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街中の小鳥居、関西から全国へ 立ち小便防止が起源
「神様には畏れ」町人の知恵

2014/2/2 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 京都の街を散策中、町家の壁に小さな鳥居が取り付けられているのに気付いた。どんな神様を祭っているのか、はたまた何かのおまじないだろうか。調べてみると、関西一円での慣習といい、近年は全国各地でも見ることができるようだ。何の目的で小鳥居が広がったのか。

地下鉄駅のホームに張られている「小鳥居」(京都市下京区)

地下鉄駅のホームに張られている「小鳥居」(京都市下京区)

 この小鳥居、大きさや設置の仕方は様々だ。路地裏や電柱などに設置したり、駐車場の壁にいくつも描いたり。京都市営地下鉄のホーム端の階段裏にも絵が張り付けてある。共通するのは、いずれも腰より下の低い位置にあるというぐらい。

 京都の文化に詳しい仏教大学の八木透教授(民俗学)によると「不心得者をけん制するためです」。実は「立ち小便の防止用」だった。迷惑行為に悩む住民が「鳥居を汚すような罰当たりな振る舞いはためらうだろう」と考えついたという。「単なる注意書きを張っても逆効果になりかねません。町人の知恵と遊び心でしょう」と八木教授。

■明治以降の慣習か

電柱に取り付けられた「小鳥居」は、実は立ち小便を防止するため(京都市東山区)

電柱に取り付けられた「小鳥居」は、実は立ち小便を防止するため(京都市東山区)

 古い慣習だろうか。伝統建築が専門の京都美術工芸大学の丸山俊明教授は「明治時代以降のものでは」とみる。江戸時代、排せつ物は肥料として売買され、収集のため街角に公衆便所として桶(おけ)が置かれていた。明治になると衛生面の問題から撤去されたため、街角で用を足す輩(やから)が急増したそうだ。

 こうした小鳥居は住民の手作りが多いようだが、由緒正しい「本物」を使う例もある。伏見稲荷大社(京都市)の参道にある鈴屋・尾崎神具店では参拝者が奉納するための小鳥居を扱うが、「何十年も前から自宅の前に取り付けるために購入する方が結構います」(販売担当者)という。

 大阪など関西一円でも広く見られる。「京都では古い街並みの中で残っているので、目を引きやすいのでしょう」と丸山教授は推察する。

 小鳥居を設置して迷惑行為を防ごうという動きは近年、全国各地でも広がってきた。狙いは京都と異なり、ごみの不法投棄防止だ。

 山形県では2008年から2市3町を管轄する庄内総合支庁が導入した。「監視カメラの併用で一定の抑止策になっている」(同支庁庄内環境課)。長野県伊那市も06~13年度の8年間で計78基を山間部や駐車場などに設置した。

 さいたま市のベンチャー企業、ニューマテリアルは鳥居を模した木製品を「ごみよけトリー」と名付けて03年に売り出し、これまでに全国約100の市町村や13の官庁などに約5千基を納入した。加藤祥司社長は「京都の習慣は全く知らなかった。当初は十字架や地蔵などにするアイデアもあった」と説明する。

■神社側は厳しい目

 こうした活用策について全国約8万の神社を統括する神社本庁は「鳥居は本来、神域の表象物。設置している人は神聖なものだと受け止めているのか」と厳しい目を向ける。伏見稲荷大社は「正直困っていますが、禁止もできない。仕方ないです」とあきらめ顔を見せる。

新潟県見附市では不法投棄根絶を願い、住民らが設置している(市民生活課提供)

新潟県見附市では不法投棄根絶を願い、住民らが設置している(市民生活課提供)

 もっとも、設置するのは迷惑行為に悩み、神様にもすがりたい人々だ。「誰もが神様には畏敬の念を抱くはず」との思いがあるからだろう。新潟県見附市では住民らが過去3年間で約20基を設置。児童らがしめ縄をつけて不法投棄が絶えるよう願った。市の担当者は「市民からも好評。今後も続けたい」と話す。

 むしろ気になるのは霊験が通じなくなりつつある現状だ。伊那市の担当者は「当初は目に見える効果があったが、知名度が高まるにつれてやや効果が薄れてきた」と悩む。ある官庁は「効果があるのは設置直後だけ」とみて、新設をやめたという。

 「小鳥居は人々の信仰心をくすぐる知恵です」と八木教授は指摘する。不心得者はいないか、街の片隅でにらみをきかせる小鳥居。心の中で手を合わせ、何か粗相をしていないか、自らに問い直したい。

(大阪社会部 堀部遥)

[日本経済新聞大阪夕刊関西View2014年1月28日付]


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