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上品・知的だけじゃない お茶の水大、女性リーダー育む

2014/2/9 7:00
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日本経済新聞 電子版

 お茶の水女子大学(東京・文京)は1875年(明治8年)に東京女子師範学校として創立以来138年間、女性リーダー育成を教育方針に掲げ、多数の有能な人材を輩出してきた。女性の社会進出が広がる中で、女子大へのニーズは変化している。男女協働の時代に求められる女性リーダーの育成をめざす“老舗女子大”に焦点を当てた。

 「共同生活なんだから黙ってちゃダメ」。文教育学部2年の二ノ宮まりさんは、後輩にまず、こう声を掛ける。3年前にできた学生寮「お茶大SCC」での光景だ。

 寮生は50人。1つの部屋を5人がシェアして暮らす。ベッドや勉強机は個別の空間が確保されているが、テレビを見たり食事をしたりするのは5人共同のスペースだ。共同生活を始める当初は各人が思う「常識」の違いに戸惑うことの連続だ。

 かつての古めかしい学生寮が敬遠される中で、お茶大はあえて新たな形式の学生寮を設けた。「寮生活がリーダーシップへの最初のチャレンジの場になる」(学寮アドバイザーの北沢泰子さん)と考えたからだ。

 「真面目で優秀だけどおとなしい」――。お茶大生の自己評価は外部の印象とも重なる。リクルート進学総研の女子高校生調査でも「上品で、知的で、落ち着いた」イメージが定着している。

 逆に、組織を切り盛りしたり、自己主張したりする印象は薄い。お茶大生も半数以上は卒業後に社会に出て働く。「真面目で優秀」なだけではリーダーになれない。

積極的に主張

 寮での共同生活は積極的に自己主張する第一歩。上級生が下級生の意見を聞き、生活のルールを作る中で、意見を調整する能力も磨かれる。

 授業にも卒業後を見越したリーダー教育の工夫が随所に施されている。

 「三菱商事のOG懇談会に行ってきました」――。履修者の多くが1、2年生の「キャリアプランとライフプラン」の授業では、3年生の就職活動と見間違うような「企業研究」をしている。

 出席者は11人。輪を作り質疑が始まる。担当の望月由起特任准教授も加わり、問題を提起する。「女性の働きやすさについて、三菱商事の担当者は何か言っていた?」

 「女性社員は多いって言っていたけど、正面から答えてなかったなあ」、「深夜に会議があるって聞いた」、「タフさが必要だって」。次々に手が上がり議論が続く。

 授業の目的は実社会とのつながりを学生に意識させること。卒業生や企業の協力も得ながら、早い段階から自分のキャリアを意識していく。

 単なる早めの就活というわけではない。お茶大生は厳しい受験競争の勝ち組だ。高校までは選択肢から正解を選ぶ能力を磨いてきた。「でも、社会で必要なのは複眼的な見方。正解ありきではない。女性リーダーになるには、この壁を破らなくては」(望月特任准教授)。1年生からのキャリア教育は女性リーダー育成の入口機能も果たす。

専攻以外も学ぶ

 専門教育の方法も変えた。昨年4月に3年生になった学生から、専攻以外の領域も選べる制度にした。例えば、社会学専攻でも歴史や文学の専門教育を受けられる。文教育学部の学生の約4割が専攻以外の授業を選ぶ。

 なぜ、専攻以外の専門教育が必要なのか。社会で活躍するには「複数の方法論を知ることが大事」(耳塚寛明副学長)と考えたからだ。専門を究めたい学生は大学院に進学すると割り切り、4年で卒業する多くの学生向けに社会で役立つ能力開発を重視した。

 お茶大の1学年の定員は452人。東京大学の6分の1、早稲田大学の20分の1でしかない。少人数ゆえに力を注ぐのが、学生の海外派遣だ。2016年度までに留学者数を年500人にする目標を掲げ、交流協定を結ぶ海外大学を増やしている。次世代リーダー育成に向け、学生1人1人のグローバル化を図る。

