする人もいる」(国民生活センターの市川氏)という。

クーリングオフや中途解約の手続きは難しくはない。ただ、正確に書類を作成する自信がなかったり、業者との交渉に不安を抱いたりする人もいるだろう。手続きをする時間の余裕がないこともある。そうした場合は行政書士に頼むのも一案だ。

行政書士は公的な文書の作成や手続きを代行するのが主な業務。クーリングオフや中途解約では文書の作成から郵送まで作業全体を代行することもある。料金は内容にもよるが、数千円から2万~3万円になるケースが多い。手続き後の返還額などを勘案し、依頼する内容と料金を相談して決めるとよいだろう。

買い物では、いつも失敗する可能性がある。それだけに「契約時に解約の条件も確認しておくべきだ」と、行政書士の吉田氏は指摘する。通常は契約書に解約についての記載がある。解約ルールも契約の1つ。疑問点は事前に解消し、不満があれば契約をしないのが正しい判断だ。(長岡良幸)

[日本経済新聞夕刊2014年3月25日付]


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