 男女協働が強調される時代に、女性だけの教育は有効なのか。羽入佐和子学長は「4年間、男性の目を気にせず、自分の意見を主張することに抵抗がなくなる」という。

 サークル活動や文化祭の準備でも、すべてを女性だけでこなす。男性がいればやってくれそうなテント張りや重たい荷物の運搬も、女性だけでやる。男性に甘えず、自立心を育む機会は共学ではなかなか得られない。

 その中で生まれる女性リーダーについて羽入学長は「強い権力で引っぱるだけがリーダーシップではない。周囲と調和しながら、時代を作る役割を果たすリーダーシップもある」という。

 お茶大出身で女性人材の紹介などを手掛けるコラボラボを創業した横田響子さん(99年卒)は「自分がやりたいことを目指した結果が経営者だった」と語る。その言葉に力みはない。

 授乳服を開発し、モーハウスを創業した光畑由佳さん(87年卒)も「お茶大には女性も自分で食べていくのが当然という雰囲気がある。その空気を吸った結果が起業という選択につながった」という。起業家だけでなく企業や官公庁でも、お茶大流のしなやかなリーダーシップを発揮している卒業生は多い。

咲くか 女子大ルネサンス

 女子大の置かれている環境はかつてないほど厳しい。18歳人口は10年後までに1割以上減る見通し。早稲田大学や明治大学など大規模共学校は女子の取り込みに本腰を入れており、女子大の領域を脅かしている。じり貧となる危機を前に、自らのあり方を変えようとする「女子大ルネサンス」の現状を追った。

 全国的なブランド力を誇るお茶の水女子大は、都内の他の私立女子大からは羨望の的だ。国立大学であるお茶大の学費は年53万5800円。100万円前後必要な私立大学との差はなお大きい。入試難易度を示す偏差値(河合塾、以下同じ)は57.5~65.0と私立女子大の多くを突き放す。

下がる偏差値

 かつてお茶大と並ぶ難関女子大とされた津田塾大学は偏差値の低下に苦しんでいる。学芸学部英文学科A方式の偏差値は20年前の62.5から55.0に低下した。

 「大規模大学が学部を増やすなどで、女子学生を取り込んでいる。その影響が大きい」(学長補佐の新本史斉教授)。競合する青山学院や立教などが学部学科を新設、改組するなか、津田塾大学は従来の学科をほぼ変えずに維持してきた。新本教授は「教育の中身は多様になったのだが……。なかなか、伝わり切らない」と浮かない顔だ。

 リクルート進学総研が女子高校生を対象に調査した「志願したい大学」のランキング。上位から明治、立教、早稲田、青山学院と共学校が続く。女子大は資格の取れる学部が多い東京家政大学の14位が最上位。多くは大規模な共学校の後じんを拝している。

 女子大の人気回復に向けたウルトラCは共学化。成功例とされるのはかつて女子の単科大学だった武蔵野大学だ。

 武蔵野女子大学から改名し、04年に共学化した。学部の新設を繰り返し、14年度には法学部も設置する。文学部だけだったのが、9学部を持つ総合大学に変貌。2年前には東京・有明に都市型キャンパスも新設した。

共学化広がらず

 受験者数は女子大最後の入試だった03年度から10年間で3倍に増えた。「男女共同参画社会では、教育の現場も女子のみでなく、共学の環境の中での教育が望ましい」(落合恒企画部長)と共学転換の意義を示す。

 もっとも、共学化に都内で追随する動きは見えない。多くの女子大は女性教育に力を注いだ創設者の教えの流れを引いており、経営上の問題だけでは動きにくいという事情もある。

 女子大が生き残るすべはないのか。昭和女子大学の坂東真理子学長は7年前の就任以来、イメージの転換を図ってきた。「かつては『お嫁さんにしたい女子大トップ』だったが、今、目指しているのは『会社が採用したい女子大トップ』だ」

 企業の総合職にも多くの女性が進むようになった。社会が求める女性像が変わるのに合わせ、13年度にはグローバルビジネス学部を新設した。「グローバル化を担える人材は男性でも少ない。能力を身につければ女性でも活躍の場を得やすいはず」。坂東学長の就任前の07年度一般入試の受験者数は約5700人。13年度は1万人弱にまで増え、結果も伴ってきた。

 「女子大が生き残るためには、もっと学部のバリエーションを持たないとダメ」と指摘するのは大学通信の安田賢治常務。各校とも学部名を改称するなど工夫するが、文学部と家政学部に端を発した学部が中心であることは変わらない。

 理工系を学んだ“リケジョ”や国際教養を学んだ女性への社会のニーズは高いはず。祖業に執着し、時代とのズレを埋める努力に努めなければ、やがてブランドも色あせる。次世代の女子大像の模索へ、ルネサンスへの動きはまだ始まったばかりだ。

都心回帰 起爆剤に

実践女子大学は志願者が急増(新設した渋谷キャンパス)

実践女子大学は志願者が急増(新設した渋谷キャンパス)

 人気回復を目指す多くの女子大が模索しているのがキャンパスの都心部への新設、回帰だ。

 実践女子大学は今年、渋谷に新キャンパスを建設した。中学、高校の敷地を整理し、用地を捻出、総工費は90億円に達した。

 もっとも、年間予算80億円の学校法人には過大な投資だ。5年前に計画がまとまり、計算をしてみると、借金がどうしても返せない水準だった。

 運営する実践女子学園の井原徹理事長は教職員を前に「お願い」をした。「今を優先して、将来を危うくしたくない、協力してくれないか」――。4年間をかけ、教職員の年間一時金の水準を引き下げた。まさに身を切る決断で、新キャンパスに将来をかける。

 最近の学生は郊外よりも人が集まる都市型キャンパスを好む傾向が強い。実践女子には早速、「渋谷効果」が表れている。2014年度入学生の一般入試で、渋谷での受験を希望する受験生が殺到。受け付け開始からわずか1週間で定員に達してしまった。渋谷に移転する文学部英文学科の志望者数も昨年の入試の1.5倍に膨れあがった。

 大妻女子大学も千代田キャンパス(東京・千代田)を増改築中。家政学部と文学部の1年生が学んでいる狭山台キャンパス(埼玉県入間市)の機能を統合し、15年度の入学生からは4年間一貫して千代田キャンパスで学ぶようにする。

 「狭山台に1年通うことが受験生にはプラスにとらえられていない。このままでは受験生確保が厳しくなる」(荻上紘一学長)。千代田キャンパスの増改築がさらに進めば、もう1カ所の多摩キャンパス(東京都多摩市)に置く学部の一部を、千代田に移転する検討もしているという。

 日本女子大学も活性化策として、西生田キャンパス(川崎市)の目白キャンパス(東京・文京)への統合を検討中だ。西生田の人間社会学部の機能を目白に移転する。「教職員を集中し、一丸になって力が出せるようにしたい」(大場昌子副学長)という。

 もっとも、人気はキャンパスの都心部への集中だけでは持続しない。07年に神田一ツ橋キャンパス(東京・千代田)に機能を集中化した共立女子大学。全学部の一般入試(センター試験利用選抜を含む)の受験者数を合格者数で割った合格倍率は、07年度の入試では3.2倍だったが、13年度入試は2.4倍まで低落した。

 実践の井原理事長は「渋谷効果は3年で消える」と言い切る。その上で、渋谷に移る学部が抜けた日野キャンパス(東京都日野市)に教育系の学部新設を検討する。学生寮や保育施設の誘致も考え、共学の大学にない魅力作りを模索し続けるとしている。

 杉本晶子、宇野沢晋一郎、白山雅弘、若狭美緒が担当しました。

[日経産業新聞2014年2月7日付]


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